第5話 史上最強の魔法少女

文字数 3,465文字

君ぃ…なんだね、このフザけた履歴書は。
う…。
これは…、うちは必要ないなぁ。
んぐ…。
悪いけど、他あたってよ。

うちじゃあ雇えない。

んむむむむ…。
だーーーーーーー!!

どいつもこいつもふざけやがって!!

順番に出てこい!

ぶん殴ってやるぁ!!

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…あ?


なんだ、夢か…。

いつに間に昼寝してたんだな…。


にしても、後味の悪い夢だ。

起きたか。
お、シャウラ。

あたしが寝ている間になんかあったか?

特にない。

あったら起こしている。

それもそうか。


さて、散歩にでも行くかな。

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……

今日は川沿いを歩くぞい。
最近は結弦葉も忙しいな。
なんだ?

あんま構ってくれなくて寂しいのか?ん?

…。
悪いがてめえにかけるエネルギーはない。

諦めるこったな。

勝手に話を進めるな。
ムハハハハハ。だがさっきのはなかなか人間っぽかったぞ。
あら?

あそこで川面を見ている奴は…?

ん~。
おーい、みどり、何してんだこんなとこで。

あ、ゆづ先輩。


あそこ、お金あるんです。
お金?

…あー、水底にあるな、小銭だけど。

取りたいけど…、ん、手を伸ばしても取れない…。
ちなみにあれはな、ここに来た観光客が投げてくんだ。
この村は結構歴史があるみたいだが、寺や神社が一つもないし、あった痕跡もねえらしい。
だから、コアな歴史家やオカルトマニアが夏休みとか利用して、ここに来るんだよ。

実際、山に遭難する人が一番多いのは夏だ。

そうして祟れないために、せめてものお供え物ってことで金を投げてくんだ。

この川の向こう側にあるちっこい仏像に。

ただお金落としてるわけじゃないんですね、ここ。
わたしの武器も盾じゃなくって長いものだったら、あのお金取れてたのになぁ。
そういえば、ゆづ先輩の武器は何ですか?
武器?

あー、久しく見てねぇから思い出せないなぁ。

やっぱり使わないんですか?
うん、人助けに武器は必要ない。
じゃあ、なんであるのかな?
面倒なことはこいつらマスコットに聞いてくれ。


ところでシャウラ、どうやって武器出すんだっけ?

まず変身する。
変身!
………。
…なんだよ?

言いたいことがあったら言えよ。

服…。その服……。
なに笑いこらえてんだ!

この服のことだろ!?わーってるよ!

サイズは変わるのにデザインは変わらないんだよこれ!

あたしだって望んでこんなフリフリ着てねえよ!

んふふ…。

で、でも、ゆづ先輩の衣装は赤色なのに、わたしのは緑色ですね。
…こいつらの独断で色を振り分けてるんだろう。
そうみたいですね…。っププ…。

これ以上笑うなコンチクショー!!


おいシャウラ!次は!!

武器のことを考えるだけだ。
武器…武器…武器…
ん?
現れたのは、巨大な水柱だった。
ん?
ん?
…武器落ちちゃった……。
おいシャウラ!

目の前に出てくるのなら最初から言えよ!!

腕を組んで唱える者があるか!

目の前ではなく、空いている手の内に現れるようになっている!
それを早く言えっつってんだ!!

こしあんにするぞ!!

あの…、落ちちゃった武器、どうするんですか?
……所有者が一定の距離以上離れれば自然消滅する。
しゃあねぇ、ちょいと離れるから、なくなったら教えてくれ。


……

あ、消えた。
消えたぞ。
ざっと100メートルくらいか。


さて、気を取り直してもう一回。


……

右手空けときゃいいんだろ?
そうだ。
武器…武器…
右手の周りに光が集まり、次第に武器に形作っていく。
お、できた。


なんだなんだやたらデカい武器だなこりゃ。

真っ黒な鎌ですね。

でも魔法少女っぽくないなぁ。

あたしの武器こんなんだっけ?


まあいいや、何かで試し斬りしたいなー。

待て、現実世界でそんなもの振り回すもんじゃない。


仮想空間を用意してある。

そこで使うがいい。

仮想空間?
魔法少女に変身すると、身体能力が上がりますよね。
そこで有り余った力を発散するために、武器と仮想空間があるんですよ。
そうなんだー。
それで、どうやったら入れるんだ?
仮想空間へは我々が連れていく。

準備ができたら言ってくれ。

今日は何の予定もないから、いつでもいけるぞ。
わたしも大丈夫だよ。
では行くぞ。


仮想空間、転送。

転送!
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わあ…。

床と天井は真っ白…、でも奥の方は虹色で綺麗だね。
仮想空間は約3万㎢の円形ドーム状となっています。

どんなに動いても現実世界に被害が及ぶことはありません。

あれ?

あたしここ来たことある?

9年前に一度来ているな。
なんだか色々と思い出してきたぞ。
でもポルックス、ここで武器使うのはちょっと物足りないよ…。

何か戦う相手がいないと…。

仮想敵が出せるから、それと戦えますよ。
ほら、これです。
みどりの目の前に仮想敵が現れる。
これはヒト型なんだね。

なんか大きいし、水色だけど。

攻撃すると動き始めますよ。頑張ってね。
これ、敵の攻撃に当たるとどうなるの?
ちょっと痛覚が刺激されるだけで、身体的被害はありませんよ。
そうなんだ。
よし!

ぅおおおお!

勇ましい突撃だが、盾だけでどうやって攻撃するんだ?
えいっ!
あ、投げるのね。

そうしてちゃんとブーメランみたいに戻ってくるのか。

んんっ!やあっ!
投げて攻撃、戻ってきた盾で防ぐ。でまた攻撃。たまに回避。
地味だが着実な戦い方だな。
みどりちゃんらしい…。


……
はぁああっ!
あ、やっと倒れた。

そしていかにもバーチャルらしい消え方だ、仮想敵よ。

所要時間10分34秒。

現在の全国平均タイムは、6分16秒だ。

随分のんびりやってたな。
はぁ…はぁ…、これが限界なんです!
よし、じゃあ次はあたしだ。


シャウラ、みどりと同じ奴を出せ。

仮想敵の種類はあれだけしかない。


ほら、やってみるがいい。

まずは素振り。

…ってあらら?

結弦葉の放った衝撃波が、仮想敵を両断した。
な…。
うそ…。
一…撃…?
一瞬で終わっちまった。


シャウラ、あと3体くらい同時に出して大丈夫だぞ。

わ、わかった…。
ォオラッッ!!
3体の仮想敵が切り刻まれる。

その斬撃の音はもはや破裂音に近かった。

ひっ、3体同時に…。
まだまだものたりねぇ。


おい、最大同時5体にして、倒す度に出てくるようにしてくれ。

あ、ああ、わかった…。

(まさかこれほどの力とは…)


……
無茶苦茶な強さですね…、ゆづ先輩。
次々に出てくる敵を5体まとめて倒してる…。
……私は、彼女がこの空間に入ることを止められていたのだ。

太陽系第三惑星調査隊管理統括局局長、つまり我々のトップにな。

…フッ。私にはどんな処罰がくだるだろうな。

え?
彼女は未知数の強さだった。

だからこの仮想空間に被害が生じることを危惧したのだろう。

それって、どういう…。
魔法少女に変身した人間は身体能力が向上する。

その身体能力は、いくつかの具体性で区分されている。

そして、その具体的能力が12歳の平均値より高い場合、高いほど向上されるのだ。

最低倍率があるためマイナスにはならない。

だがプラスは無限大だ。

足の速い者はさらに速く、力のある者はさらに強く。

いってしまえば、長所を伸ばすということだ。

結弦葉は基準である12歳の時には、既に全ての能力において平均を上回っていた。

恵まれた体質と自然と暮らす生活が相乗したのだろう。

だが魔法少女本人がいくつになろうが基準の年齢は変わらない。
は、はあ…。
みどり、君がわかるように結論を述べると…
強すぎるのだ、結弦葉は。
思い出した!

たしかこれ魔法とかあったよな!

待て!そんなことしたら本当にどうなるか…
やり方も思い出した気がする!


えーと、まずは武器を思いっきり握る。

5秒後、もう片方の手を広げて前に出す。


おおっ、出てきたぞ魔法陣!

魔法陣を掴んで握りつぶす。


そうすると、手の甲に魔法陣が…浮かんだ!

最後に、手の甲を敵にむけて拳をゆっくりとほどく!
巨大な爆炎が地響きと共に発生した。

爆心は5体の仮想敵それぞれの足元。

囲まれていた結弦葉は一瞬にして爆風に飲み込まれた。

……すごい…!
しかし、炎から出てくるあの結弦葉の姿は…
魔法少女ではなく、悪魔だな…。
これ面白いな。

もっかいやっていいか?

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登場人物紹介

黒嶺 結弦葉 (くろみね ゆづは)

21歳

田舎生まれ田舎育ち

魔法少女歴10年のベテラン

跡継ぎ問題に悩まされている

シャウラ

マスコットと呼ばれる白くて丸い地球外生命体

結弦葉を魔法少女に引き込む

渋い声

爺さん

結弦葉の隣の家に住む老人
よく田んぼに落っこちる

黄更城 エリー  (きさらぎ エリー)

13歳

魔法少女歴4年

都会出身

超一流企業の社長の一人娘

リゲル

エリーと共にいるマスコット
若々しい男の人の声

立河 みどり  (たちかわ みどり)

8歳

魔法少女歴1ヶ月の新人

孤児

ポルックス

みどりと共にいるマスコット
落ち着いた女の人の声 

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