第十三章 【レイカ】(3/9)

文字数 1,566文字

 やっとホントのごはんにありつけた。ミワちゃんお手製の雑草スムージー。うまい、うまいぜよ。もっとちょーだい。
「よかったー。ミワちゃん、あのままだったら、ウチどうすればいいのかって」
「ホント、疲れるよ。おじーちゃんのぼけに付き合うのも。自分のことお殿様と思ってるんだよね。今は」
「たいへんだね」
「つらいよ。おじーちゃんね、あたしが高校のころはチリメン問屋のご隠居になりきってたの。そのせいでよくお風呂覗かれた」
「あのご隠居はお風呂覗かないっしょ」
「あ、そーなの。お風呂のシーンってご隠居が覗いてるのかと思ってた。その次が、火消しの辰五郎、あたしは辰五郎のいなせな奥さん。昼行燈の婿殿の時は、鬼嫁。今はなんか複雑で、悪党の近江商人と共謀する、なんだっけ、悪代官か。そいつらを懲らしめる城代家老のところのー、若様だったかな」
「で、ミワちゃんは?」
「もとは卑しい家の娘で、お手付きで子供を産んだ妾ってことになってる」
 ふーん。大変そうだね、そのごっこ遊び。

 お風呂、露天風呂だった。温泉に浸かりに来た山ザルの気持ちわかった。きもちいかったー。お庭も広いし、どっかからカポーンって音してる。なんだっけ? あれ。そうそう、シシオドシだ。レイカちゃん、すごい。

 よかった、ミワちゃんと一緒の部屋で寝れるんだ。何してるの? ミワちゃん。
「乳搾り?」
「サクニューって言ってよ。おんなじだけど」
 ミワちゃんのオッパイめっちゃおっきーし、血管が透けて見える。赤ちゃん産むとこんなになるんだ。
「レイカ、お乳って何からできてるか知ってる?」
「え? しらない」
「血だよ。血から必要な成分だけ抽出して乳房に貯めとくんだって」
 そうなんだ。
「だから、赤ちゃんはお母さんの血を吸って大きくなるんだよ」
 なんかヴァンパイアみたいだな。
「どんな味? やっぱ血みたいな味?」
 つば溜まってきた。
「レイカも赤ちゃんの時飲んだでしょ? 覚えてないの?」
「覚えてるわけないよ」
「だよね」
「それにうちは、オッパイ出ない家系で粉ミルク以外口にしないし」
 なに? 何か言いたげな目して人の胸見ないでくれる。
「ねえ、どんな気持ち? 子供産むって」
「うーん。妊娠知って、だんだんお腹がおっきくなって来たときは、ちょっと不思議な感じした」
「不思議なってどんな?」
「体を勝手に使われてるみたいな。あたしの気持ちは置いてきぼりなのに」
「それ。ウチ分かる気がする」
「レイカが?」
「子供が出来るとかはわかんないけど、その自分じゃなくなるってとこが」
「そっか」
 ウチもそんな経験どっかでしたような気がする。
「赤ちゃん育てるって、大変?」
「そりゃー大変だよ。ぐずって寝なかったり、夜中泣きだしたり、突然熱出したり。最初は2時間ごとに起きておっぱいあげたりね。けど、それ以上の幸せもらえるから、やっていける」
「オッパイ飲ませて、あかちゃんの寝顔見てたら、幸せな気分になる?」
「その前にげっぷさせなきゃだけどね」
「げっぷ?」
「オッパイ飲ませたらげっぷさせるんだよ。あかちゃんは空気も何もいっしょくたに飲んじゃうから」
 そうなんだ。
「おっぱい溜まると痛かったりすんの?」
「張るってゆーか。レイカも子供産めばわかるよ」
 そーだね。ウチもいつかおかーさんになるんだよね。
「あ、だめか、レイカは貧乳だから」
「やっかましい笑」
 ミワちゃん、一人なのかな。
「まゆまゆはどうしたの?」
「いないよ。ママ友にあずけてある」
「そなの? ウチがお泊りに来るから?」
「いや。ずっと。おっぱいあげてもらってる」
「え? ミワちゃん、おっぱい出るのに?」
「そうなんだよね。おじーちゃんが、『乳なぞ餌がやればよい』(イケボ重低音)って」
 餌? なにそれ? 意味わかんないんだけど。ミワちゃんはそれでいいの?
「ぼけてるから」
 どっちがかな。
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