第十五章 【レイカとヒビキ】(6/6)

文字数 2,034文字

……。
ゴリゴリゴリゴリ。
どこ? ここ。なにこれカーテンかけられてる。やだ。ウチ、裸だ。誰? 誰なの? ウチのミサオを奪ったイケメンは?
「レイカ」
「カリン? 無事でよかった」
 ウチ皆殺しにしたと思った。またガマンできなくて。
「ゴメンね。こんなところに閉じ込めて。でも分かって。ウチらあんたが怖い」
 檻? 地下室なの?
カリン、寝たまんまって、起き上がれないんだね。無理もないね。セイラは? ゴマすってるのか。
「ごめん。それやめてくれる?」
「ゴマするの、やめてあげよ」
「でも。この子あんなに」
「いいよ。やられるんなら、夜のうちにやられてたから」
ゴリ。
「レイカは、昨晩ね……」
「悪いんだけど、何か着るものくれないかな」
「あ、ごめん。ちょっと待ってて。車にあると思うから、取ってきてくれる?」
 セイラ、足もとフラフラ。扉開いててよかった。外は明るいんだね。ココロどうしたろ。
「レイカ、寝たまんまでゴメンね。体力使い果たしちゃったみたい」
 セイラより吸われてたからね。セイラ戻ってきた。
「車の中、これしかなかった」
 やっぱり『血塗られたJK』コスなんだ。
あ、カレー☆パンマンの被り物はいいです(無声)。
「昨日の夜のこと」
「だいたいわかるけど。ココロは?」
「そのことだけど。昨日の晩、レイカが怪物になった時、あ、ゴメン」
「いいよ」
 どうしたってウチは怪物だよね。
「辺りにいた蛭人間が全部、……アレに群がって、おっきな蛭人間団子になったんだけど」
〈蜂球戦術という〉
 また? いーかげんにしろ、げっぷやろー。
「アレは地下室の外までそいつらを引き摺って行ったんだ。そして、扉が閉まったら、しばらくしてすごい地響きがして」
「うん」
「収まったと思ったら、今度はアレが扉開いて降りてきて、ウチ正直終わったと思ったけど、そうじゃなかった」
「……」
「ココロをウチから引き離そうとしてくれて、でも中々ココロは離れなくって、そしたら」
「そしたら」
「アレがなにかココロにささやいたの」
「なんて?」
「わからない。でも、それでココロはウチからはなれてくれて、離れたら今度はアレの首にかみついて、しばらくそうしていたんだけど、満足したのか、いつものようにロッカータンスに戻って行った。今は、その中で寝てると思う」
 ココロ、ロッカータンスの中にいるんだ。よかった。
「そのあとは、ウチが襲われる番かと思ったら、アレはそこに倒れて動かなくなった。ウチらもそのまま気を失ってしまって気づいたら明るくなってて、レイカが檻の中に裸で倒れてた」
「だから、上からカーテン持って来て掛けて」
「今ココ」
「ココロみたいになった人は、フツーはヴァンパイアにかみつかないって聞いてたけど」
「蛭人間もかみつかないって」
 そうなんだ。いろいろメンドーなんだな、ザ・デイ・ウォーカーって。
〈蛭人間どもは噛みついたのではない。奴らは、蒸し殺そうとしたのだ。ニホンミツバチが大スズメバチを蜂球で熱殺するのように。そもそも蛭人間というネーミングからして……〉
「勝手にしゃべんなって」
〈蜜蜂人間のほうが……〉
「あー、うっさい!」
「レイカ。大丈夫? 一人でしゃべってるけど」
「あ、気にしないでください」
「ヴァンパイアも大変そうだね」
 けっこー辛いです。
「カリン。セイラそろそろ帰りたい。立てる?」
「うん。なんとか。肩貸してくれると助かる」
 置いてかないで。またウチ、放置プレー?
「あのー」
「鍵かけてないから自分で出ておいでよ。一緒に帰ろ」
 セイラがカリンに肩を貸して階段に向かおうとすると、
「ココロにさよならして行かなきゃ」
 ココロ、ロッカータンスの中で丸くなってた。まるで寝床の子ネコみたい。ココロの寝床には普段着と一緒に、女バスのユニホームが敷いてあった。そういえばココロ、ヒマワリのいなくなる前の日、初めてユニホームもらったんだよね。サブはいっつも二年生だったから。ココロすごくうれしそうだった。あの時だけは、ギスギス忘れてみんなでお祝い言ったよね。結局、最初の事件で休部状態になっちゃって試合はなかったんだけど。ん? この中の匂い、窓口に来た時のほっこりしたのと一緒。そっか、ココロは日向ぼっこしる子ネコの匂いなんだね。
 地下室を出ると、家の半分が吹っ飛んで外が丸見えだった。誰がこんなことしたの? って、多分ウチなんだよね。ココロの大事な隠れ家、壊してゴメンね。
 この町はやっぱどーかしてる。フツー警察とか消防とか来るんだろーけど、しんと静まり返って、何も起こらなかったよう。
「レイカ。送ってくよ。乗って」
「歩いて帰りたい気分」
「そのカッコウで? 『血塗られたJK』だよ」
 そだった。ん? 木ノ芽のイー香り。庭の隅っこに植わってるや。お墓がある。手、合わせにいこ。板切れの墓碑にフォー、ブンチャー、チャーゾーって書いてある。
「ありがとう。それ、ココロが飼ってたネコたちのお墓」
 わかるよ。でも詳しい話は聞きたくないな。多分ココロが……だから。
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