逆光の三日月

文字数 5,983文字

この世界には、魔法少女と呼ばれる者がいる。
個性豊かな彼女たちの中で、私が監視を担当する者は特に際立っているだろう。
彼女は今、我々マスコットの、そして魔法少女のトップとして、仕事に励んで――
励まねぇよ!
少なくとも今日はな。
待て結弦葉!まだ挨拶の途中なのだ。
うるせぇうるせぇ、知ったこっちゃないわ。
とにかく!今日!

あたしは仕事しない!!

……。
一応、理由を聞いておこうか。
良い質問だ。
でも、変態ストーカーのてめぇなら知ってるだろ?


今日が何の日か。

……お前が魔法少女の代表になってから、地球周期で30年目だ。
そう、よくわかってるじゃないか。
30年間、あたしは休まずに魔法少女やマスコットの面倒を見て来たんだ。

一日くらい休ませろよ。

そして、今日だけは30年前の姿で過ごすことにした!

変身の能力を使ってな!

口調も戻っている気がするぞ。
ああ。

黒髪ロングで皆から「先生」と呼ばれる黒嶺結弦葉は、もっと上品だろうね。

そりゃあだって実年齢でいったらあたしも51歳だよ。

まぁ見た目は22歳のままだし、死なないけど。

身体の細胞を極限まで遅くしているからな。

説明ありがとうシャウラ。
というわけで、年中無休の管理監督者のお仕事だけど、

今日は丸一日休みまーす!

もう好きにしろ…。
さてじゃあ、まずはピースペース行って皆にこの姿を見せて来ようっと!
……
おーおー、今日もピースペースには少女がいっぱいいるなぁ。
片っ端から話しかけていくか。
よっ。

ミナミ、調子はどうだ?

えっ。

だれ…ですか…?

!?
ほ、ほら!あたしだよあたし!

結弦葉だよ!

結弦葉…?


えっゆづ先生!?

やっと分かってくれた。


そうそう、ゆづ先生ですよ。
ど、どうしたんですか、その格好…。
あーこれか?

これはな、実はかくかくしかじかで…

ふーん…そうなんですかぁ。

じゃあ、先生は今30年前に戻ってるんですね。
まぁそんなもんだな。

あたしの姿だけだけど。

私も変わっていないぞ。
出しゃばるんじゃねぇ饅頭が。
……。
あのっ、先生。
ん?
30年前の魔法少女って、どんな感じだったんですか?
30年前か?


うーん…。

あんま変わんないかな。
えっ?
うん、大きく変わってることはないよ。


時代に合わせてちょっとずつ変えているところはあるけど。

見ての通りトップのあたしが変わってないから組織も変わってないのよ。
なーんだ、つまんないの。
すまんすまん。
代わりに、30年前にいた面白いヤツの話をしてやろう。
ほんと!?

どんな人どんな人!?

まあまあ慌てるな。
その昔、エリーってヤツがいてな。
そいつはな、めちゃめちゃお金持ちだったんだ。

都会の一等地にデカい家があるくらいに。

え~、羨ましいですね~。
でもな、そのエリーはめちゃくちゃ方向音痴だったの。
だから道に迷いそうになったら、その度にマスコットが正しい方向を教えていたんだよ。
だが、ある時…

------------------------------------------------------------------------------

------------------------------------------

--------------------

やっと荒涼駅に着きましたわ。
さて、今日はお宅にいきなりお邪魔して、ゆづ先輩をびっくりさせてあげようと思いますの!
まずは駅からまっすぐ進んで…
次に丁字路を左に…
エリー!方向が違うよ!
分かってますわよ!

わたくしが何度この道を歩いたと思っているんですの?

でもいつも迷うじゃないか!
お黙りなさい!
まずはわたくしの話を聞きなさいリゲル。


今日はあえて間違った方向に進んでいますのよ。

どうして?
たしかにこの丁字路を右に曲がるのが普段のルートですわ。
でも、もしかしたら散歩中やお爺さんを助けているゆづ先輩と出会ってしまうかもしれませんの。
ですので後ろから回り込むようにしていって、先輩に見つからないようにするんですの。
なるほど!そういうことなんだね!
理解が早くて助かりますわ。

では行きましょう。

……
ここはどこなんですの!
ほら!やっぱり迷っちゃったじゃないか!
うるさいですわね!

すぐに分かる道に辿り着いてみせますわ!

え~っと、え~~っと……
下手に動かないで誰かが来るのを待った方がいいよ!
しつっこいですわよリゲル!
おい。
ひゃあっ!
お前ら、なんでこんなとこに来てまで喧嘩してんだ?
それは…その…
エリーは結弦葉さんのところに行こうとしたんだよ!
まぁ、だろうな。

そうでなきゃあ、こんな田舎来ないだろうし。

でもよ、いつもと道が違うぜ?
あっ、えっと…
わざと裏道から行って、結弦葉さんを驚かせようとしたんだ!
こらリゲル!さっきから口が滑りすぎですわ!
なるほどなぁ~。

方向音痴なクセによくやるわ。

それにしても、どうしてゆづ先輩はここに来たんですの?
依頼があったから。
あ…。
まさかお前達とは思ってなかったけどな、へへ。
は、恥ずかしいですわ…。
ほら、一緒に山降りるぞー。

--------------------

------------------------------------------

------------------------------------------------------------------------------

っていうことがあってな。
以来エリーはあたしの元にまっすぐ来るようになったとさ。
へぇ~、面白い人がいたんですねぇ~~。

面白い奴だったな~エリー。

正直者で良い子なんだけど、どこか抜けているところがあって。
先生先生!もっとお話聞かせて!
ん~そうだなぁ~。
ちょうどエリーと同じくらいの時にな、みどりってェ奴がいたんだよ。
へぇ~、どんな人なんですか?
身体はちっちゃいんだけど、すげぇ食いしん坊だったよ。
エリーとは結構歳が離れていたんだけど、仲良しでなぁあいつら。

ずっと一緒にいて、ずっとに二人であたしの実家に遊び来てた。

まぁ訳あってエリーの家に住んでたってのもあるけどね。
じゃあ、みどりさんも豪邸に住んでたんですね…。
そうなるな。

ちなみに、あたしもちょっとだけ住まわせてもらってたよ。

えっそうなんですか!?
そうだよ。

とにかくデカくて豪華だったね。

そうそう、ちょうどその時にね…

------------------------------------------------------------------------------

------------------------------------------

--------------------

ゆづせんぱ~い。
ん?どうした?
おこづかいくださーい。
なにィ!?
…一応、何に使うかだけ聞こうか。
あのですね…。
う、うん…。
わたし…。
わたし?
お腹がすいたんです。
なんだよ~~勿体ぶりやがって。
腹減ってるなんて、いつものことじゃないか。
それにお小遣いに何の関係があるんだ?
今はお昼の3時だから、おやつの時間ですよね。
うん。
だからお菓子を買って食べたいんです。
なるほど~~、それはそれは。
――って、金なんてあげないからな!
え~~~、先輩のケチ!
うるせぇ!

これはあたしの金だ。だからあたしが使うんだ。

お腹減ったお腹減った!
ちょっとみどりさん!

駄々こねちゃって、だらしないですよ!

ん~~じゃあ、代わりにあたしがお菓子作ってやるよ。
ほんとぉ!?
そんな大層なもんは作れねぇがな。


とりあえず厨房行くか。

……
え~~っと、まずはお玉に砂糖を水を入れて、と。

何ができるんだろう…。

それからこうしてこうして……
わっ!急にふっくらになった!
これで完成。

カルメ焼きっていうお菓子だ。

カルメ焼き!初めて見ました!
じゃあ早速いただきま~す!
ん~!甘くておいしい!
そりゃあよかった。

まぁ、原料が砂糖だけだから間違いないんだけどね。

先輩!もっと作ってください!
いいよいいよ。

これだったいくらでも作れるし。

やった~!
……
あの、先輩、みどりさん。
あっ、エリー先輩!
エリーか。どうした?

そのお砂糖…明日の調理実習で使うのですけれど…。

そうなの!?

いやぁすまない、ちょっとだけ使っちまっ…て……

って、砂糖がもうほとんどない…。
な、何に使いましたの…?
みどりのおやつに…変わっちゃった…。
そ、そんな……。
先輩…ごめんなさい…。
みどりさん…。
ちゃんと先輩の分も残しておけばよかったですよね…。
みどりさんっ!

--------------------

------------------------------------------

------------------------------------------------------------------------------

…で、そのあとみどりは砂糖を買いに、スーパーまでお使いさせられたとさ。
なんか、ゆづ先生の周りの人って、面白い人ばっかりですね。
確かにそうだね~。

面白いというか変わってる奴が多いな…。

エリーさんとみどりさんは、今どうしているんですか?
えとね、エリーは今、世界的な財閥の社長をやってる。

多分ミナミも聞いたことがある会社だと思うよ。

みどりは陸軍の少佐…軍隊のかなり偉い人になってるよ。

エリート美人隊員として、たまにテレビに出てるね。

2人とも結婚して子供もいる。

もう立派な大人だよ。

へぇ~!すご~い!
魔法少女として頑張った子は、辞めたあとの人生でも人のお役に立ってる。

これはエリーとみどりに限った話じゃあない。

ミナミもカッコいい大人になりたいなら、依頼を頑張らないとな。
うんっ!

わたし、もっと頑張ります!

先生!今日はいっぱい話してくれてありがとうございました!
おう、またいつでも話そうぜ。
……さて、次は誰と話そうかな~。
どうせだしピースペースの外に出てみるか。
------------------------------------------------------------------------------
うひょーー!
この格好で外に出るのは一周回って新鮮な気持ちだな!
結弦葉。
どうした?
外に出てきたのはいいが…
一体どこへ行くつもりなのだ?
そんなん決めてるわけねぇだろ。
まぁ、強いて言うなら……、あの場所だな。
……
いつもならこの辺を歩いているはずなんだが……キョロキョロ
あっ!いた!
お~~~い!サチ~~!!
え?
よっ!久しぶり!

一年ぶり…くらいかな?

……。
でもまぁ、元気そうでなによりだ。
え、えっと…。
ん?
どなた…ですか?
!!
ごめんなさい、思い出せなくて…。
(やっべ、姿変えてるのすっかり忘れてた…)

ほ、ほら!あたしだよ!結弦葉!

結弦葉……
えっ!?

お、お母さん!?

そーそー!
(どこかで見たことあると思ったら、そうだ、思い出した。)
(サチ。今から26年前、結弦葉が養子として迎え入れた子だ。)
(たしかサチは当時4歳。魔法少女であった子の友達という繋がりだった。)
(彼女自身も10年前まで魔法少女であった。

今その記憶はないが、第二の母である結弦葉のことは覚えているようだ。)

(そして昨年、結婚して、結弦葉のもとを離れた。)
(それにしても…結弦葉め、サチの居場所を知っているということは、離れてからも親心が抜けずにいたか。)


(まぁ学校の卒業式や結婚式でも泣き崩れていたわけだから、当然といえば当然か。)
おいシャウラ、何をボーっとしてやがるんだ?
いや、別に。
お、お母さん、どうしたのその恰好…。
ん?あぁ、これか?

これはな、若い時の服装を真似ているだけだ。

いや、ちょっとは年相応の恰好をしなよ…。
なんだ、じゃあサチが代わりに着るか?
着ない。
へっ、まぁいいや。
ところで、これからどこへ行くんだ?
買い物を済ませたから、家に帰るところよ。
なーんだ、もう行ったあとだったのか。

いつもはタイミングばっちりのお母さんも、今日は悪かったね。

さて、帰ってごはんの支度をしなくちゃ。
あ、そうだ!

お母さん、ごはん一緒に作らない?

へ?なんで?
久しぶりにお母さんの料理食べたいんだよね~。
なんて虫のいいヤツ!

ただまぁ、愛する娘からの頼み事だし、作ってやるか。

やったぁ!
------------------------------------------------------------------------------
……
今日は夫が帰って来れないみたいだから、2人分だけでいいよ。
おっけーおっけー。
…って、

なんで買い物したのに冷蔵庫に全然材料入ってないんだよ!

これでも多い方だよ?
一体普段どんな食事してやがるんだコイツら夫婦は…。
ったく、しゃあねぇ、有り合わせで作るぞ。
……
サチー、できたぞー。
わぁい!

いただきまーす。

お母さんの作る料理は相変わらず渋いね~。モグモグ
う、うるさい!

さっさと食っちまえ!

ふふふっ。
(筍とごぼうの煮物と、大根の葉の天ぷら、それからたくあん…)
(子供の頃はあんまり好きじゃなかったっけなぁ。)
(でも、今じゃあ懐かしい、変わらないお母さんの味だ。)
じゃあ、あたしそろそろ帰るわ。
えっ、もう帰っちゃうの?

うん、明日も朝早いし。
そっかぁ…。
なーに、また会いに来るよ。
うん…。
…お母さん。
うん?
また、料理作ってね。
へっ、サチからその言葉が聞けて嬉しいぜあたしも。
ふふっ。
じゃあ、またね。
おう、またな。

------------------------------------------------------------------------------

いや~~楽しい休日だった!
久々にこの格好になれたし、エリー達の話もできたし、サチにも会えたし、満足満足!
明日からは普通の恰好に戻るのか?
あたりめーよ。
黒髪でスーツ姿なのが普段の「ゆづ先生」だからな。
そうか。
なんだよ、何か言いたげなお前。
いや、昔の結弦葉を見ていて、私も懐かしく感じていただけだ。
へへっ、人間らしいこと言いやがって。
今日の業務は全て明日に回して良いのか?
いいよ。

寝るまでが休日だからな。

というわけで今日はもう寝る!

明日頑張りまーす。

------------------------------------------------------------------------------


翌朝
……。
ほんとだ!ミナミちゃんの言う通り、先生が変わってる!
先生先生ー、この前の話、また話してー。
先生ー、私も金髪にしたーい。
う、うん。

順番に話すよ。順番にな…。

(昨日の私の姿が広まっているみたいで、元に戻るタイミングが分からなくなってしまった…。)
結弦葉、業務が全く進んでいないぞ。
分かってる!これからやるよ!
こんなことなら、昨日のうちに少しだけでもやっておけばよかった…。
先生~。
そして一体いつまでこの格好なのやら…。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

黒嶺 結弦葉 (くろみね ゆづは)

21歳

田舎生まれ田舎育ち

魔法少女歴10年のベテラン

跡継ぎ問題に悩まされている

シャウラ

マスコットと呼ばれる白くて丸い地球外生命体

結弦葉を魔法少女に引き込む

渋い声

爺さん

結弦葉の隣の家に住む老人
よく田んぼに落っこちる

黄更城 エリー  (きさらぎ エリー)

13歳

魔法少女歴4年

都会出身

超一流企業の社長の一人娘

リゲル

エリーと共にいるマスコット
若々しい男の人の声

立河 みどり  (たちかわ みどり)

8歳

魔法少女歴1ヶ月の新人

孤児

ポルックス

みどりと共にいるマスコット
落ち着いた女の人の声 

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色