シャワーとか、歴史とか 4

文字数 633文字

「つやがあって、まっすぐできれいな髪なのに」
「⁉っ」
 不意にミハイルの声が耳元でしたと思ったら彼の指が髪をすくっていた。
肌からたちのぼるいい匂いに、ハンサムな顔が至近距離。しっとりとした空気を吸いこむと頭がぼんやりする。
「お願いしようかな」
「え、いぃの?」
 ドライヤーを手わたされ、彩那はおそるおそる彼の髪を乾かした。
——わ。やわらかい
 するすると指から逃げていく金色の曲線。ドライヤーの音だけが広い部屋に響く。温風にあおられて、ミハイルの髪からシャンプーの香りが散る。王宮だからシャンプーも高級品を使っているんだろう。
「アヤもシャンプーするよね?」
「え? うん」
「お返しにボクも乾かすよ」
「いやっ、いいいぃって‼」
 ミハイルからの爆弾発言に彩那は首をふった。元彼にだって髪を乾かしてもらったことはないし、美容院いく以外、男に髪触れられる機会なんて滅多にないし、未体験だ。
「嫌?」
「い、いやぁっていうか、」
 ミハイルの残念そうな声に彩那はドライヤーのヘッドを無駄に動かす。
「は、恥ずかしい……し」
「アヤだってボクの髪乾かしてるじゃない」
 何を今更と笑うミハイルに、よけいに羞恥を覚えた。
「ありがとう。あとは自分でやるよ」
「う、うん」
 彩那はドライヤーをミハイルにわたす。なんかすごくどきどきした。興奮しているのを知られたくなくて、あわててシャワールームへと引っこんだ。

 パタンとドアが閉まる音を確認したミハイルは、ソファの座面を開け、ワイヤレスイヤホンを取りだした。
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