第1話 ベテラン魔法少女

文字数 2,721文字

この世界には、魔法少女と呼ばれる者がいる。
個性豊かな彼女たちの中で、私が監視を担当する者は特に際立っているだろう。
彼女は今、シューカツというものに励んでいる。

------------------------------------------------------------------------------


………
はい!

私はコミュニケーションを円滑にする潤滑油です!

では、学生時代に何か打ち込んだものはありますか?
ええと…

そ、それは…

------------------------------------------------------------------------------
高層ビルの自動ドアが開く。
うわっ。

外さみぃなぁ。

………はぁ。

なんだよあの面接官!

陳腐でどこにでもいるような人間だとよ。

あたしはここにしかいねぇだろっつーの。

ちょっと顔がいいからって言いたい放題に… ブツブツ
何をダラダラ言っているんだ、結弦葉。
シャウラか。

面接ん時いなかったけど、どこ行ってたんだオメー。

少し挨拶に行っていた。

挨拶?

この辺りに知り合いでもいるのか?
いや、むしろ初対面だ。

なんだそりゃ。

おかしな野郎だな。

ほら、帰るぞ。

なんだ、もう帰るのか。

見たことないものだらけだが、今は観光とかそういう気分じゃねえ。

わざわざ片道4時間かけて、知らない男に揚げ足取られに来たのか?
うるさい!!

さっさと帰るぞ!

------------------------------------------------------------------------------
ICカードを改札機にあてた。
ああー。やっと着いた。
やはりビルが建ち並ぶ都会よりも、このような田舎の方が落ち着くな。
宇宙人のくせに地球の風景に思い入れがあるとは、随分面白いギャグが言えるようになったじゃねぇか。
……。

到着して早速だが、"依頼"が来ている。

ホントに早速だな。

んで、どこの誰だ?

お前の家の前にある田んぼだ。
またあの爺さんか。

距離あるから、ちっと急がねぇと。

ちなみにもう田んぼに落ちかけている。
それを早く言え!

普通じゃあ間に合わないかもしれないし…、仕方がない。


変身!

結弦葉の身体が光に包まれ、服装がリクルートスーツからフリフリの可愛らしいものへと変わった。
加速!


おぉ、速い速い!

…なあシャウラ。
走りながら喋ると舌を噛むぞ。
余計なお世話だ!

改めて聞くけど、依頼って別にその本人が出してるわけじゃないんだよな?

そうだ。

我々が身に危険が起こる者を感知し、距離が近い魔法少女に伝えている。

そして、この村周辺の魔法少女は…
あたしだけってことね。

だから辞めるにやめられず10年もやってきた。

さて、もうすぐ目標目前だ。
わかってる。


…ってもう落ちてるじゃん!

この爺さんやたら重てえんだよなぁ。


よいしょっと!

おお、助かったよゆづちゃん。

いつもすまないねぇ。

いいえ、どういたしまして。
その格好…もしかしてゆづちゃんも都会に行っちまうのか?
まあ、多分…。

(この衣装が他の地球人には見えないということにどれほど安心したか)

ゆづちゃんがいなくなったら、この村も寂しくなってしまうのぉ。


じゃあ、またの。

さよならぁ。


…ふう。

気がつけば家の前だ。

------------------------------------------------------------------------------
んんー、やっぱ自室が一番!
結弦葉。
なんだ?
魔法少女になって、後悔したことはあるか?
そりゃああるわ!

これに青春全部奪われているからな!

思えばあの時…

------------------------------------------------------------------------------

------------------------------------------

--------------------

10年前
ママー。

朝ごはんまだー?

…ママ?
あ、手紙…
『ゆづへ。

ママはしばらくパパと海外に行ってきます♡

あんまりおばあちゃんに迷惑かけないようにね。

ママより。』

…………。


あれ、もう一通ある。

『黒嶺結弦葉様。

あなたを魔法少女へと導きます。

ご希望の際は下記の欄にサインをご記入ください。

この手紙はあなた以外の地球人には見えません。

また、ご希望の意向なく、この手紙を折り曲げる等した場合、これに関する記憶は抹消され、この手紙が見ることが出来なくなります。』

またしょーもない宗教勧誘かな。

サインしてママが帰ってきたらビビらせてやろっと。


えーとここか。

くろみね ゆづは

っと。

おめでとう。

これで君は魔法少女の一員だ。

私はこれから君を監視させていただく、マスコットのシャウラだ。


…餅が喋ってる。

--------------------

------------------------------------------

------------------------------------------------------------------------------


そう、ただの興味本位だった。
それがこんなにも長続きしてしまうとは…
魔法少女と聞こえは良いが、正体は人助けのボランティアだ。
世界征服を阻止するわけでもなければ、未知の生物と戦うわけでもない。

ただの聖人活動だ。

はあ…。
そう気を落とすな。

お前は何もやってこなかったわけじゃあない。

お前の10年間の地道な努力を認めてくれる人は、きっといるはずだ。
もっと、自分の行動に自信を持て。
シャウラ…。

へっ、たまにはいいこと言うじゃねぇか。

------------------------------------------------------------------------------


ある日…
学生生活で打ち込んだことは何ですか?
はい!

私は10年間、魔法少女として活動してきました!!

ままま、魔法少女???


ぐ、具体的にどのような…。

主に人助けです!

田んぼに落ちた老人を助けたり、落とし物を一緒に探したり、歩けない人のために代わりに買い物に行ったりなど、数え切れないほどの活動をしました!

は、はあ…。

(こりゃあまたとんでもない奴が一次をパスしてきたな…。

書類選考はもっと厳しく見た方がいいかもな…。)

------------------------------------------------------------------------------


数日後
不採用じゃねぇかコノヤロー!!
痛い!

潰すな!やめろ!

ぎゃあああああ!!

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

黒嶺 結弦葉 (くろみね ゆづは)

21歳

田舎生まれ田舎育ち

魔法少女歴10年のベテラン

跡継ぎ問題に悩まされている

シャウラ

マスコットと呼ばれる白くて丸い地球外生命体

結弦葉を魔法少女に引き込む

渋い声

爺さん

結弦葉の隣の家に住む老人
よく田んぼに落っこちる

黄更城 エリー  (きさらぎ エリー)

13歳

魔法少女歴4年

都会出身

超一流企業の社長の一人娘

リゲル

エリーと共にいるマスコット
若々しい男の人の声

立河 みどり  (たちかわ みどり)

8歳

魔法少女歴1ヶ月の新人

孤児

ポルックス

みどりと共にいるマスコット
落ち着いた女の人の声 

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色