第八章 【レイカ】(2/2)

文字数 1,074文字

 ミワちゃんにタクシーで家まで送ってもらった。セイラに借りたハンカチ血だらけだ。洗っても落ちなさそうだから、買って返さなきゃだよ。疲れた。お風呂入って寝よ。

 傷小さいのに、なかなか血が止まんない。アタマやると血止まんないっていうよね。お風呂入るのやめとけばよかったかな。

ん? ニーニーの部屋のほうで音がした。

やだな。大急ぎで部屋に帰ろ。ふー、全部鍵かけた。やっべ、ドライヤー持って来るの忘れた。急いでドア開けたからチェーンを外すの忘れてた。

で、一回閉めようとしたんだけど、そん時すっごい力でドア引っ張られて、ギリギリチェーンが引っかかって止まって、向うはドアを開こうと揺さぶるものだからウチは弾き飛ばされそうになったけど、必死でしがみついて、めっちゃ怖いの我慢して、無我夢中でドア閉めてもっかい全部鍵掛けたんだけど、どうやってそれができたのか分かんなかった。
 ドアの隙間からちらっと見えたのは小さな子供だった。不吉な色の目をこちらに向けて、銀色の牙から涎を滴らせてた。あの子供はニーニーだ。ウチと2段ベッドで寝起きしてた頃のままのニーニーだ。ニーニーもしかしてヴァンパイアだったの?
 あれじゃ学校にも行けない。だからずっと引き籠ってた? ウチ、これからあんなのと二人で生活すんの? 超怖いって。痛! ズキって。血が止まらない。この傷のせいでニーニー出てきた? 血に誘われて?
 
 夜じゅーずっと、ドアの向こうに何かがいる気配がしてた。ムチューで布団かぶってたら、パパに教わった呪文を思い出した。

スギコギの唄。

寝れない夜、パパが教えてくれたやつ。

どこからあさがあけましょお
すぎこぎもって
 ごりごりごり
 すぎこぎもって
 ごりごりごり
 もうすぐあさがあけますよ
すぎこぎけずって
 ぎりぎりぎり
 すぎこぎけずって
 ぎりぎりぎり
 そうらあさがあけました

繰り返し、繰り返し、ずっと、ずっと、何回も、何回も、朝が来るまで布団の中で歌い続けた。((ここを開けろ、中に入れろ))って声が頭の中でウルサいから、ワーって聞こえなくなるように一生懸命続けた。マジ一生懸命だった。
 したら、どっかのワンコが鳴いたんだ。布団から顔出すと窓の外、明るくなってて、ドアの外で足音が遠ざかっていくの聞こえた。ウチほっとして、少ししてニーニーの部屋の方からドアが閉まる音がして、ゾッとした。
 
 ここら辺のワンコがみんないなくなっちゃったって知ってる。誰かが全部殺して回ったって、前園のオバサンに聞いたんだ。だから、きっとあれは、あの世のヘーチャンがウチを助けるために吠えてくれたんだよね。
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