第二章 【レイカ】(1/8)

文字数 1,798文字

 何この荷物、重いっての。先に送っとけばよかった。
うちの田舎の路線のフォーム、なんだってあんな端の端の端の端の端の端の端のほーにあんのさ。でっかい荷物引っ張ってる身にもなれっての。ま、コロコロついてっからいいけど。てか、なんでエスカレーターないの? バリアフリーしょ、いまドキ。
 くっそ重い。階段、荷物ドカ、ドカって、中のもの大丈夫かな。何入れたんだっけ。全部お洋服なはずなんだけど。
あ、そこのおニーさんスカしてないで手伝う気は? 
ないよね。写真撮るんで忙しそーだ。
いいよ、いいよ。宮木野線が皆様のキョーミを引くなんてカイムだから。じゃんじゃん写真撮って、ツイッターとかインスタとかにあげて有名にしください。バエルかどうかは知らんけど。
押しどころは、たった20キロの間に8校も女子高あるところ。
ちょっとまって、逆に、恐怖の女子高頻発路線とかって闇サイトあったりして。……ないか。

 やっと階段降りたと思ったら、なんで汽車あんなホームの隅に停まってんの?
もっと階段のほうに来いよ。
ぐいぐい出てこいや。
いまどきチョコレート色だからって恥ずかしがることねーから。

 汽車、空いてるって、日常の風景。ゆったりのんびりがモットーの宮木野線ですから。
おばーちゃんたちがゴザひいて、お茶してんのなんてのはジョノクチ。
ウチが一番びっくりしたのは、双子の赤ちゃん抱えたおかーさんが、
両方の胸出してでっかいおっぱい咥えさせてるの見たとき。座席の真ん中で。
こっちのシネコンに『カレー☆パンマン危機一髪』って映画、パパと一緒に観に来た帰りだった。あの時はマジ、ビックリした。

 運転手さんやっと来た。トーイところゴクローサマです。
ピンポロピインピンポロピインピンポロピイン。
発車のベル、前より可愛くなった。
ガシュー、ガコン、ガコン、ガガガ。
相変わらず、うっさいドアの閉まる音。
〈は、っさすあぬ〉プファン。
 アナウンスわかんねー、かろうじて状況判断。
ハイ発車しましたー。
懐かしー景色。ウチを育んだ自然。
田んぼと畑と田んぼと畑と田んぼと畑と田んぼ。たまに竹林。
あ、向日葵畑だ。そっかー。もうそんなシーズンか。

……ヒマワリ。

忘れられない名前だよ。ヒマワリはウチらの代のキャプテンだった。4年前のちょうど今頃、突然、ウチらの前からいなくなっちゃった。

 お、イケメン二人組だ。めずらしいな。たいがい宮木野線なんかに乗る男子は鉄ちゃんだけど。なんだ、やっぱそーだよ。一人は

鉄ちゃんだ。

これはキマリ。カメラ抱えて、なんか機材みたいの持ってる。で、見てるとこ変でしょ。窓の風景とかガン無視で、車内の、ほら、鉄板貼ってあるとこ、それバッカ見てるもん。間違いないね。
 しかし、もう一人のほうがわかんないな。あのイケメンは、場違いっつーか、人違いっつーか。ちゃんとしてればアイドルグループ候補の補欠に落ちた、くらいな。って、アイドルまったくムカンケー。節子それアイドルちゃう。でもやっぱ鉄ちゃんじゃないなー。ほとんど手ぶらだし。乗り鉄? やっぱちがうね。おっと、見落としちゃいけないTシャツを。『前々々世紀 江戸ゥン・ゲリオン』の綾梨レイ、制服バージョンじゃない。あいつは、

ゲリ男だ。

ここんとこあんまり見かけなかったゲリ男。新作出るってなったからまたまた復活してきたんだね。

なるほどね、二人はオタクつながりってやつか。
よし、ひさしぶりにキャプションつけてやろ。
「ボク、鉄ちゃん。三鉄(撮り・乗り・読み)なんです。どうです? 今度、ミヤギノ線でも調査しに行きませんか」(妙に低い声)
「ボク、ゲリ男。オッケーです。こんどミヤギノ線で江戸ゥコラボやってるんで」(口臭い)
てな、流れか。
 なつかしー。勝手にキャプション。知らない人の会話に勝手にキャプション付けて楽しむ遊び。誰考えたんだか知らないけど女バスで流行ったやつ。
 因みにウチはオタじゃないから。パパがそーいうセーヘキの人だったから、ちょこっと知ってるくらい。

 なんだろーね、さっきから。きもいんだよ、あの二人組。ウチのことちらちら見て。そりゃーね、ウチはここらのイナカ少女に比べたらちょっとはイケテルカモだよ、都会生活が長いから(三年だけど)。だからって、そのいやらしー、ものほしげーな視線は迷惑なんだよ。あんたたちのために可愛いミニスカート履いてるわけじゃないんだっての。なんなの? トーサツ?

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