水面下(2)
文字数 651文字
退院してから数日後。
彩那は新しいメイドを紹介された。
初日から洗礼を浴びせてきたふたりは一身上の都合で辞職したとのことだった。
「レナータ・アッカーマンです」
「コジマ・ホフマンと申します」
ふたりとも、すらりと背が高く目鼻立ちもはっきりしている。
「彩那様は日本出身とおうかがいいたしております。わたくしも日本には行ったことがありまして。お仕えすることができて光栄です」
流暢な日本語に安心してしまう。レナータは明朗な印象だ。一方のコジマは無言で頭を下げた。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
今度はだいじょうぶかなと心配しつつも愛想笑いしながらお辞儀をした。
「恐れ入りますが彩那様。これは文化のちがいもあるかと存じますが、使用人に対し頭を下げられるのは、殿下の婚約者としてはふさわしくないお振舞です」
硬い声のコジマに、ぎくりとなる。
「すみません」
「敬語もつつしまれたほうが賢明と存じます」
「き、気をつけるわ」
なんだか貴族ご令嬢の講義みたいで及び腰になる。女性版ハインリヒみたいだ。
「コジマ。彩那様は初めての海外だそうよ。それに、ご記憶をなくされた殿下をサポートされるためにお心を砕いていらっしゃるのだから」
レナータが難色を示すとコジマは一礼した。
「ご無礼を」
「ううん。教えてくれてありがとう」
あのメイドたちみたいに小馬鹿にした態度は一切ない。だが、これはこれで気をつかいそうだった。
そんな多少の不安はあったものの、彼女たちは、昼食の準備が整ったときも、時間の余裕を持って呼びにきてくれた。