10-4

文字数 722文字


 5.

 時刻で言うなら、それは一日の始まりだった。星空に覆い尽くされた太陽の王国の片隅、南東領の丘陵地帯を、南西領の軍団が覆い尽くしている。
 対するは南東領〈言語の塔〉。塔を囲う遥か高き門の前に南西領の軍勢が布陣している、その様子がリレーネがいる陸艇からでも見える。
 戦争の終わり。戦闘の始まり。
 ソレスタス神殿で行われた実験によれば、太陽光を失った人間が完全に消滅するまで三か月。それより短い可能性も十分にある。ソレスタスの神官の証言によって三か月前の実験が発覚した、というわけだから。
 目安として三か月でこの体が完全消滅するとしたら、生命を維持できないまでに体が壊れるまでの日数はもっと短い。体が壊れ始めるまではもっと。
 お願いだから、そこに行かせて。
 リレーネは言語の塔に祈りをこめた眼差しを注ぎながら、窓に指を触れた。
 この地上に未来はありませんわ。南東領の多くの人が本当は知っている通り。
 シンクルスが言うように、宇宙がいずれ終わるとしても、それは今ではないはずだ。未来がないとしても、少しはある。
 それを繋がせて。最後まで生きさせて。
 天籃石の光に満ちる門。それは今、南東領の兵や神官を中に集め、固く閉ざされている。
 言語の塔は神官将以上の地位の人間にしか開けられない。
 門を開ける部隊は決まっているが、それは第一陸戦師団内の部隊ではない。最後の戦いにおいて、シルヴェリアの第一陸戦師団はリレーネを無事言語の塔内部で役目を果たさせるために存在する。
 門が開いた時。門の中での戦闘が終結した時。
 その後に、リレーネの旅は意味を成す。
 指先が窓を滑り落ちる。
 遠くの丘で最初の火が上がった。



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