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文字数 1,199文字
3.
戦火はどれほど遠いだろう。死はどれほど近いだろう。
何の音もしない。誰も来ない。
リレーネは浅いまどろみの中で、別れた人たちと会話をした。
シンクルスがいた。カルナデルがいた。リアンセがいた。アイオラがいた。アウィンがいた。ヴァンがいた。ブレイズがいた。アズレラがいた。ユヴェンサがいた。シルヴェリアがいた。
彼らと話している最中に、ふと悲しい事を思い出す。すると、彼らの姿は闇に閉ざされて見えなくなる。
まどろみは浅いまま続いた。意識が覚醒を拒んでいるようだった。眠りに身を浮かべたまま、リレーネは薄く目を開いた。
白い蝋燭の先端で、温かな橙色が揺れていた。
蝋燭の花だわ。なんて優しい色なんでしょう。
階段を下りてくる誰かの足音が聞こえた。
リージェスさんだわ。朦朧とする意識でリレーネは考えた。リージェスさんに見せてあげなくては。蝋燭の花が咲いたわ。こんなに優しい花。ご覧になって。本当に美しいわ。
リレーネは蝋燭の花を摘もうとし――指に火傷を負い、その痛みでまどろみが吹き飛んだ。椅子に座り、テーブルに伏せて眠っていたのだ。
どれほど時が経ったのか、よくわからなかった。蝋燭はかなり短くなっている。足音を探した。何も見えない。蝋燭台を手に、リレーネは階段へと歩いた。
「リージェスさん?」
誰もいない。階段を上り始める。
「リージェスさん」
リージェスは、あれからどこに行ったのだろう。どうしているのだろう。
もしも、彼まで死んだのなら……せめて遺品を拾いたい。その一心で、リレーネはさまよった。
幾つもの扉を抜け、地上階に出た。
スロープの先に四角く夜が見える。風に吹かれて蝋燭が消えた。気配を殺して壁に身を寄せ、外を覗くと、点々と宙に浮くうつし身たちが見えた。それは遥か夜空、天球儀の網目の向こうに吸いこまれてゆく。天籃石の向こうには、光を放って浮く、恐らく地球の戦艦があった。
そばに兵士が倒れている。
すがるように駆け寄って、それが人の姿を留めていないことに気付いた。
その死は、細密な針金細工に似ていた。軍服から出た手が、頭部が、肌の色を失っている。手も頭もあるのに地面が透けて見えた。顔もない。肉も皮膚も髪もない。もはや血も内臓もない。黒い、すかすかした、穴だらけの、ただ人の形をしているだけの影になり、僅かに残ったこの実体も、もうすぐ消えるのだ。
これが言語崩壊だった。これが言語生命体に与えられた死だった。
どこに行っても、誰もがその有り様だった。
リレーネは駆け回り、生者を探し、声を張りあげた。
やがて、全ての希望が絶えて焼けた砂に膝をつく。
天を仰いだ。
アースフィア人の習性として、天球儀にすがった。
うつし身たちを回収し終えた地球の戦艦が、アースフィアからゆっくりと遠ざかっていくところだった。