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文字数 749文字
4.
足首に火が撫でるような痛みを感じる。リレーネ・リリクレストは足を引き、驚いて床を見るが、何も燃えているものはなかった。鉛筆を置き、椅子を傾けて、月明かりに足をさらす。足首は火傷したように赤く剥けている。
首をかしげていると、廊下からの足音が、部屋の前で止まった。
戸が開き、来訪者は、部屋に月明かりしかないので驚く。
「リレーネ、何故こんなに暗くしている?」
廊下の明かりを背負い、リージェスが尋ねた。
「天籃石は皆さんが使えばいいのですわ」リレーネは鉛筆を握る。「私は大丈夫……だって、鍵ですもの。他の皆さまより言語崩壊が起きにくいから……」
「だからって……」
「あなたは明るい所にいて」
リージェスは入ってくる。「こんな所に入って来てはいけませんわ」そして部屋の戸を閉める。もちろん内側から。リージェスは歩み寄って、リレーネが描いていた絵の一枚を、月明かりを頼りに見る。
それが何を描いた絵だったか思い出し、リレーネは立ち上がった。リージェスは笑っただけだった。
「……あなたに俺は、こういう風に見えているのか」
優しく返されたリージェスの似顔絵を、赤面しながら受け取る。
「リレーネ、ソレスタスを出て進む。南東領〈言語の塔〉へ行くんだ」
行くんですね、と、無意味に繰り返す。このまま進撃する方が、もっと無意味かもしれない。けれど、ここに留まっている方がそれよりもっと無意味だから進む。
よほど辛い顔をしているのか、労わるようにリージェスが肩に手を置く。リレーネは耐えきれずリージェスの胸に抱きつく。
抱き返してやろうと腕を上げたリージェスは、たまたま、窓の外を見た。月が浮いている。
何を予感してか、リージェスはカーテンを引き、月を部屋から閉め出す。