第13話 近寄り難い場所に漂う謎の空気の正体 ~信長にまつわる体験03~

文字数 1,779文字

どうにも「近寄り難い」と感じる空気の場所がある。
そのような経験をしたことがある人も多いだろう。その場所の持つエネルギーのようなモノの影響だろうか。
じつは、この「場所のエネルギー」に関する不思議な体験をしたことがある。

これは、前回「信長と新城の五平餅(第12話)」の時の出来事である。

新城でクルマを走らせていた私は、途中「道の駅」に寄った。
わりと大きな「道の駅」で、地元産の野菜や土産品などが売られていた。

ひと通り店内を見ると、「そうだ、トイレに寄っておこう」とふと思った。
帰りの道のりも長い。ここでトイレは済ませておいた方が賢明だろう。
私はトイレへと向かった。

ところが、ここでとんでもない出来事が起きた。

トイレに一歩足を踏み入れた途端……

――えええっ!こ、これは、なんだ!

怖ろしいほどの禍々しい空気を感じた。
目には見えない謎の圧迫感。
まるで重たい空気の塊がのしかかってきたかのようである。

「あ、有り得ない……」

このような重い空気の中に居座ることなど出来まい。
すぐさま踵を返しトイレから立ち去った。
しかし、すぐに、ふと別の思考が働いた。

「いやいや、トイレはここで済ませた方がよい」

確かにそれも一理ある。
それに、この重たい奇妙な空気の『正体』を突き止めたい気持ちもある。

引き返し、もう一度トイレに一歩足を踏み入れてみた。

すると……

――うっ!……や、やはり!

再び禍々しい重い空気がのしかかってきた。

「これは、マジでおかしい……」

これほどまでに強烈に重い空気を感じたのは、初である。

ところが、周囲を見渡すと、不思議なことに他の人たちは普通に用を足している。
とくに何も感じていない様子である。

――え?俺だけ……なのか?

とりあえず、この重い空気の中、私はどの場所を選ぶべきか考えた。
トイレ内は「手前の壁側」と「奥の壁側」に二分されていた。

「奥の壁側は絶対にあり得ないな……」

禍々しい空気が「奥の壁側」の方が激しく、「手前の壁側」は幾分ましな気がした。
私は「手前の壁側」を使うことにした。
次は「手前の壁側」のどの場所にするのかを選ぼうと……したところ…‥

――あれ?不思議だな……

不思議なことに「手前の壁側」の一ヵ所だけが空気が澄んでいるように感じる。
トイレ全体が重たい空気に包まれているというのに、そこだけ一ヵ所ポッカリと空気が澄んでいる場所があるのだ。

「よし、あの場所にしよう」

私は一ヵ所だけ空気の澄んでいる、その場所を選び、そこに立った。
やはり、なぜかその場所だけは、心が落ち着き、妙にしっくりくる。
そうである。妙にしっくりくるのである。

「不思議だな、どうしてこの場所だけ落ち着くのだろうか……」

と思いつつ、ふと見ると、ここで驚くべきことが起きた!
私が目をやった先には、こう書かれていた……なんと!

――『織田信長』

なんとも「織田信長」と書かれた金属プレートが飾られていた!



「え?なんだ!これは!」

どういうわけか、そこはとても変わったトイレだった。
各々の便器に戦国武将のプレートが飾られているのである。

周囲を見ると、「羽柴秀吉」「徳川家康」などのプレートがあった。
さらには、私がより禍々しい重たい空気を感じた、「奥の壁側」には「武田信玄」などのプレートがあった。

どうやら、「手前の壁側」が「織田軍」、「奥の壁側」が「武田軍」となっているようだ。

――なるほど……

私が、「手前の壁側」を選び、さらに一ヵ所だけ空気が澄んで感じた場所を選んだ理由がこれで明らかとなった。

トイレ全体が禍々しい重たい空気の中、私が唯一しっくりきた場所が、なんと!

――「織田信長」の場所だったのである!

この時点では、「変なトイレだな」くらいにしか思わなかった。

しかし、この後、この場所が「長篠の合戦」の跡地と知り、このトイレは「長篠の合戦」の「織田軍」と「武田軍」を模した配置のトイレだったと判った。

先祖が信長と関係があった私は、感覚的にも「手前側の壁」「織田軍」を選び、さらに「唯一しっくりくる」として「織田信長」の場所を澱みなく選んでいたのであった。

叔母から「私の一族は信長と縁がある」と聞かされていたが、まさかトイレという思わぬ場所で、思わぬ形で、それを自らの体感を通じて証明することとなってしまったわけである。

――このようなことが現実に起こるとは……

まさに「事実は小説よりも奇なり」である。



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