第7話 ないもの

エピソード文字数 2,305文字

んん~…。
結弦葉。
ちょっと待って!

もうすぐ出来るから。

……よしできた!

どうだ、我ながら習字はうまいだろう?

こころ…、いち、…なんと読むのだこれらは。
心機一転だよ!

そろそろあたしも未練ある心を入れ替えて、就職に専念しようという気持ちを書いたのだ。

にしてもオメー、10年もあたしのこと付け回しておいて、こんな簡単な字も読めねえのか?
覚えようとしていないからな。
地球にいるんだから覚えればいいだろ。
我々マスコットの寿命は、地球周期で約800年。

私が生まれた時には今ある字など使っていなかった。

こうも時代の流れが速いのならば、覚えてもすぐに文明が変わってしまうのだ。
でも話し聞きは完璧じゃねえか。
それは言葉にあるとある法則性を見出して、それをもとに話したり聞いたりしているだけだ。
我々マスコットの文明は地球とは比較にならないほど進歩している。

それこそ、例外を除いて全てを論理で片づけることができるほどにな。

お前はいつもその話しをすると早口になるな。


ほら、これを機に現代日本語覚えようぜ?

断る。
けっ!
本なら家にたくさんある。

読めそうなものは…ほら、これとか読んでみなよ。

…仕方がない。
うらしま…たろう…?
そう。

子供への読み聞かせ用に買ったやつ。

むかしむかし…ある…ところ、に、
うんうん。
うらしまたろう…が、す、んで、いまし…た。
そうそう、その調子。


……
30分後
たす、けた…か、め、は…おれ、いに…りゆう……ぐ…じじじよお………
もうやめる!!
あ、オイ!

4歳児でももうちょっとがんばるぞ!

これで読めるようになるわけではないのだから、やっても無駄であろう!
ふん!

てめえには継続の意志ってェのがないらしいな!

日本語がわからずとも我々は生きていける。
そーかいそーかい。

じゃあなんも言わねえ。

あたしは昼寝でもするから、なんかあったら適当に起こしてくれ。
結弦葉には説得する意地がなかったか…。
------------------------------------------------------------------------------
結弦葉。
ん~。もうちょっと寝かせて…。
依頼が来ているぞ。

まったく…ふあ~あ。


んで、どこから?

自宅の…一階からだな。
一階?ばあちゃんかな?


……

ばあちゃーん?
おお、ゆづ。

お前は本当に良い時に来てくれるのう。

ま、まあな。
それで、なんかあったの?
漬け物を作るから、石を取ってきて欲しいんじゃ。
オッケー!

お安い御用さ!


……

お前と違ってばあちゃんには石がなかったな。
まあ山に行けばごまんと転がってるだろ~。
一段と調子が良いな。
ばあちゃんの漬け物は美味いからな。

あたしの大好物だ。

いつか言っていた気がする。
まあ、本当に好きだから何度か言ってると思う。
さて、山に着いた。

ここら辺で探すかな~。

シャウラ、お前も手伝え。
蓋の上に置けるほどの石を探せばいいのだろう?
そう。


……
こういう年季の入った石をひっくり返すとなー、
下から得体の知れない虫どもがわんさか出てくるんだ。

ほらほら。

ムカデはいないのか?
んぐっ。

さ、探せばいるかも…。

この石はどうだろうか?
うーん、半分近く埋まってるから分からねえ。
掘り起こしてみよう。
あんなの話題に出しといて掘り起こせと?
私には手がないからできない。
くっ…。

奴がいたら速攻逃げるからな!?

勝負は一瞬…決めるッ!
うおりゃあ!!
石を持ち上げ、そのまま放るように手放す。
大丈夫!?いない?いないよね!?
今確認している。
…幸いどこにも見当たらない。
はあぁ良かった。


この石大きさ丁度良いな。

よし、これにしよう。

帰るぞー。
------------------------------------------------------------------------------


その日の夜

zzz…
ドスン!と、何か重い物が落ちる音がした。
わああ!ばあちゃんごめんよ!
ってあれ?
おいシャウラー。

さっきなんか音しなかったかー?

ああ、一階から物音が聞こえた。
泥棒かもしれないし、行ってみよう。


……
ふう。

暗い中階段を降りるのはいくつになっても怖い。

どっちからあった?
台所の方だな。
台所…ん?
げえっ!
どうしたんだ?
昼に持ってきた漬物石がない!
随分と物好きな泥棒がいるもんだ。
…結弦葉。
あん?
右の方、何か動くものがあった。
ゴキブリかネズミだろ。
いや、それにしたら大きいのだ。
見ろ、あそこだ。
そんな大きいわけ…うおっホントにでけぇ!
何の生き物だこれ?
……うわっ、カメじゃん!
なぜこんなところにいるのだ?
あたしも分からん。


もしかすると、漬物石だと思って持ってきたのがカメだったのかもな。

どうりで座りがいいと思ったよ。

ふむ…。
問題はこいつをどうするかだ。
泥だらけだし、綺麗にしてみてはどうだ?
じゃあそうする。 


……

お湯加減いかがですかー?
何を言っているのだ。
うるさいっ!
おいおい!こいつケガしてるぜ!?
甲羅のところか。
ん~、ますますどうすればいいかわからん。
わからん。
これはさっき落ちた時のケガだろうな。
ってなるとこっちのせいだし、治るまでうちで看るか。
また家の生き物が増えるな。
宇宙人の分際で地球の生き物に向かって偉そうにするな。
------------------------------------------------------------------------------


翌日

ゆづー!?どこだーい!?
はいはいいますよー!

どうしたの?

漬物石をどこにやったの?
ああ、あれね…。
あれはね、漬物石になる意志がなかったってよ。

うん、いしだけに…。

馬鹿なこと言ってないで探してきてちょうだい!
は、はーい…。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

黒嶺 結弦葉 (くろみね ゆづは)

21歳

田舎生まれ田舎育ち

魔法少女歴10年のベテラン

跡継ぎ問題に悩まされている

シャウラ

マスコットと呼ばれる白くて丸い地球外生命体

結弦葉を魔法少女に引き込む

渋い声

爺さん

結弦葉の隣の家に住む老人
よく田んぼに落っこちる

黄更城 エリー  (きさらぎ エリー)

13歳

魔法少女歴4年

都会出身

超一流企業の社長の一人娘

リゲル

エリーと共にいるマスコット
若々しい男の人の声

立河 みどり  (たちかわ みどり)

8歳

魔法少女歴1ヶ月の新人

孤児

ポルックス

みどりと共にいるマスコット
落ち着いた女の人の声 

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色