今日から同じ部屋 1

文字数 744文字

 簡単に朝食を済ませてから、彩那とミハイルは、彼の部屋に移動する。
 今日からはいっしょにそこで生活することになるそうだ。
——王子様の部屋ってどんな感じなんだろう
 息づかいも気配も感じる状況ですごすことを意識したら、急に距離が近くなって気恥ずかしくなる。静々とうしろからついてくるメイドたちは、心なしかバツが悪そうな様子だ。やはりミハイルとハインリヒがいるとおとなしいらしい。

「こちらがミハイル様の私室です」
 ハインリヒがドアを開ける。彩那は思わず息を呑んだ。
 ——すごい、広い
 通された部屋は最高級スイートルームみたいだった。天蓋のついたキングサイズのベッドに暖炉、大型のアンティーク家具が設置されている。貴賓室も豪華だったが、どこか無機質な雰囲気があった。ここはもっと優雅で、ある種の生活感も漂う。
——ミーシャは、いつもこんなところですごしているんだ
 じろじろ見るのは失礼とわかっていても、どうしても目がつられてしまう。すると足元から、ワンッという鳴き声が聞こえた。二匹のゴールデンレトリーバーがミハイルにまとわりついている。
「こちらミハイル様の愛犬、武蔵(むさし)小次郎(こじろう)です」
 ——まさか本物がいるなんて
 ご主人様になでられ、どちらもとろ~んとした表情を浮べた。
——なんか、わんこが三匹いるみたい
 そんなことを思っていると、

「ここが、ボクの部屋なんですか?」

 とまどったようなミハイルの声が耳の奥に落ちる。彼はぼんやりとあたりを見回す。いくら自分の部屋でも覚えてなければ他人の部屋と同じだ。
 初めて王宮(ここ)に来て案内された人間(彩那)よりも、きっと内心は複雑なはずだ。ひとりで浮かれたことを彩那は少し後悔した。
 今、彼は“ミーシャ”でしかないのだ。
 彩那はきゅっと下唇を噛むと、巨大なベッドに飛びのった。
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