第五章 【ヒビキ】(3/3)

文字数 1,642文字

 それから観られるだけ観たけど、どれもこれも同じような動画だった。フィルターがかかってる?
「ヒビキ分かる? カイチョーの投稿にパターンがあるの」
「パターン?」
「うん。短期間のうちに3回あげたら、1、2ヵ月空けてまた短期間で3回あげてる」
 タイムラインをhoukeikamenで検索して、日付でソートするとユサが言うとおりのパターンが見て取れた。
「ホントだ。よく気づいたね」
「システムやってると、タイムスタンプにはうるさくなるんだよね」
 なるほど、習性ってやつか。
「ユサんところの社長SNSってあるじゃない。あれって見てる?」
「カイチョーの『桜の森の満太郎のつぶやき』? 見てない。一、二度見たけど、許せなくって」
 それな。
「ちょっと見てみようか」
「あいよ」
 ふーん、でもフォローはしてるんだ。
「これこれ、一番許せないのが。ブラピの初出演映画が『リバー・ランズ・スルー・イット』で、これが最高傑作だって投稿。ちがうから。クレジットなしだと『追いつめられて』って映画で、有名になったのも『テルマ&ルイーズ』のほうが先。カイチョー情報がいい加減。それに最高傑作は『セブン』でしょ」
 あたしはブラピの映画『ワールド・ウォーZ』くらいしか知らない。観てないけど。てか、そこ? 許せないのって。

 ざっと見ただけだけど、スレッターの投稿の前後でよく釣りに出かけてるな。雄蛇ヶ池だったり、名曳川だったり。最近のだと、これってあたしがYSSを訪ねた日だな。時間もちょうど。あの短時間で釣りして来たんだ。どんだけ暇なの。

 おもしろい写真見つけた。なるほどね、こーゆーこと。この写真の端に映ってる白い車のお尻のラインは、エクサスLFA。こんな高級車、辻沢あたりに1台だけだよ。これ釣り場じゃないな。森の中? 広場っぽいな。どこだろ。もう一つの写真のほうも森の広場だな。同じ場所? 木の様子が少し違うような。倉庫みたいな建物あるし。別の場所かも。コメントは、「餌場視察」。情報はこれだけか。町長とミミズでも掘るつもりとか? まさかね。
「この記事、他の情報ないかな。裏コメントとか」
「ちょっと待って。この写真をローカルに保存して。ツール、ツール。これをこいつで開くと、ビンゴ! イグジフファイルだ」
「イグジフファイル?」
「撮った場所とか時間が埋め込まれてる画像ファイル」
 そうか、文字だけが情報じゃないよな。
「どうしてわざわざそんなファイルをアップしてんの? この人」
「位置情報ONにしてるスマフォとかだと、設定変えないままだと勝手にこのファイル形式で撮影したりすることある」
「ってことは」
「抽出した緯度・経度をゴリゴリマップで検索して」
 作業慣れした感じする。ユサ元々SEだからあたりまえか。
「場所が特定できるっと。来た。青墓の杜」
 いっつも暗くて陰気臭くて、辻っ子は夜に絶対近寄らない場所。こんなところで何してるんだろ、町長と深夜の2時に。
「衛星画像で拡大してみて」
 あるね。森の中にちょっと開けた場所。少し離れたところにも広場ある。こっちは広くて建物があるな。行くとしたら、辻沢バイパスから間道入って真っ直ぐ青墓の杜に入って、間道から先はこれじゃ分からないな。行ってみるしかないのかも。一人で行くのは嫌だな。ユサは青墓詳しいけど、一緒に行ってもな。

 気付くとカーテンの外が明るくなっていた。朝か。
「そろそろ帰るよ」
「また来てくれる? ここ一人じゃ広すぎて、なんか嫌なんだ」
 そうだね、あたしらのお給料じゃ住めない広さだね。ユサ、頑張り方変えないと。
「じゃあね。今度また二人で子ネコちゃんたちに会いに行こう」
「うん。でも、こんなことしてたら、あの子たちに怒られちゃうかも」
 また、泣くー。おーよしよし笑。抱きつくなって。

 ユサに『スレイヤー・V』インストールしてもらった。初めて、スマフォのゲームって。こんなのにどうして夢中になるのか分からなかったけど、やってみたらめっちゃハマった。徹夜上等! 課金上等!
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