第十三章 【レイカ】(6/9)

文字数 998文字

 ミワちゃんとは連絡がとれなくなっちゃった。ナナミに電話したら、うちおいでって。ありがたい。聞きたいことが山ほどあるし。とりあえず、PKし(パンツ変え)て、スムージー一本持ってナナミんちへ。

 ナナミんちは山椒農家。山間の山椒畑の道を歩いてたら、木ノ芽のいい香りがしてて、山椒の実がなってていい匂い。だめだね。ほんわかしちゃって、足が前に進まないっての。もう、ここでいいや。ナナミんちなんて行かなくて、ここで野宿しようなんて、フツーは思わないでしょうけど。決まり、今日はここで野宿。
「レイカ。何してんだ」
「あ。ナナミ。こんちわ」
 ナナミのダッドキャップ姿、似合いスギ。
「もう夜だし。遅いから来てみりゃ、案のジョーだよ。いいから、車に乗れ」
 かっこいーね、この農作業用軽トラ。運転席に屋根がない。
「山椒で酔っぱらいやがって。山椒の木、抱っこしてて気持ちいかったか?」
「うん、とっても」
「刺、痛くなかった?」
「全然」
 御邪魔しまーす。ナナミんち藁ぶき屋根ですっごい農家って感じするね。
「おー、あんた、辻王のところの」
はい、レイカさんです。ナナミのおにーさんですよね。ママのお葬式でお見かけしましたかも。全然覚えてませんが、その節はどーも。今晩はお世話になりますのでー。
「あんたのおかーさんはホンに美人だった。惜しい人をなくしたよ。お、ちょっと目みせてみ」
 まーた、ママの話ですか?
「なるほど。大変だね、あんたも」
 なんなの? ったく、男どもはどいつもこいつも。
「ウチの部屋こっち」
 古い日本家屋の匂いする。いいな、こういう家って。わー囲炉裏だー。周り鏡いっぱい置いてある。そういえばスリコギセットもあっちこっちに。よっこらしょ。畳なんて久しぶりー。日本人でよかった感。そっだ、これ冷蔵庫に入れといてもらえる?
「これ、ミワの」
「そー」
 スムージー。これないともうウチ、生きてらんない。それはおーげさだね。
「しかし、こんなに。ミワ、仕上げ間に合わなかったのか」
 家じゅうが山椒の匂いって、ここは極楽浄土か?
「ウチなんで」
 こんなに山椒にやられてんの?
「辻のヴァンパイアだからね」
 いきなり核心つくね。 
「まあ、ネコのマタタビみたいなもんだよ」
 ニャー。
「可愛くないから。鏡見ろって。今ならまだ映るから」
 目もとチーク濃すぎたかな。ここ何日かで肌の色が白くなったから、薄目にしないと目立ちすぎちゃうんだよね。
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