第一章 【ヒビキ】(4/8)

文字数 1,092文字

 今日は週1の義太夫講座の日。別にあたしは介護カウンセラーの資格を持ってるわけじゃないんだけどな。お師匠さんたら、会うタンビに色んな相談してくるんだよね。なんでだろ。
 カイシャでおじいちゃんばっかに囲まれて仕事してると、自分が介護士になった気がしてくる時があるんだよね。カンペキな聞き役っての? だからだろな、そーいうニオイを発してしまってるんだよ、あたしは。
「ヒビキさんがいてくれて本当に助かります。あの人ったら、いけない遊びに手を出して、あとに引けなくなってて」
 で、手を引かさせてほしいんですよね。社長みたいにコロセだの、始末付けろとか物騒なこと言わないですよね。
「お仕置きしてください」
 取りようによっちゃ、それが一番おそろしいんですけど。カイシャのおじいちゃんたちの茶話で耳にしたことあります。針を咥えた按摩さんがコロシを請け負うって時代劇。コロシをお仕置きって言うってのも。まさかね。
「お灸をすえてください」
 おっと、次はヤイト屋ですか? って、フツーに聞けば意見してほしい。だよ。おじいちゃん翻訳機能が働きっぱなしで、あたしの頭の中は殺戮の巷だ。もはや介護カウンセラーの資格どころかコロシのライセンスになってる。

 社長が一度行ってみろ、なんでも勉強だぞって役場のカルチャーを勧めるから、時間が合いそうな『気軽に始める義太夫講座』っていうのを試しに受講したら逃げらんなくなった。あたししか受講者いないんじゃ、1回きりで終わりになんて出来なくて、5期連続受講者認定されて記念にゴリゴリカードもらう始末。ちなみに辻女の夏服バージョンがプリントしてあるやつだった。母校のだったからめっちゃ嬉しかった。
 お師匠さんは宮木野神社の宮司さんの奥さん。昔取ったキネヅカだけで講師認定うけて、開講しちゃったらしい。ずっと同じ台本で三味線ベンベン鳴らして語ってるけど、あたしにはいまだによさがわからない。それに講座時間のうちほとんどが、お師匠さんの身の上相談。これやってちゃ受講者来ないっしょ。
「かなえてくださったら、志野婦神社をヒビキさんに譲って差し上げてもいいですよ」
 またまた。お師匠さんたまに変なこと言い出すんだよね。
「あの人がいなくなれば、あすこも私のものですから」
 って、お師匠さん。ダイジョーブ? 旦那さん追い出したって、あそこはもともと神様のものですよ。あたしは、いったいどなたとお話をしてるのでしょうか?
「それでは、お願いしますね。じゃあ、また来週、お講座で」
 お願いされちゃった。これで抱えてるプロジェクトは町長と会長と宮司の3つになった。って、どれもバーチャルだけど。
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