第二章 【レイカ】(4/8)

文字数 1,716文字

 なんか疲れた。駅舎の中なつかしー。お、このニオイは。山椒販売店。
「宮木野神社ってどっちですか?」
 あれはゲリ男改めセーヘキ持ちが一緒に下りてた。あー。手提げカバンも制服キャラだ。カンペキ制服系のセーヘキ持ち。なんかやだな、宮木野神社行くならしばらく方向一緒だよ。人を見た目で言うのもあれだけど、あいつの目、ゾゾゾってするんだよね。ウチのチョッカンよく当たるんだよ。マジで。あいつ行っちゃうまで山椒販売店ひやかして時間つぶそ。

 駅舎にいっぱい飾ってあるノボリ、「ゴマスリで町おこし」ってキャッチフレーズはさすがに卑屈すぎるだろって、ここ出るときは思ってたけど、今はまあ、ありかなって。ちゃんとしたスリコギだと山椒のいい香りするんだよね。心が安らぐっていうか、ほっこりするっていうか、幸せな気持ちになるから、ウチは大好き。まあ、辻沢で山椒嫌いなのはヴァンパイアだけって言うからね。辻っ子ならみんな好き。

 スリコギ棒も売ってる。辻沢産の山椒の木で出来てるって。ゴマスリセット直販か。ふーん。今の辻沢はどっちかつーと山椒の実よりスリコギ棒押しなのかな。
「そこのお姉ちゃん」
 ビックしたー。トートツに話しかけて来ないでよ。って、お店のオジサンか。
「大きな荷物持って、お迎え待ちかい?」
 子ども扱いすんな。こう見えても3年ぶりの帰省ってやつだよ。ウチを知らないなんてモグリだね。なんてね。
「なら、ゴマスリセット、お土産に買っていきなよ」
 本格ゴマすりセット(スリコギと鉢ともに)(5400円)、MYゴマすりセット(1080円)、ゴマすりストラップ(540円)か。ショージキ、どれもイラナイ。
「これはお姉ちゃんにはちょっと高過ぎるかな。でもおすすめ。本格ゴマすりセット。もしもの時、攻撃と防御にも役立つし、ってね」
 オジサン、すり鉢かぶってスリコギ構えて、どんな勇者だっての。それで何撃退すんの? オカシイ。おっと、あのセーヘキ持ちが頭よぎった。
「じゃあ、これはどう。MYゴマスリセット。こんなでも、本物の山椒のスリコギ棒なんだよ」
お、ぐいぐい来るね。でも、イラね。
「これ! お姉ちゃんぐらいの若い子に人気のこれなんかどうだい。ストラップ。このスリコギの頭のトコロにボタンがあるでしょ。そうそれ。押して御覧」
 ゴリゴリゴリゴリ。
「ゴマスリの音がすんだよ」
ドヤ顔すんなって。よくあるキノーっしょ。 
「この町は危険がいっぱいだよ。だまされたと思って買っていきな。ちょちょっちょと待って、悪いことは言わないって。特にお姉ちゃん可愛いから、オジサン心配」
 買っちゃった、MYゴマスリセットとストラップ。二〇円おまけしてもらった。ウチもジモティーとして町の繁栄にコーケンしないといけんからね、フーン(ハナ息)。そういえば、このストラップさっきのJKもしてたな。ひょっとして、流行の最先端なの? カバンにつけとこ。

「ゴマスリセット。大鉢の」
 お、ゴマスリおやじVSゲリ男改めセーヘキ持ち。
「いらっしゃい。本格ゴマすりセットね。5400円。100円のおつり。まいどあり」
「……」
 商品もぎ取って行っちゃった。ゴマスリおやじもしばし茫然。
「最近あーいうの多いけど、なんだろうね。お姉ちゃん、危険ってのはあれだからさ」
 オジサンがサムアップ。分かる。だからあたしもサムアップ。

 見てのトーリ、うちのイナカは山椒が特産なんだけど、ちっさい時からウチは山椒を食べるって習慣がなかったのね。なぜかっていうとウチのママが山椒はダメですって言って食卓にいっさい出さなかったから。ワケ分かんないっしょ。だから、卵豆腐の上に木ノ芽のっけたり、うな重に山椒かけて食べたり、あとは佃煮食べたら山椒の実がピリッとしてたりって、全部トカイセーカツで初めて経験したんだ。あれは、びっくりするぐらいうまいよね。

 あらら、壁に行方不明者の貼紙張ってある。笑顔の写真が余計いたましーよ。しかしキレーな子だな。どこのJKだろ。制服はボコーのじゃない。隣町の青洲女学館か。ホントやだね。こーゆーの。はやく見つかるといいけど。でも、こんなとこにポスター貼っても見つからないんだよ、結局。それが辻沢。

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