第48話 自然現象がメッセージを  ~メタルバー~

文字数 1,599文字

自然現象がメッセージを運ぶことがある。
不思議なことに、風や雲といった自然の力が必要な情報を届けてくれるのである。
これにはとても驚き神妙な気持ちになる。
あの時も、まさにそうであった。

九州滞在時のこと。
福岡天神にメタルバーなる場所がある。
メタルとは金属ではなく、ヘビーメタル音楽のこと。
すなわちメタルバーとはメタル音楽が流れるバー。
その存在を知ったのは天神の楽器店だった。

その日、楽器店で、ライヴ用のギターを探す為、ギターの試奏をさせてもらっていた。
もちろん、普段から弾いているメタルの曲を弾いていた。

傍にいた店員氏が話し掛けてきた。

「福岡にはメタルバーがありますよ」

私がメタルの曲を弾いているので、メタル好きと見て教えてくださったのだろう。
なんでも、

――『福岡のメタルの聖地』

と言うべき、大迫力の音量でメタルを聴けるバーがあるとのこと。
大のメタル好きの私には、とても興味深い場所である。

「一度、行ってみられたらいかがですか」

店員氏は、メタルバーへ行くよう薦めてくれた。

ところが……

じつは、私はアルコールを一滴も飲まない。
飲めないわけではないが、主義として飲まない。

バーと言ってもソフトドリンクくらいは置いてあるだろう。
さして問題はない。

しかしながら、普段から飲まない私には「バー」と名の付くところに行くのは、多少なりとも抵抗があった。

――メタルバー

かなり気になる……

ところが、そこに驚きの出来事が起きた。

翌日。
地下鉄の駅から地上へ出てきたところ、ふと路上に目をやった。
風で飛ばされてきたのだろうか。
なにやら文字が書かれた小さな板が、足元に落ちている

「ん?なんだろう、これは……」

少しばかり顔を近づけて見てみた。

――えええっ!こ、これは……

思わず、驚きの声を上げそうになった。
その板に書かれた文字とは……

なんと!

――『メタルバー』

なんとも「メタルバーの看板」だった!
どうやら、どこかに紐で括りつけてあったらしい。
強風に煽られ紐がほどけ、偶然にも、私の足元に転がっていたのである。

「ま、マジか……」

昨日、メタルバーの話を聞き、今日、風で飛ばされたメタルバーの看板が足元に……

なんという偶然の出来事だろうか。

これでは、まるで……

――「メタルバーに行け!」

と言わんばかりではないか……

さすがに、この出来事から、メタルバーなる場所へ行ってみることにした。

「うむ、行ってみよう」

その足で、メタルバーへと向かった。

実際、メタルバーはとても良い場所だった。
メタル好きには、まさに究極の聖地というべき場所。

ドイツ製の高性能スピーカーから流れだす大迫力サウンドは最高。
リクエストにも応えてくれて、自分の好きな曲を流してもらえる。

アルコールを飲まずとも、メタル好きであればソフトドリンクでも十二分に酔いしれることが出来きる200%楽しめる素晴らしい空間であった。

こうして福岡に、また1つお気に入りの場所が出来た。

しかしながら……

この場所に辿り着いた経緯を考えると、かなり驚愕である。

楽器店の店員氏からメタルバーの存在を知った。
そのすぐ翌日、風で飛ばされてきたメタルバーの看板を目にした。
風の強い日である。
少しでもタイミングがずれていたら、看板はさらに飛ばされ気づくこともなかったはず。

さらには、もしも看板が裏向きに落ちていたらどうだろうか。
顔を近づけて、裏返してまで文字を読むことは、まず、ない。

たまたま強風の日、たまたま看板が飛ばされ、たまたま表向きに落ち、たまたまそのタイミングで私が通りがかった、ことでこの偶然の一致は成立する。

驚愕である……

風という自然の力により起きた偶然の一致。
これには、驚き、神妙な気持ちになった。

ひょっとすると、この出来事には人知を超えた何かが働いているのだろうか。
ふと、そんなことが思い浮かんだ。

それにしても……

――風がメタルバーを運んでくるとは……

まさに「事実は小説よりも奇なり」である。



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