第十一章 【レイカとヒビキ】(4/8)

文字数 2,133文字

 スレッター、例の『スレーヤー・R』ユーザ専用SNS、ちょっと分かったことがあるから見て欲しいって、カリンが。やだなって思ったけど、この間、バス停でカリンが言った「シオネとココロのため」ってのが気になってて。
「ココロやシオネをあんなにした奴がまだのうのうと生きてると思うとね」
「なんで生きてるって思うの?」
「殺したヴァンパイアが死なない限り、ココロやシオネはあのまんまだから」
「それとゲームと何の関係が?」
「そいつがゲーム運営にかかわってる気がするの」
 また、気がするなの?

 パソコンの画面、真っ赤で目が痛い。動画やってる。この間の連中みたいのが暗がりでスリコギ振り回してる。誰と戦ってるの? みんな仲間みたいだけど。あ、万歳した。
〈ミッションレベル1。初の改・ドラキュラ殲滅、成功。このゲームに比べれば、他のARゲームなんかクソでしょ。リアル戦闘感ハンパない。仕留めた時がめっちゃ良き。俺氏、興奮しすぎ? 次は、カーミラ・亜種。第七ヘルシング隊でした〉
〈カケダシガンバレー〉〈みんな知ってるぞ〉〈そのために高額課金に耐えたんだろーが〉〈PT名がオモすぎー〉〈氏ぬなー〉〈いや、むしろ氏んで来い!〉
 だって。
「この人たち何やってるの?」
「多分『スレイヤー・R』。リアルサバゲーだよ」
「『スレイヤー・R』?」
「『V』とは違って『R』はゲーマーが実際にフィールドに出てプレーするゲームなんだ」
 中の人たち本当に面白いのかな? リアルって言うけどごっこ感強い気がする。
「すごく接近して撮ってるんだね。誰が撮ってるの?」
「ゲーマー自身が身に着けるカメラで撮ってるから」
「ウエアラブルカメラ。ゴリプロっていうやつ。ヤオマンでも売ってるよ」
「これって、どっかのテーマパークでやってるの?」
「何言ってんの? レイカは。辻沢だよ。辻沢町全域がフィールド」
「この間、こいつらに遭ったじゃん。すり鉢被った奴ら」
 おこられた。しょぼん。
「他に聞きたいことある?」
 ないけど、ないって言ったらまたおこられそうだし。
「えっと、このカイ・ドラキュラとかカーミラ・アシュって」
 前に聞いたことある。
「『V』ではザコキャラ。ワラワラ出てくる」
「でも、かなり強い」
「カリン、例のクリアファイルある?」
「あるよ」
 何なの、クリアファイルなんか出して来て。これ見ればいいの? どれどれ、あ、このイラストの絵、明け方に登庁してくる人たちとソックリ。
「これのこと。正確にはヴァンパイアじゃなくて、蛭人間っていうゾンビの一種。ある種のヴァンパイアに血を吸われて死ぬとこうなるの。普通のゾンビと違うのは、人の肉じゃなくって血を吸うんだけど、その血は巣に持ち帰るって設定になってるところ。どこに巣があるかはゲームを進めて行かないと分からない仕組み。で、蛭人間には2種類あって、こっちの背広に幅広のネクタイが改・ドラキュラで、こっちがカーミラ・亜種で基本セーラー服。どっちもマダラハゲでメタボバラ」
なんでこんなのが役場にわんさかいたんだろう。 

 カリンが他の動画を開く。
「こっちの戦闘、改・ドラキュラが見えてる」
「ホントだ。でもこれ合成じゃないかな」
「そーだね。うまいことはめ込んであるけど」
「こういうのってどうやって作るんだろ。蛭人間もリアルに描けてるよね」
「絵心ある人はうらやましいよ」
「あーあ、セイラも絵師さんになりたいな」
「それはムリっしょ」
「なんでー」(プン助)
 高校の時セイラの描いたゾウさんの絵、ボンレスハムにしか見えなかったもん。

〈これで、ミッションレベル13をクリアです。次はいよいよ、妓鬼討伐ステージです。スレイヤー!〉
〈すげーこのPT、もう妓鬼か〉〈ガンバレーーー〉〈氏ぬなー〉〈いや、むしろ氏んで来い!〉
「ギキ?」
「妓鬼は、『V』だと蛭人間を作れるヴァンパイアなんだけど、ポリドリっていうやつ一人しかいない」
「『R』では辻沢のヴァンパイア全体の総称になってる」
「鬼はいいよね。『鬼滅の刃』の鬼はもろ吸血鬼だし、小説の『屍鬼』とか、ヴァンパイアを鬼に例えるの多いから。『妓』の意味にはいろいろ説があるけど、辻沢がもともと遊廓の町だったことに関係があるらしい」
「娼妓の妓ね」

 ひとしきり、投稿動画を見せられた後、カリンが、
「実況メニューっていうのがあるんだ。そういうのも動画なんだよね、大概」
「でも、メニュー開けないの」
「現場に行けば、見られる可能性高いと思うけど」
「秘匿事項なんだと思う。このゲーム守秘義務とか厳しいから」
「とにかく参加してどんなか、なんだよね。今のところ」
「で、レイカに相談なんだけど」
 いやな予感。
「一緒に行ってくれないかな」
「今夜0時からイベントが始まるの。『出会い系蛭人間祭』」
 なんか怪しい名前のお祭りだね。
「迷惑なのは十分承知の上なんだけど」
「レイカのスマフォが必要なの」
「ウチらだけじゃ、不安なんだ」
 ウチがいても一緒だよ。
「お願い、ココロとシオネのためだと思って。女バス仲間でしょ」
 えー、断れないじゃない。そんなこと言われたら。
「いいよ。今回だけだよ」
「ありがとう。レイカ」
「感謝するよ」
 なんでこうなったんだっけ。
そっか、ニーニーのせいだ。
死ね! ニーニー。
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