国家案件に足を突っ込んでいたらしい・・・。

文字数 740文字

「これは、あなたにとっても損はない取引です。昨日、並木通りと大使館前で狙撃されたことは覚えていますか」
「狙撃?」
 物騒な単語に、昨夜の出来事が頭の中で回る。そういえば何かが破裂したような音がした気がする。
「まさか王子様を狙って? でもわたしは昨日このひとと会ったばっかだし、関係な」
「あなたはそう思っていても、相手側は利用価値の高い人物としてあなたを拉致監禁するなりするでしょう。あなたはすでに我が国の機密に関わっているのですよ。同行していただければセキュリティの高い王城内で安全にすごせます」
 まるで、これだけ譲歩してやっているんだと言わんばかりだ。
「そんなの日本の警察にまかせれば」
 一応は日本の国民なのだ。身辺警護なら居住地域の警察官にしてもらえばいい。
「国家機密に関わるのですよ? 治安の良いこの国でそこまでの警護が可能ですか?」
 暗に平和ぼけしていると言いたいらしい。
「もしくは証人保護プログラムなどを利用して、まったくの別人として生きる術もありますが」
「はっ?」
 またもや物騒かつ、縁のない単語が。
「凶悪な事件に関わってしまった人物とその家族を保護する制度です。住所・氏名・免許証などの個人情報を変更し、それまでの人間関係を一切絶ちきる。それならば同行は不要です」
「冗談じゃない! なんで会ったばかりの王子様のために、わたしがそんなむちゃくちゃな条件を吞まないといけないのよ!」
 まったく話の通じないハインリヒに彩那はほえる。
「だいたい、王族って税金で生活しているんでしょ! いいご身分ね。そんな雲の上のひとにとっては、一般人のひとりくらいどうってことないんでしょうね」
「本国では——」
「ごめんなさいっ!」
 眉をひそめ、言いかけるハインリヒの声を、別の声がさえぎった。
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