卑猥と悲哀
文字数 4,054文字
そのお店では、ゴルフウェアはブランド別に陳列されていた。入り口から見て、手前の方にはお手頃ないわゆるスポーツブランドの商品が、奥の方には、お値段的にはスポーツブランドの倍以上もするような、高級ブランドの商品が並べられていた。
高級ブランドと言っても、ゴルフ専門なのだろう、私が名前を聞いたことのないブランドばかりだった。それでも、私にはそれらの商品が、高級なのだということが、値段を確認する前から分かっていた。
もちろん素材の違いとかはある。でも所詮、服は服だ。それなのに、それら高級ブランドのウェアのデザインは、三本線や傘のロゴのブランドとは、明らかに一線を画しているように私には見えた。私に商品を見る目があるか、デザイナーがお給料通りの仕事をしているかのどちらかなのだろう。
手に取って、当ててみた。
段違いに可愛かった。
値札を見てみた。思った通り高かった。普段であれば、考慮すらしない価格帯だった。
でも、このときの私の軍資金であれば、買えなくはなかった。
その瞬間、スタバで幸代に言われた言葉を思い出した。
一瞬気が引けた。姿見をもう一度見た。やっぱり段違いだった。
「違う、そうじゃない。これは親孝行なんだ」
私はそう自分に言い聞かせて、足取りも軽くレジに向かった。
この春に入学した大学には、ゴルフの授業がある。
体育会グランドの端にある小さな練習場を使い、グローブと靴とクラブも貸してくれて、外部からきているインストラクターの先生がゴルフを一から教えてくれるという、かなり至れり尽くせりの授業だ。
非有名私立大学にしては破格とも言えるこの待遇は、「紳士淑女のスポーツであり、社交の場でもあるゴルフは、学生が社会に出てから役に立つ重要な素養の一つだ」という学長の意向によるものらしい。
その通りなんだろとなとは思う。思うのだが、その学長が早朝や夕方に、練習場に足を運ぶ姿がたびたび目撃されており、せっかくの名言が台無しになってしまっている感があるのは否めない。とは言え、多くの学生にこの授業は評判が良く、ウィンウィンの結果に落ち着いていると言って良いだろう。
私も、高校時代からの友人の幸代に誘われて、ゴルフの授業を受けている。きっかけは付き合いだったが、それでも思っていた以上にゴルフは楽しかった。
5メートル先のネットに向かってボールを打つだけだが、普段は運動らしい運動をしない私にとっては、その程度でも身体を動かすのは気持ち良いし、何十球かに一回クラブがボールにきちんと当たった時は、快感だ。
元々ゴルフに興味があったらしい幸代は、私以上のはまりようで、最近は来年春のラウンドデビューを目指している。
「千絵も一緒にデビューしようよ。最近は、ウェアだって可愛いんだよ」
一人でデビューするのが心細いのだろう。ある日幸代は学食でそう言って、女性誌に載ったゴルフウェアの特集を私に見せてきた。
目を通すと確かに、スポーティーで普段使いの服ではあまり使わないような鮮やかな色使いのウェアは可愛かった。一瞬気が惹かれた。だが、すぐに現実的な壁にぶつかった。
「確かにお洒落してゴルフって言うのは魅力的だよね。でも、ゴルフってプレーが高そうだし、そもそもグローブもシューズも揃えようとしたら、どれくらいかかるんだろう?海外は学生の内に海外も行っておきたいから、そう考えると先立つものが・・・」
「そこは、人生を通じた趣味とか、会社員になった後の人間関係とか、人間的にも経済的にも素敵な彼氏との出会いとかのための、将来に向けた投資だと思って」
実はゴルフに多くの野望を託していたことが判明した幸代の言葉は、熱量も高く、海外の旅行の回数を減らすというアイデアも一瞬頭をよぎりはしたが、結局、結論が出せないまま家に帰った。
家に帰ると、リビングルームのソファで寝転がって、スマホでヨーロッパの観光地を紹介したホームページに目を通した。フランス、イタリア、スペイン、ポルトガル、行ってみたいところ、食べてみたいものだらけだった。
「やっぱり、ヨーロッパだよなあ」
「ヨーロッパがどうかしたの?」
私の呟きを聞いて、隣のダイニングからママが声をかけてきた。
「幸代からゴルフに誘われてるの。たしかに面白そうだなとは思うんだけど、この間ママにも話したヨーロッパ旅行と両方ともってなると、さすがに予算が足りなくて。やっぱりゴルフは断った方が良いかなって考えてたところ、なの・・・」
私の言葉は、私の前に立ちはだかった巨大な影に遮られた。
「どうした、の?」
働き方改革とやらで、最近家にいることがやたらと増えたパパだった。
「出す!!」
「え?」
「ゴルフにかかる費用なら全部出す!! だからゴルフをやってくれ!!」
パパの隙間から、苦笑いを浮かべているママが見えた。
「元々はママがゴルフをやってた。それで結婚した時に、ゴルフならママと二人で歳を取ってからもできるなと思って、パパもゴルフを始めたんだ。
ただ、この間までは、お前たちの世話があったから一緒にゴルフはできなくて。それが、お兄ちゃんも千絵も大学に入ったから、ようやく、ママとゴルフだって思ったら、また始めるのはめんどくさいから嫌だって言うんだ。
ママとゴルフに行って、その後温泉宿に泊まるって言うのが、パパの夢なんだ。パパが誘ってもウンと言わないけど千絵が誘ったら、ママは断らない。だから、ゴルフを始めることの問題がお金だったら、全部パパが出す。だから、ゴルフをやってくれ!!」
結局、パパの勢いに押し切られる形で、とりあえずデビューを目指すことになった。
クラブはママのやつが使えそうだったけど、それでもウェアとシューズ、グローブだなんだかんだで3万円ちょっとくらいはかかりそうだった。3万円くらいはもらえるかなと思いながらパパに申請すると、渋ちんのパパには珍しく、何も言わずに5万円渡してくれた。
パパの気が変わらないうちにと、早速次の日、大学の帰りにスポーツショップに行くことにした。その前に、報告を兼ねて幸代をスタバに誘った。パパの出資でゴルフが始められることになった経緯を説明した。てっきり、幸代も喜んでくれるとばかり思っていた。
ところが、いつもはぱっちりと開いた両目を細く引いて幸代は言ったのだ。
「千絵さあ、そう言うのって何て言うか知ってる?パパ活って言うんだよ」
ゴルフ道具一式を買い揃えて家に帰ると、一応パパには報告した。お釣りもきちんと渡した(幸代と行ったスタバ代は、経費として差し引いてだけど)。
パパは満足そうにうんうんと頷くと、何やら物欲しげな顔で私をじっと見つめた。
私たち父娘の間を沈黙が流れた。
「今度、打ちっぱなしにでも行く?」
沈黙に耐え切れず、私がそう言うと、パッと花咲くようにパパの顔に笑みが広がった。
その週末に訪れたパパ行きつけの練習場は、大学の奴よりずっと巨大だった。駐車場も数十台分はあった。それでも週末の早朝だというのに駐車場は車で一杯だった。
受付でチェックインして、打席に向かった。
その間に、他の人の練習を見た。老若男女、ゴルフが上手い人、私くらいの腕前の人、一人の人、カップルで来てる人、他ではあまりないくらい本当に多様な人種がそこには揃っていた。ただ一つ共通していたのは、それぞれの人たちが、それぞれのスタイルで、でも真剣に練習に臨んでいるということだった。
打席に着くと、軽く準備運動をして、練習を始めた。
まずは、パパから打ち始めた。
これだけ誘うくらいだからどれだけ上手いのかと実は少し期待していたのだが、それほど上手くなかった。パパも、面目なさそうだったが、私の前で良いところを見せようと力が入ってるんじゃないと、声をかけると、そうかもなと、照れ笑いを浮かべて何とかその場は収まった。
そして、私の番になった。
大学の小さな練習場でも、ネットに届かないどころか、空振りすることもしょっちゅうだ。しかも、ボールを打つという作業は変わらないとは言っても、これだけ大きな空間だと飛ばしてやりたい欲も出る。これは空振るなという予感があった。
パパの顔を立てる意味でも、それくらいで良いやと、振り上げたクラブをえいやと思い切り振り下ろした。
カコーンという乾いたような音を引きながら、ボールがネット越しの青空に吸い込まれていった。
ビックリしながら振り返ると、パパが満面の笑みを浮かべて、「すごいな、すごいな」を繰り返していた。私は、初めて自転車に乗れた時の夕方の公園を、パパの笑顔を思い出した。
そして、思った。
やっぱりこれはパパ活なんかじゃなくて、親孝行だ!
1時間ほど練習をした。パパからアドバイスをもらうと、きれいにボールを打てる割合が少し上がった。嬉しかったし、パパも嬉しそうだった。ちょっとだけ、また来てもいいかなという気になった。
練習が終わると、トイレで汗を拭き、メイクを直した。そのとき、洗面台の隣に貼られた一枚のポスターに気が付いた。
トイレから出ると、先に用を済ましたパパが待っていた。
「トイレに面白いポスターが貼ってたんだけど、あれって男性用の方にも貼ってるの?」
「ポスターって?」
「下着で練習しないでくださいってやつ」
「ああ、貼ってるよ」
笑いながらパパが頷いた。
「あの、『下着等の露出が多い恰好は、周りの方の心を乱し、練習の妨げになるので、ご遠慮ください』って、なんか笑えない?」
何気ない一言だった。ところが、その瞬間、それまでパパの顔に浮かんでいた笑顔が固まり、そして剥がれ落ちた。
そこに残されていたのは、ありありと刻まれた衝撃の痕跡だった。
「ど、どうしたの!?」
何事が起きたのかと心配する私に、今にも泣きだしそうな表情でパパは答えた。
「男性用のポスターには、『下着等の露出が多い恰好は、周りの人を不快な気持ちにさせ、練習の妨げになるので、ご遠慮ください』って書いてる・・・」
高級ブランドと言っても、ゴルフ専門なのだろう、私が名前を聞いたことのないブランドばかりだった。それでも、私にはそれらの商品が、高級なのだということが、値段を確認する前から分かっていた。
もちろん素材の違いとかはある。でも所詮、服は服だ。それなのに、それら高級ブランドのウェアのデザインは、三本線や傘のロゴのブランドとは、明らかに一線を画しているように私には見えた。私に商品を見る目があるか、デザイナーがお給料通りの仕事をしているかのどちらかなのだろう。
手に取って、当ててみた。
段違いに可愛かった。
値札を見てみた。思った通り高かった。普段であれば、考慮すらしない価格帯だった。
でも、このときの私の軍資金であれば、買えなくはなかった。
その瞬間、スタバで幸代に言われた言葉を思い出した。
一瞬気が引けた。姿見をもう一度見た。やっぱり段違いだった。
「違う、そうじゃない。これは親孝行なんだ」
私はそう自分に言い聞かせて、足取りも軽くレジに向かった。
この春に入学した大学には、ゴルフの授業がある。
体育会グランドの端にある小さな練習場を使い、グローブと靴とクラブも貸してくれて、外部からきているインストラクターの先生がゴルフを一から教えてくれるという、かなり至れり尽くせりの授業だ。
非有名私立大学にしては破格とも言えるこの待遇は、「紳士淑女のスポーツであり、社交の場でもあるゴルフは、学生が社会に出てから役に立つ重要な素養の一つだ」という学長の意向によるものらしい。
その通りなんだろとなとは思う。思うのだが、その学長が早朝や夕方に、練習場に足を運ぶ姿がたびたび目撃されており、せっかくの名言が台無しになってしまっている感があるのは否めない。とは言え、多くの学生にこの授業は評判が良く、ウィンウィンの結果に落ち着いていると言って良いだろう。
私も、高校時代からの友人の幸代に誘われて、ゴルフの授業を受けている。きっかけは付き合いだったが、それでも思っていた以上にゴルフは楽しかった。
5メートル先のネットに向かってボールを打つだけだが、普段は運動らしい運動をしない私にとっては、その程度でも身体を動かすのは気持ち良いし、何十球かに一回クラブがボールにきちんと当たった時は、快感だ。
元々ゴルフに興味があったらしい幸代は、私以上のはまりようで、最近は来年春のラウンドデビューを目指している。
「千絵も一緒にデビューしようよ。最近は、ウェアだって可愛いんだよ」
一人でデビューするのが心細いのだろう。ある日幸代は学食でそう言って、女性誌に載ったゴルフウェアの特集を私に見せてきた。
目を通すと確かに、スポーティーで普段使いの服ではあまり使わないような鮮やかな色使いのウェアは可愛かった。一瞬気が惹かれた。だが、すぐに現実的な壁にぶつかった。
「確かにお洒落してゴルフって言うのは魅力的だよね。でも、ゴルフってプレーが高そうだし、そもそもグローブもシューズも揃えようとしたら、どれくらいかかるんだろう?海外は学生の内に海外も行っておきたいから、そう考えると先立つものが・・・」
「そこは、人生を通じた趣味とか、会社員になった後の人間関係とか、人間的にも経済的にも素敵な彼氏との出会いとかのための、将来に向けた投資だと思って」
実はゴルフに多くの野望を託していたことが判明した幸代の言葉は、熱量も高く、海外の旅行の回数を減らすというアイデアも一瞬頭をよぎりはしたが、結局、結論が出せないまま家に帰った。
家に帰ると、リビングルームのソファで寝転がって、スマホでヨーロッパの観光地を紹介したホームページに目を通した。フランス、イタリア、スペイン、ポルトガル、行ってみたいところ、食べてみたいものだらけだった。
「やっぱり、ヨーロッパだよなあ」
「ヨーロッパがどうかしたの?」
私の呟きを聞いて、隣のダイニングからママが声をかけてきた。
「幸代からゴルフに誘われてるの。たしかに面白そうだなとは思うんだけど、この間ママにも話したヨーロッパ旅行と両方ともってなると、さすがに予算が足りなくて。やっぱりゴルフは断った方が良いかなって考えてたところ、なの・・・」
私の言葉は、私の前に立ちはだかった巨大な影に遮られた。
「どうした、の?」
働き方改革とやらで、最近家にいることがやたらと増えたパパだった。
「出す!!」
「え?」
「ゴルフにかかる費用なら全部出す!! だからゴルフをやってくれ!!」
パパの隙間から、苦笑いを浮かべているママが見えた。
「元々はママがゴルフをやってた。それで結婚した時に、ゴルフならママと二人で歳を取ってからもできるなと思って、パパもゴルフを始めたんだ。
ただ、この間までは、お前たちの世話があったから一緒にゴルフはできなくて。それが、お兄ちゃんも千絵も大学に入ったから、ようやく、ママとゴルフだって思ったら、また始めるのはめんどくさいから嫌だって言うんだ。
ママとゴルフに行って、その後温泉宿に泊まるって言うのが、パパの夢なんだ。パパが誘ってもウンと言わないけど千絵が誘ったら、ママは断らない。だから、ゴルフを始めることの問題がお金だったら、全部パパが出す。だから、ゴルフをやってくれ!!」
結局、パパの勢いに押し切られる形で、とりあえずデビューを目指すことになった。
クラブはママのやつが使えそうだったけど、それでもウェアとシューズ、グローブだなんだかんだで3万円ちょっとくらいはかかりそうだった。3万円くらいはもらえるかなと思いながらパパに申請すると、渋ちんのパパには珍しく、何も言わずに5万円渡してくれた。
パパの気が変わらないうちにと、早速次の日、大学の帰りにスポーツショップに行くことにした。その前に、報告を兼ねて幸代をスタバに誘った。パパの出資でゴルフが始められることになった経緯を説明した。てっきり、幸代も喜んでくれるとばかり思っていた。
ところが、いつもはぱっちりと開いた両目を細く引いて幸代は言ったのだ。
「千絵さあ、そう言うのって何て言うか知ってる?パパ活って言うんだよ」
ゴルフ道具一式を買い揃えて家に帰ると、一応パパには報告した。お釣りもきちんと渡した(幸代と行ったスタバ代は、経費として差し引いてだけど)。
パパは満足そうにうんうんと頷くと、何やら物欲しげな顔で私をじっと見つめた。
私たち父娘の間を沈黙が流れた。
「今度、打ちっぱなしにでも行く?」
沈黙に耐え切れず、私がそう言うと、パッと花咲くようにパパの顔に笑みが広がった。
その週末に訪れたパパ行きつけの練習場は、大学の奴よりずっと巨大だった。駐車場も数十台分はあった。それでも週末の早朝だというのに駐車場は車で一杯だった。
受付でチェックインして、打席に向かった。
その間に、他の人の練習を見た。老若男女、ゴルフが上手い人、私くらいの腕前の人、一人の人、カップルで来てる人、他ではあまりないくらい本当に多様な人種がそこには揃っていた。ただ一つ共通していたのは、それぞれの人たちが、それぞれのスタイルで、でも真剣に練習に臨んでいるということだった。
打席に着くと、軽く準備運動をして、練習を始めた。
まずは、パパから打ち始めた。
これだけ誘うくらいだからどれだけ上手いのかと実は少し期待していたのだが、それほど上手くなかった。パパも、面目なさそうだったが、私の前で良いところを見せようと力が入ってるんじゃないと、声をかけると、そうかもなと、照れ笑いを浮かべて何とかその場は収まった。
そして、私の番になった。
大学の小さな練習場でも、ネットに届かないどころか、空振りすることもしょっちゅうだ。しかも、ボールを打つという作業は変わらないとは言っても、これだけ大きな空間だと飛ばしてやりたい欲も出る。これは空振るなという予感があった。
パパの顔を立てる意味でも、それくらいで良いやと、振り上げたクラブをえいやと思い切り振り下ろした。
カコーンという乾いたような音を引きながら、ボールがネット越しの青空に吸い込まれていった。
ビックリしながら振り返ると、パパが満面の笑みを浮かべて、「すごいな、すごいな」を繰り返していた。私は、初めて自転車に乗れた時の夕方の公園を、パパの笑顔を思い出した。
そして、思った。
やっぱりこれはパパ活なんかじゃなくて、親孝行だ!
1時間ほど練習をした。パパからアドバイスをもらうと、きれいにボールを打てる割合が少し上がった。嬉しかったし、パパも嬉しそうだった。ちょっとだけ、また来てもいいかなという気になった。
練習が終わると、トイレで汗を拭き、メイクを直した。そのとき、洗面台の隣に貼られた一枚のポスターに気が付いた。
トイレから出ると、先に用を済ましたパパが待っていた。
「トイレに面白いポスターが貼ってたんだけど、あれって男性用の方にも貼ってるの?」
「ポスターって?」
「下着で練習しないでくださいってやつ」
「ああ、貼ってるよ」
笑いながらパパが頷いた。
「あの、『下着等の露出が多い恰好は、周りの方の心を乱し、練習の妨げになるので、ご遠慮ください』って、なんか笑えない?」
何気ない一言だった。ところが、その瞬間、それまでパパの顔に浮かんでいた笑顔が固まり、そして剥がれ落ちた。
そこに残されていたのは、ありありと刻まれた衝撃の痕跡だった。
「ど、どうしたの!?」
何事が起きたのかと心配する私に、今にも泣きだしそうな表情でパパは答えた。
「男性用のポスターには、『下着等の露出が多い恰好は、周りの人を不快な気持ちにさせ、練習の妨げになるので、ご遠慮ください』って書いてる・・・」