第9話 運命のビビビ ~時を超えた人と人との繋がり~

文字数 1,610文字

「ビビビ」という言葉がある。
なんでも「運命の赤い糸」で結ばれた相手と出会うと、その瞬間、雷に打たれたような電流が身体中に駆け巡ると言うのである。
その時の音や体感を現わしたのが、この「ビビビ」である。

「本当にそんな電気が流れるのだろうか」

誰もが疑問を感じることだろう。
しかし、私は人生において2度、この「ビビビ」体験をしたことがある。

あれは、じつに不思議な体験だった……

これは20代の頃の話。
私の友人の一人が職場の人たちと食事会を開くとのことで、私も招かれた。
居酒屋の座敷の奥の長机の端の方の席に座り、私は友人たちとの会話を楽しんでいた。
たまたま、座った席がRock好きの友人が集まっていた為、Rockの話で盛り上がった。
私は右隣りの友人の方を向き、Rock話に夢中になっていた。

ところが、あまりにも話に夢中になっていた為、自分の「左隣には誰が座っている」かさえ知らなかった。

そして、丁度、話に区切りがつき、ふと左隣に目をやった時のことだった。

――あっ!

驚きに思わず息を飲んだ。
左隣には、面識のない女性が座っていた。
その女性を見た瞬間、身体中に電流が走った!
こ、これは……。

――「ビビビ」である!

1つ目に、いきなり電気が流れ、身体が痺れたことに驚いた。
本当に感電したかのようなバチバチとわりと大きな電流だった。

――本当に電気が流れるんか!

2つ目に、その女性を見た途端、不思議な感覚が呼び覚まされたことに驚いた。

――君、ここに居たのか!

心の奥底から、この言葉が浮かび上がってきた。
この言葉は……

「これまでずっと何処に居るのだろうかと、探し続けていた相手が、すぐ目の前に居たことに驚いた」

と、いったニュアンスの気持ちからの言葉だった。

真に不思議なこと極まりない。
初対面のはずなのに、めちゃくちゃ懐かしい人に会ったとしか感じ得ないのである。

「不思議だ……一体、何だ、この感覚は……」

――遠い昔の記憶

といった表現も、あながち間違いではないような感覚である。

結局、この不思議な感覚とは裏腹に、この日、私はこの女性とは少し挨拶を交わした程度しか話さなかった。

この女性を見た瞬間、流れた電流は、何なのだろうか……

人生において一番大切なのは「今」である。
ゆえに私は「前世」といったものに興味がない。

しかしながら、この時の「ビビビ」体験においてだけは、どうにも「現世」だけでは説明がつかないようにも思える。

その後、この女性はどうなったのか。
気になるその結末は……なんと!

――結婚した

しかし、その相手は私ではなく、「私の親友」とその女性は結婚したのである。

「強烈な電流が流れた女性が、私の親友と結婚した」

これは一体、どういうことなのだろうか。
この一連の出来事を、今回だけは特別に「前世」なる概念を持ち出して解釈してみる。
すると、こうなる……

――遠い、遠い昔。時は平安。

じつは、「その女性」は私の妹であった。そして、彼女と結婚した「私の親友」は、この時代でも、やはり私の親友だった。
親友は私と交流する為に、私の家へ訪ねて来ていた。すると、少しずつ私の妹とも面識を持つようになった。
そして、気がつくと、親友と妹は恋仲となり、めでたく結婚に至ったのであった――

と、勝手ながら空想してみた。

すると不思議なことに、この考えが妙にしっくりきた。
現在の親友との関係とも一致しストンと腑に落ちる感覚がある。

「なるほど、そういうことだったのか……」

私はこの解釈をこれまた勝手ながら正式採用することにした。

現在、親友とその女性は幸せな家庭を築いている。
それは私にとっても、心からめでたく嬉しいばかりである。

私にとって大切なのは「今」であり「前世」というものには関心はない。

とはいえ、この出来事は「時を超えた人と人との繋がり」のようなものを感じた瞬間でもあった。

それにしても……

本当に身体にあれほどまでの電流が流れるとは……

まさに「事実は小説よりも奇なり」である。



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