第37話 『因果応報』    ~10年前の出来事が巡り巡って~

文字数 1,239文字

「因果応報」という言葉がある。
これは「過去に自分のしたことが巡り巡って、現在の自分に還ってくる」こと。
この因果応報に関して、驚くべき事実を目の当たりにしたことがある。
これには本当に驚かされた。

それは知人との会話でのこと。
知人は仕事のことで、部下の一人と衝突していた。
なんでも、その部下が「上司である知人の立場を考えずに行動するので困る」とのことだった。

新参者の部下は、当然、部下としての視点しかなく、上司の立場や苦労は見えない。

「あぁ、なるほどね。それは大変だな」

私は知人の言うことに納得しつつも、なぜか少しばかり違和感を覚えていた。

――妙だな、どこかで聞いたような話だ……

どういわけか、なぜかどこかで聞いたような話だと感じるのである。

私は、古い記憶を辿ってみた。
すると……

――あっ!

「ちょっと待て、その話!」

私は重大な事実を思い出した!

それは10年前のこと。
この知人と話していた時の記憶だった。

その時のコトを知人が覚えているか尋ねてみた。

「昔、君が上司Aにしたこと覚えている?」
「え?上司Aに?」

知人は少し首をかしげた……
が、すぐに気がついた。

――あああっ!

そうである。
なんとも、10年前、知人がまだ新参者だった頃、知人も上司と衝突をしていた。

それが、現在、部下がしていることと、全く同じことを当時の上司に対して、知人もしていたのである!

それを偶然にも、たまたま私が覚えていた。

「君も昔同じことやっていたよな」
「た、確かに……」

どうやら知人も完全に思い出したようである。

――まさに因果応報

10年も前の話を、偶然、私が覚えていてことで発覚した事実。
これには知人も驚きを隠せなかった。

ふと感じたことを知人に伝えてみた。

「あの時の上司Aも今の君と同じ気持ちだったかもな」
「あぁ、なるほど。その通りだ……」

当時、新参者だった知人も10年の歳月が流れ、現在は上司となっている。

「部下」であった知人は「上司」になった。

知人は「する側」から「される側」になり、はじめて、当時の上司の気持ちを理解することが出来たと言っていた。

当時の上司には、大変失礼なことをしてしまい申し訳なかったと、知人は深く反省していた。

「過去に自分のしたことが巡り巡って、現在の自分に還ってくる」

見事なまでの因果応報である。

因果応報と聞くと、何やら罰が下ったと思うかもしれない。

しかし、それは本当はだろうか……

知人はかつての上司に自分がしたコトと、同じコトを現在の部下にされた。

これにより、知人は初めて当時の上司の気持ちを理解することが出来た。
つまり、上司の立場に立って考えることが出来るようになった。

さらには、当時の上司に失礼なことをしてしまった、と反省にも至った。

これは明らかに、人としての成長。

だとしたら因果応報とは、本当は「過去の自分を改める成長の為の大切な機会」なのかも知れない。
ふと、そんな考えが思い浮かんだ。

それにしても……

――10年を経て自分に還ってくるとは……

まさに「事実は小説よりも奇なり」である。


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