第十章 【ヒビキ】(2/2)

文字数 2,244文字

湧き出た男が言う。
「必須グッズに山椒のスギコギがあるけど、辻沢のヴァンパイアがなんでも山椒に弱いってのは、半分本当で半分うそ」
 こういうマンスプレイニング男には教えてちゃんになるのが一番。
「ど、どういうことですか? だって、山椒の木にはヴァンパイアは寄り付かないって」
 辻沢の常識だ、そんなことは。
「マニュアルどおりにやってちゃ、命幾つあっても足りないってこと。ヤツラには刀とかの金属製の武器は首以外効かないから、みんな山椒で作ったスリコギを持つんだけど、向うさんは怯む程度。でも山椒の古木の武器は一突き出来れば麻痺させられる。そうしておいて首を刈る」
「え! 首を刈る?」
 オーゲサなリアクション。
「あ、今のは言葉のあやだよ。首が弱点だからそこを狙うって意味」
 なるほど。
「僕たちさ、ついこの間、返り討ちに遭ってね」
 あ、後ろの方たちお仲間さんですか? こんばんわ(無声)。まー、Tシャツお揃いで。ウニクロで作ったのかな? 左奥の人、腕に包帯してる。
「いないはずのツレに不意を突かれてさ。けど、この古木の木刀のおかげで死なずに済んだ。これ僕の佩刀」
 なに? 先っちょ見ろって? 赤黒い染みがついてる。なるほどあんたの勲章ってことか。
「死地からの生還デスカー。すごいですねー。それでツレっていうのは?」
「ヴァンパイアはシンとツレでセットなんだよね。辻沢のヴァンパイアは女だけだからヴァンパイアの女をシン、他は眷属でツレ。つまり手下の人間。こいつは男女分けず複数いる場合があるから厄介」
 ふーん、どっからの情報なんだろ。そういうルールってことかな。
「ツレの方も殲滅するんですか?」
「まさか。僕たちは殺人鬼じゃないよ。あくまでもヴァンパイアスレイヤーだからね」
 そうだよね。いくら裏ゲームだって殺人はないよな。あれ、上の方にある黒い木刀、同じやつ町長室にあった。
「こっちの黒い木刀は? 他の3倍の値段しますけど」
「それ? 黒古木刀。樹齢を重ねた山椒の木は稀に芯が黒くなることがあってそれは超堅い。その芯だけで作った木刀だよ。僕はまだ未使用だから効果のほどは分からないけど、最終ステージの『死霊の塔』は黒古木刀一本あれば足りるって噂だけどね。君もお金に余裕があれば買っておいた方がいいよ」
 持ってますアピールがすっごい。
「エクストリームな武器なんですね」
「山椒系の武器ではね。でもそれさえ、ホーケーカメンが持ってるTCSには敵わない。あ、ごめんね。女の子にへんな言葉で。でもそういうハンドルネームだから」
 ホーケーカメンって会長のハンドルネームだ。スレイヤーの中じゃ会長って有名人ってこと?
「君は、まだ蛭人間殲滅ステージなんだよね? だから知らないと思うけど」(ささやき声)
 ちょいちょいって、耳貸せって? なんでしょう(無声)。
「これは秘匿事項だからオフレコでお願いなんだけど、妓鬼討伐は妓鬼すなわち辻のヴァンパイアを一匹倒せば『死霊の塔』に行く資格が得られる。妓鬼は蛭人間の比じゃなく強いからね」
「そうなんですか」(小声)
「それなのに、そいつはTCSで20体以上の妓鬼をやってる」
 会長の投稿のおびただしい数。
「すごい武器ですね。ここにはTCSは売ってないんですか?」
「あったら僕が買ってる。謎の武器なんだ」
「それにしても妓鬼を20体以上ですか? すごいですね。一度会ってみたいな」
「ほんとに? うそだろ。あんな薄気味悪いやつに僕は会いたいと思わないよ」
「薄気味悪い?」
「あー、ゲームというより、狩りを楽しんでる。詳しくは言えないけど他にも非道いことしてるようだし。あいつはサイコパスだよ」
「そうなんだ。それ聞いてあたしも会いたくなくなった。会っちゃわないよーに、その人の活動範囲とかって教えてもらっていいですか?」
「多分、広小路とか西廓界隈だよ」
「街中なんですね。どっちも高級住宅地だし」
「妓鬼の生息地だからね。ところで、さっきから気になってたんだけど、その服の血、フェイクだよね。すごいリアルだけど」
「え? これですか? ガチですよ。さっき喰われちゃって。ほら、この首の傷」
 さっき子ネコに付けられた首の傷を見せつけてやった。おー、ビビってるよ。面白い。
「すごい傷だ。よく助かったね。蛭人間にやられたんだよね」
 いいえ、蛭人間じゃないですよ。
「言いたくないなら言わなくていいけど。君みたいなタフな子が一緒だと僕らも心強いな。どう、PTに入らない?」
 これってもしや、スレイヤー式ナンパ?
「でも、あたし、まだ蛭人間殲滅ステージもクリアしてないから……。みなさんは妓鬼討伐ですよね」
「そうだけど、こんど新しくできた傭兵制を利用すれば、ステージをスキップできるよ。うちのPTに傭兵として参戦するってのはどうだろう?」
 妓鬼討伐ステージに参戦できるのか、それ魅力あるな。
「今すぐ返事しなくていいよ。気が向いたら僕らのスレッターに連絡して、僕らのグループIDは」
「長坂モンキーズ、ですよね」
 Tシャツに書いてある。
「そうか、これで分かるか。このTシャツ、ウニクロで作ったんだ。モチーフは『ワイルド7』、大昔のマンガ。なかなかでしょ」
 背中のデザイン、見せなくていいから。
「君のハンドルネーム教えといてくれないかな」
「ココロノハハです」
「よろしく。ところで、その傷さ、カーミラ・亜種にもらったんでしょ。あたった?」
 いいえ。友だちです。ココロって言います。
この傷はココロに血を与えるためにできたもの。
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