書斎会議 2 ~因縁~④

文字数 956文字

(じじいの次に動機がありそうなのは、孫娘のヴィルヘルミーナだ)

 オイゲンには三人の孫がいた。特にヴィルヘルミーナに目をかけていたことは、閣僚の間でも有名な話だった。

(ぜひとも妃に、なんて薦めてくるくらいだからね)
 ミハイルは微苦笑する。

『ヴィルヘルミーナ・フォン・ラウエンシュタインです』カーテシーをする少女の姿が脳裏に浮かぶも、容貌は、はっきりしない。記憶にあっても印象にはほとんど残っていなかった。

(その孫娘も死んだことになってるからな)

 ゴットフリートの言葉に、ミハイルたちも剣呑さをにじませる。
ヴィルヘルミーナは二年前に死亡宣告が受理されている。

 他の家族とは異なり、彼女はオイゲンの貴族主義に傾倒していたらしい。そんな様子を心配した両親とも、衝突が絶えなかったそうだ。家族と渡豪した後も、彼女だけは本国を頻繁に訪れ、後援会の人間とともにオイゲンの身の回りを世話していた。

(じじいの死んだ後、十六歳で豪軍に入隊。その五年後に焼身自殺をしたってことになっている)
 現場は、墓地に併設された駐車場の車内。オイゲンも埋葬された、先祖代々の墓がある場所だ。遺体は損傷が激しく、身元は不明。状況証拠しかない中、彼女(・・)()死亡(・・)して(・・)いない(・・・)ことを反証(はんしょう)するものはなかった。

(当時、大きな爆発音を聞きつけた近所の住民が通報している。爆発と炎の程度からみてアセチレンが使われたらしい)

 ゴットフリートが資料写真を表示させる。巨大な炎が車体を飲みこんでいる。
 遺留品は黒焦げのスマホのみだった。

 爆発の少し前、現場近くの基地局が、ヴィルヘルミーナのスマホの電波を受信している。(同時刻、電話を受けた両親は、娘のただならぬ様子に捜索願いを出した。下士官だったからな。基地外に借りたアパートに地元警察が向かったが、もぬけの殻で私用車も消えていた。代わりに部屋からはこれが見つかった)

【私はお祖父様のそばに参ります】

 流れるような文字が目を引く。
 便箋に書かれた短い文面の最後には”Wilhelmina von Lauenstein”と記されていた。ヴィルヘルミーナ本人の筆跡とも一致している。

 直接的な証拠がない中、両親が娘の死をと認めるのは容易ではなかった。
 だが、ようやくこれで、祖父の呪縛から娘が解放されたとの安堵もあったようだ。
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