第十三章 【レイカ】(7/9)

文字数 1,589文字

 ナナミが言うには、宮木野と与一の二人のヴァンパイアは戦国時代の終わりに辻沢に突然現れたんだって。ふーん。
「与一って誰?」
「言い伝えの宮木野と志野婦が双子ってのは真実なんだけど、志野婦の本当の名前は与一といって、男なんだ。二人は辻沢の人たちと不襲の契約を交わし、その証に自分たちの弱点を教えた。それが、山椒と過ぎ越しの唄」
なんか聞いたことある歌の題名。
「辻沢の人は、スギコギの唄って言ってるな」
 パパの唄だ。
「山椒の木にはヴァンパイアが寄り付かないっていう誤伝が広まって、辻沢は山椒の特産地になったわけ」
 逆っしょ、寄っていきますよ、ぐいぐい。
「まあ、和むからいいんだよ」
 なるほどね。で、ナナミはなんでそんなこと知ってるかっていうと、
「うちもヴァンパイアの家系。屋号は五カ辻。ウチはヴァンパイアじゃないけどね」
 六辻家。辻の字のつく屋号の家。うちの辻王、ミワちゃんとこの辻一、町長のとこの辻まん、ナナミのとこの五カ辻、あとロ乃辻と棒辻っていうのがあって、それらが二人の血筋の証し。つまりヴァンパイアの家系ってこと。
「思い出したか?」
「うん。昨日やっと」
「まったく。ママハイ仕込みは」
「ほっとけや」
「六辻家の中でも、レイカのところにはセーヘキがあって」
 セーヘキ?
「辻沢のヴァンパイアの間では特殊な性質のことをセーヘキっていう」
「ひょっとして、それって、ザ・デイ・ウォーカー?」
「何だそれ」
「太陽の下でも平気な吸血鬼のことだよ。『ブレイド』のウイズリー・スナイプスがそうなんだ。弱点なしの最強の吸血鬼」
「何? 漫画の話? レイカ、オタクだったの?」
「まさか」
 ちがうよ。あはは。
「今ちょっと目の色が変わってたよ。きもかった」
 やばい。女バスでオタクばれるの、致命傷(冷汗)。
「ま、いいや。それが辻王のセーヘキ。あんたの家のだよ」
 よっしゃ! ザ・デイ・ウォーカー、レイカ! って喜んでいいものなのかどーか。
「ナナミのトコロは、セーヘキないの?」
「ないよ。それどころか、うちは何代もヴァンパイア出てない。江戸のころの作左衛門さんが最後」
「その人、今は?」
「いるよ」
「どこに?」
「さっき会ったじゃない」
 え? お兄ーさんじゃなかったの?
「130歳になった時、土に帰るって言って出てったらしいんだけど、おととしの夏のお盆の夜、そこの縁側に泥だらけで座ってて」
(「なんか、うわさでー、サンショ畑の跡地、人が埋まってたって」)
(「なにそれ、こっわー。殺人?」)
(「それがさ、死んでるってたら、起き上がって、歩いて行っちゃったんだって」)
「『かつえたり。のりをしょもうす』っていうから、手巻き寿司用の海苔出してやったら、突然ウチに噛みついてきてね、『わがうまごがのりはあざらけくしてうまし』だって。子孫のウチの血は新鮮でおいしいって、結局気に入られてお世話する羽目になった」
「言葉とかたいへんそう」
「今は、普通にしゃべるからそんなでもないよ。血を飲みたがるのは月一程度だし。一回に飲む量は、コップ二杯くらい。ま、月一で献血してると思えば」
〈変温動物みたよーなものか〉
 え? 変温動物って? 
〈蛇などの爬虫類や魚が分類される。昔は冷血動物ともいった。ちなみに人間は恒温動物〉
 へー、しらなかった。
〈変温動物はだな、それほどの食事をしなくても……〉
 ゴメンちょっと黙っててくれる。ってか、誰? あんた。
「少しの量で済んでるのは、ウチが宮木野さんの血筋だからだと思う。血筋の血は特別だから。
 飢えたヴァンパイアは手が付けらんない。いきなり襲って来られると防ぎようがない。こうやって鏡やゴマスリセット置いてたりしてるのも、作左衛門さんが本性現して消える瞬間を警戒してだけど、そうなったらウチなんかやられっぱなし。それで普通に吸われ続けたらそれこそ屍人になっちゃう」
 やっぱりナナミ、大変なんじゃん。
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