第二一章 【レイカ】(1/2)

文字数 2,280文字

 傍聴席から誰かが飛び出して来た。
「レイカ!」
 なんでカレー☆パンマン? 
場内。爆笑。
でも見る人によって見え方が違うんだ。
ウチにとっては、あのカレー☆パンマンはスーパーヒーロー。
助けに来てくれたんだ、カリンが。

「あんたたちの親族を殺したのは町長だ!」
「これを見てください」
 セイラ。いつの間に後ろに。でっかいバインダー抱えて。
モニターに大写しになった真っ赤な背景のスレッター画面。
妓鬼討伐の記事が投稿されたタイムライン。
逐一増えてゆく投稿の数。
「なんだ、それがどうした」
「すべて、辻王がやったことだろ」
「違う。これは今現在辻沢で起こっていることだ。今まさに人間のゲーマーを使ってヴァンパイアを殺させてるんだ」
「ナニをいう。人間なんぞに、我々が殺せるものか」
「正確にはヴァンパイアのあなたたちの留守を狙って、お連れの方を殺させてるんです。今日は、皆さんがここに集まる日。それを狙ってゲームは『妓鬼・フィーバーナイト』を開催中です。大量のゲーマーが辻沢の街に放たれています」
「セイラ、生実況を。管理者でログインして」
「データベース覗いたけど、セイラのIDだと参照までしかできなかったの。管理者IDは見れたけど、パスワードが暗号化されててダメだった」
「マジ? どうして言わなかったの?」
「だから不安だって」
「なんかそれらしいの入れちゃえば?」
 カリン、それはちょっと乱暴すぎじゃ。
「設計書じゃ、パスワードは英数文字の混合なんだけど」
「レイカ知らない?」
 知るわけないでしょ。
痛い! このゲリ男改めセーヘキめ! ぶっ飛ばす。ここでウチがやられたらヒマワリにゼリー届けらんないから……。
(あれ、ここに入れといたドカ盛り白桃ゼリーなくなってる)
(「それにちゃんとお礼置いといたろ」)
(「ごシューショーサマ。レイカはこれからハリツケゴクモンっと。じゃ、ゼリーまたよろしくな」)
(死んだらゼリー届けらんないよ)
 そっか。あの時、引き出しに入っていたメッセージはドカ盛り白桃ゼリーのお返しだったのね。
 何て書いてあったっけ。「レイカ死ね」だった。まったくヒマワリらしいよ。
「レイカシネ! セイラ! ローマ字は、レイカシネだ」
「reikashineっと。Enter!」
 画面には「IDかパスワードに間違いがあります」って出た。
「だめ。きっと数字とか入ってる」
「なんでもいいから試したら。ちょと出て来過ぎだよ!このカーミラ・亜種」
 カリン、蛭人間にもみくちゃにされそう。
「3回失敗するとロックされちゃうから、ここは慎重に」
「セイラ早く! こんなに改・ドラキュラいたら、制服聖女エリ様に会うってムリゲーじゃん。ラストステージの仕様おかしいだろ」
(「なんと、制服聖女エリ様がお見送りしてくれた」)
(「これはありえん現象のようだぞ」)
(4階と2階だけ停まんなかった。縁起悪い)
 エレベーターで会った変な人たちの会話。
 エリ様ってヒマワリのことじゃん。
(「あのゲームとSNSの仕様は全部ウチが決めた」)
 そっか、ヒマワリがわざと押したんだ、あの時のエレベーターのボタン。
「セイラ! 2番目と4番目変えてみて」
「変える? わかった。ハッカー文字で考えてみる」
「oを数字の0、bを数字の6とかにするあれ?」
「そう。2番目と4番目はeとkか。eは数字の3でいいとして、kは思いつかない。大文字にしてみよう。r3iKashine。 Enter! ダメだ」
「なんで、2番目と4番目なの?」
「展望エレベータ降りるとき4階と2階だけ止まらなかったの」
「はぁ? どういうこと?」
「ちょっと待って、2番目と4番目じゃなくて、死人の42かも。悪趣味好きのヒマワリならそこまで……」
「ヒマワリなの? このパスワード登録したの」
「なるほどね、あいつは42って数字をド真中に入れてる。あったよ、ここだ。aを4、sを2で、reik42hine。 Enter! 入った」
 傍聴席の人たち、モニターを見上げてる。
暴れんな! 町長。
〈ただ今、西廓五丁目の妓鬼邸に侵入しました。ツレの1体は外出中という情報が、運営から事前通知ありました。この機をのがさず、一気に討伐します〉
場内から声があがる。
「あれは、私の家の玄関だ」
 みんなモニターに見入る。
〈寝ているヴァンパイアを今仕留めてきました。少し様子が変です。カーミラ・亜種などのような爆発現象はなく、ただ息絶えたように見受けられました。簡単すぎて後が怖いです〉
 ギジドウのざわめきを、一つの怒号が全て打ち消した。
「辻まん!」(大音声)
〈人です。これは人間です。ヴァンパイアなどではない! ああー、オレは何ということをしてしまったんだ〉
 傍聴席のあちこちから悲鳴が上がってる。
本当にこの人たち、ヴァンパイア?
「町長! どういうことだ」
「このゲームが町に潤いを与えるのではなかったの?」
「貴様! 辻を裏切ったのだな」
「前からおかしいと思ってたのだ」
「だから、余所者なんかに町政を任せるなと言っただろ」
「うるさい! いまここで言うべきこと?」
 なんか変な臭いする。
菜っ葉の腐ったような強烈な匂い。
町長が変身してる。
ヴァンパイアの本性を現わしてるんだ。
全身土気色の肌。
骨格がごつごつと浮き出して、きもい。
手足の指がめっちゃ長くなった。鉤爪がどんどん伸びてる。
うわ! なにコイツ。翼生えて来たんだけど。
町長って、ザ・フライヤーだったんだ。
チートじゃん。それって、チートすぎだよ。
ずるい。
でも逃がさない。捕まえててやる。
絶対放さない。
誰か、ウチに武器を頂戴。
こいつを八つ裂きにしてやる! 
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