第十三章 【レイカ】(4/9)

文字数 1,097文字

 いたたたたた。お腹こわした。ミワちゃん特製雑草スムージー飲み過ぎちゃった。
あれ、ミワちゃんの布団、もぬけの殻。
そーいえば、もぬけって何かな、セミかなんかのこと? 
〈もぬけとは、脱皮した皮をいう。また、魂の抜け去った身体や死骸のたとえにも……〉
 って、ウチまた何言ってんの? 

今まさに急行が到着しそうって時に。えっとー、どっちですかね。ん? 先の廊下誰か横切ったよーな。ミワちゃん? いやいや、それどころじゃない。このままじゃ急行乗り損ねちゃうよ。

 やっと見つけた。お便所らしきところ。なにここ。これがお便所なの? そっか、こういうの雪隠っていうんだよね。
〈古来雪隠とは〉
 って、もう。今よくない? 蘊蓄。

 間に合った。よかったー。水が冷たいね。ひんやりする。井戸水なんだろーな。格子窓の外にヤツデ。こういう大きめの葉っぱに、上から血がボタボタボタって滴るシーン、よくある。カメラが上にゆっくり移動すると屋根の上に毛むくじゃらの怪物が和服の美人を抱えてて、その白い首筋から血がーーーー。怖いねー。ぞくぞくするねー。
「ごきげんよう」
 ヒッーーーーーーーッヒ。
大丈夫だった。出したばっかだから。なんとかこらえた。で、だ・れ・な・の、ウチに今声かけたのは? おばけ? ゆーれー?
「中村先生のお部屋はどちらでしょうか?」
 ヒッーーーーーーーッヒ。
 ごめんなさい、もうしません。他のもの食べれなくなるほど、お腹いっぱいスムージー飲んだりしませんから。どうか、どうか、おゆるしください。
「あたし、迷っちゃって。ずっと前に部屋に来るように言われたのに」
 あれ、よく見ると足がある。青洲女学館のセーラー服着てるし、ゆーれーじゃない。この制服、ママがいたころの青洲女学校時代のだ。もう作ってないはずだから結構レアなやつ。でもなんで? てか、すごくきれいな人。見惚れるってこんな感じ?
「どうしても中村先生のお部屋に行けなくって、あたし方向音痴だから」
「あ、そうなの?」
「あなた、ご存じ?」
「えっと、多分、その廊下を右に行って、突き当たって、左の部屋だと思うよ」(テキトー)
「そう、ありがとう。ごきげんよう」
「ごきげんよう」
 いっちゃった。知り合い? どっかで見たことあるよーな。

 部屋に戻ったらミワちゃん帰って来てた。ミワちゃん、あのね。
「お帰りなさいませ」
 もとにもどってるし。ミワちゃんの浴衣姿、なんか色っぽい。横すわりで片手附いて、片手は脇の下に添えてて。すっごいバニラの匂いする。どこに行ってたの? ミワちゃん。ホントはウチに話したいことがあるんじゃないの?
「おはやく、お休みなさいませ」
「おやすみなさい」
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