書斎会議 1~従兄弟⑧-(2)~

文字数 927文字

——こっちだっていい迷惑だっての!
 彩那は、ぼすっとソファに腰をおろした。そもそも最初に巻きこんだのはどっちだ。
 ミハイルはやさしいし、すてきなひとだと思う。でも、それとこれとは話が別だ。嫌みなSPに嫌な感じの従兄弟と、つんつんしたメイドたち。
 既婚者の同期が「義実家に行くのがストレス」と言っていたのが、ちょっとわかった気がする。お城に軟禁でいつ帰れるのかもわからない。そんな現実が重くのしかかった。
 ——いくらバイトだからって理不尽じゃないか?
 ずっと緊張やら興奮やらでいっぱいだったが、今のドア閉めで発散したようだ。ふつふつとした怒りが一気に爆発する。なんなら目の前にある窓ガラスすらグーパンチで割れそうな勢いだ。さすがに理性が働き、彩那の拳は枕元にあったクッションを殴っていた。ばふばふと、めちゃくちゃにパンチをくり返したが怒りはおさまらず——手当たり次第にクッションをドアめがけて投げまくった。ドアの下にはクッション溜まりができていく。最後の一個を力いっぱいにぎりしめる。
「ふざけんな、ばかたれー!」
 ありったけの憎しみをこめ、彩那はドッジボールみたいに力一杯投げた。
ばふん、と空気を含んだ音を立ててドアにぶつかると、クッション溜まりのてっぺんに落ちた。叫んだせいて喉がからからになる。水道がないか見回すも蛇口というものが見あたらない。呼び鈴が目に入った。さすがお城。スタッフを呼ぶしかなさそうである。
——呼びたくないな
 冷蔵庫もあるわけない。うろちょろした結果、目の前のテーブルに水差しが置かれているのに気がついた。さすがお城。
——欧州ってたしか硬水だったっけ? やっぱ味とかちがうのかな
 興味津々で飲んでみたが特にちがいはわからなかった。喉もうるおし、やることもなくなって倒れこむようにベッドに寝ころがった。大使館のものと同じで極上の寝心地だ。
——これからどうなっちゃうんだろう
 頭が冷えると、置き去りな気もちが顔を出す。いくつもの不安が、ひたひたと襲いかかってきた。
——飛行機の中であれだけ寝たし、初めての海外。寝つけるかな
 不安で冴えかける意識をごまかそうと、ちがうことを考える。

 思考がじょじょにとぎれとぎれになり、寝息へと変わった。
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