第十七章 【レイカ】(6/11)

文字数 1,680文字

……。
(ねえ、ウチら友だちだよね。なら、助けてよ。お願い)
……。
 何も見えない。ん? 音がする。何の音かな。ジュルジュルって。あ! これはきっと、死人のエキスをすする音だ。アン・ライスの『ヴァンパイア・レスタト』でそーいう場面あったもん。
 石の牢屋に閉じ込められたレスタトが、飢えに苦しんでる時に、ジュルジュルっていって、死んだ人からにじみ出るエキスをなっがーい舌ですすって、コーコツとするの。
 レスタトって映画の『インタビュー・ウイズ・ヴァンパイア』だと今いち情けないキャラだけど、本当は最強のイケメンヴァンパイアなんだよね。それがヴァンパイアにされて初めて喉の渇きを感じるってのが石牢の場面。すごく印象的な腐臭漂う名場面なんだ。
 きっとウチはたくさんの死体と一緒に石の牢屋に閉じ込められてるんだ。また、ジュルジュルって。怖いよ。ゾクゾクする。楽し。
「ホントに、性懲りもなく。ジュルジュル」
 この声、聞き覚えある。
「お前は昔っから変わらねーな。ジュルジュル。そーいうとこ直せよ。ジュルルル」
 ヒマワリ? ヒマワリの声だ。生きててくれたんだね。助けに来たよ。この目隠し取って。おねがい。顔を見せて。って言いたいんだけど、なんで声でない? ガムテか。まっず、ノリの味。
「んんんじゃわからねーよ。ジュル。ほれ、ヒマワリ様の顔を拝みな」
 眩し。ここは?
壁にかかってるの町のマークだ。
町長室? なんだ、石の牢屋でないんだ。残念。
 あれ、またムーディーな部屋に戻ってる。あ、秘書さん今晩は。でも、ちょっと待って。よっく見ると。ヒマワリ? ヒマワリだよね。ヒマワリ、なんかやつれたね。
やっぱりココロと同じで制服着てるのね。
って、それ違うガッコのなんだけど。
ショーケースのやつだ。袖にDJって入ってるやつ。ヒマワリ、キレイ。じゃなくて、なんで、ヒマワリそんなの着てるの?
「なんでこんな服着てるかって聞きてーのか? ハナゲオヤジの趣味に付き合わされてんだ。ムリヤリ」
 ヒマワリのパパってそういうセーヘキ持ちなんだ。お互い変な肉親持って苦労するね。
「お前の兄貴もみょーなセーヘキもちだから、ウチのくろーもわかんだろ。ジュ。おっとゼリーこぼしちまった。ティッシュ、ティッシュ。制服汚したらハナゲオヤジがキレやがるかんな」
 ゼリー? あ、それ。ウチのドカ盛り白桃ゼリー。なんでヒマワリが食べてんのよ。わかった。ヒマワリだね。ウチの机に変なメッセージ入れたの。このゼリードロボー。
「は? 今、ウチのことドロボーって思ったろ。町役場全部がウチの家みたよーなもんだから、役場にあるのは、みんなウチんだかんな。それにちゃんとお礼置いといたろ」
 なにコイツ? わけわかんない。
そーだ。ミワちゃんとナナミは。
「何探してる? お友だちか? あいつらは議事堂だ」
 やっぱり捕まったんだね。今すぐ助けに行かなくっちゃ。
「ヒマワリお願い。縄をほどいて。あ、喋れた」
「お、お、お、お。本性見せたな。このお天気おねーさんめ」
 お天気おねーさん? あ、ザ・デイ・ウォーカーのことね。
「どうなってんの?」
「牙だよ。牙出てっから」
 ホントだ。牙出ちゃってる。
「ほー、お前の牙は、出し入れ自在なんだな。回転とかすんのか?」
 グリングリン、ウイィーン。イィーンウ。ウイィーン。
「一度出るとなんでもOKな感じみたい」
「感心するよ。で、抜けそーな歯みたく指で押すとぐらぐらとかしてんのか?」
 指で押すと? あれ? 手、動かない。
「ヒマワリ、お願い。縄をほどいて」
「縄? ジュジュル。何のことだ?」
「だって、体動かない」
「おめでてーな。お前は、そろそろ自分のキュージョー理解しろや」
 どぃうこと? 
「このゼリー賞味期限切れてたぞ。今度はちゃんとしたの買っとけ。って無理か。もうすぐ死ぬ奴が笑」
「もうすぐ死ぬって?」
「これだよ。貧にゅー」
 痛ーい。人のおっぱい足蹴にしないでよ。カンボツになったら許さないからね。え? なにこれ。 刺さってる! ウチの胸に木刀、エグイの刺さってるんだけど。痛いよ。腰立たない。力出ないでーす。
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