書斎会議 2 ~因縁~③

文字数 757文字

 オイゲンは十二年前に死亡しており、息子夫婦も現在は豪州に永住している。
(不自然な状況だな)
 ハインリヒも眉をひそめた。
 解散した後援会が、事実上断絶した家の爵位を復させようとしているなど。まして抹消された爵位を。
(権力に尾っぽふってるやつらの考えなんざ知るかよ)

 ゼーヴェリング侯爵——ラウエンシュタイン家は、王家以外で唯一建国当初から残る家系だった。国の(いしずえ)に貢献した五家の筆頭であり、ローゼンシュタイン家に次ぐ権を握っていた。

「いつか薔薇()()を砕くのではないか」

 そうささやかれるほどだったが、先代当主オイゲンは、汚職で逮捕され副首相を罷免。特別規定によりその爵位も剥奪された。

(あのじじいなら、動機も充分だったがな。死んじまえば叙勲なんぞ、くその役にも立たねぇがな)

 彼が主犯ならば、元・後援会会員たちが動いているのも合点がいく。しかし、故人の遺志を継ぐとしても、単なる支持者の集まりが、テロまで起こすだろうか。

(ディルクの連絡先も、名義は元・後援会員のものだった。元・会長にも任意で聴取したが、もっともなことを言ってきやがった)

『たしかに私はダミアン王子支持者です。ですが今回のような暴力的手段で注目を集めても意味ないですよ。ダミアン王子への心象が悪くなるだけです。十年以上前に解散したのに、元メンバーの行いに責任なんて取れませんよ』

 元・会長はアリバイも成立している。

(息子夫婦に動機はないのか?)

 ハインリヒがゴットフリートに()く。

(ないな。もともと政界に興味をもっていないうえ、貴族矜持の馬鹿高いじじいとはそりが合わなかったらしい。分家筋もじじいがいなくなってすみっこでおとなしくしている)

 息子は妻子を連れ、オイゲンが二度目に逮捕されたと同時に渡豪。実業家として成功し、現在は妻の姓を名乗っている。
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