書斎会議 2 ~因縁~①

文字数 872文字

(少しは、なかよくなったみたいだね)
(私は自分の非に対し、正当な謝罪をしただけですので)
 満足げなミハイルに対しハインリヒは淡々と答える。
(雪合戦なんていいじゃないの。童心に帰ってさ)
 ふたりの会話に、ゴットフリートはにやにやと頬杖をつく。

 彩那を部屋に送り届けた後、書斎ではふたたび医師の診察(・・・・・)が行われていた。

(必要以上に彼女と親睦を深めるのはおやめください。昼食時のようなお振舞も——)
(あれ以上彼女に恥をかかせる必要はないし、記憶喪失を印象づけられて好都合だっただろ)
 ミハイルはつっけんどんに言い返す。
(それにマナー講師に僕を推薦するなんて親しくならざるを得ないじゃないか)
(やむを得ずです)
 外部との接触は避けたいところだ。
(しっかりエスコートしてんじゃないの。王子様)と、ゴットフリートが冷やかす。
(そんなことより、捜査の進捗はどうした)
(オレに当たるなっての。取り寄せた防犯カメラ映像に、ばっちりあの子が映っていた。証言どおり、女とぶつかっている)

 ハインリヒに睨まれ、ゴットフリートはPCに防犯カメラの映像を再生する。居酒屋近くの路地裏を千鳥足の彩那が歩いていた。これでは嘔吐するのも当然だ。

(アヤの言っていたとおりだね)
 少しして彩那は通行人とぶつかった。彼女と比較しても、体格からして相手は日本人ではなさそうだ。
(で、その女だが、特にあやしい点もない。そのまま通りすぎている。一応本国と他国の大使館、外資系企業にも聞きこんだが、関係者ではなかった。単なる観光客とみなしていい。ドイツ語話すやつなんてごまんといるからな)

 ゴットフリートは拡大鮮明化した女性の画像を表示させる。ミハイルたちにも見覚えはない。ぶつかった女性はまったくの別方向へと移動し、フレームアウトした。
(この様子では、聞きまちがいのおそれもありますね)
(まぁ、それも否定できないね)
 ハインリヒの指摘にミハイルも苦笑いした。
 彩那は、そのままふらふらと並木通りの方向へと歩いていく。(居酒屋近辺はここまでだ)ゴットフリートが映像を切り替える。並木通りが映った。
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