第44話 片桐の躍動

文字数 2,157文字

片桐から、次々とリストが送付されてきた。
30億だが、在庫処分価格なので、1千億以上の価値がありそうである。

アリエンタと狛江はそれを見ながら、電気店、衣服店、トイレバス器具店、食器店、靴店、何でも開けるように思えた。

よくこんなにため込んでいたものだ。
産業機器や車両まである。
さすがにカップラーメンはない。
容器ゴミの問題を片桐が心配したのだろう。


A商社では、片桐の机の前に行列が出来ていた。部長や取締役の姿まである。
「昨年のファッション衣服か。幾らだ。」
「90万でどうでしょう。3,000着あります。」

「おい、1着3百円だというのか。量販店で買った方が安いぞ。何を考えている。考え直して、後ろに並べ。」


「旧式の洗濯機です。まだ、動きます。」
「全部稼働検査が必要。動かないものはゴミになる。価格は。」
「1台3千円です。」
「少し、まからんか。現地の人は貧しい。」
「それじゃ。千円で。」
「いいだろう。何台ある。」

「100です。」
「よし。電源は。」
「大丈夫です。」

「片桐君、型落ちの発電機だが、大容量だ。いいだろうか。」
「いいですよ。常務。」
「50台で、20万でどうだろうか。」
「もう一声。」
「15万で頼めんだろうか。」
「OKです。」

「片桐君、今度飲もう。」
「酒代の方が高くなるのでは。」
「そうだな。じゃ、失礼する。」

「片桐、いいものを持って来たぞ。靴だ。」
「革靴ですか。」
「スポーツシューズだ。有名ブランドもあるぞ。見てみろ。」
「随分古いですね。」

「そうだな5年前の値打ち品だ。」
「幾らですか。」
「10,000足もあるぞ。1セット、300円でどうだ。安いだろう。」
「1セット、100円なら買います。」

「殺生な。高かったんだぞ。」
「そんなもの、誰が買うんですか。1セット、150円、これがギリギリです。」
「わかった。サンダル、5千足も付けよう。」

「まさか、処分費がもったいなくて。」
「そんなことはない。新品だ。」
「5年前じゃ、ゴムが駄目になっているでしょう。」

「いや、こいつは、今年の夏用だ。」
「来年、売ればいいのでは。」
「倉庫料がかかるのだ。頼む。」
「はい、はい、わかりました。次。」

A商社では、膨大な在庫が処分されて行く。
パソコンや印刷機まで、持ち込まれた。
海外仕様で、日本では売れないそうだ。2足3文の値段だった。
その他、ペンキや塗装剤、ノート、クレヨン、学校の机や黒板まで持ち込まれた。

此奴らは、何でこんな物まで、持っていたのかと思ったが、海外の子会社を助けるために発注したようだった。
赤ちゃんのオシメや女性の生理用品、下着、靴下、帽子。限がない。被災地に寄付しなかったのは何故だろう。


他商社も動き出した。
在庫処分の最後の機会だとばかり、連日各商社の社員が押しかけて来た。
中には、無料でいいから引き取ってくれと言った話も持ち込まれてきた。

E国が廃品回収国になるのではないかと思うほど、ありとあらゆるものが持ち込まれた。
恐らく、定価ならば5,000億を軽く超えたのではないだろうか。何しろ、1千万はする発電機を100万もしない値段で処分してくる。いいのだろうか。しかし、ここで処分しないといつまでも在庫で残り、最後は廃棄となる。廃棄するにも金がかかる。

輸送費の問題もあり、片桐は締め切った。
船はチャーターするしかない。


アリエンタは狛江と一緒にカラを訪ねた。

「閣下、片桐さんが、寄付したいとリストを送って来ました。」
「見せてみろ。」

「随分、厚いな。何、10冊あるのか。」
「何だ、中古品か。」

「いえ、全品、新品です。」
「本当か。どうしよう。」
「閣下、国には金が必要です。売るのです。」

「買ってくれるか。」
「閣下、無償なのです。売れた金額がそのまま利益です。」
「なるほど。」

「国内にも、店を開きましょう。国民にも安く販売すれば、民心も和らぎます。」
「場所があるか。」

「武器庫に空っぽなのが沢山あるでしょう。」
「どうして、知っている。」
「カールソンさんが。」

「奴は、いつも出入りしているからな。油断できん。奴が、良く知っている。聞いてくれ。」
「承知しました。」

「資金が貯まったらどうします。」
「まだ、考えてない。」

「武器を買いましょう。近隣国に見せつけましょう。」
「いいのか。」

「I国やK国が、最新式ではありませんが、装甲車やヘリを売ってくれると思います。」
「アリエンタがそんなことを言ってくるとは思わなんだ。」

「国を守るためには、武器も必要です。ですが、玉は少なめに。」
「なるほど、見せつけ用で抑止するのか。」

「何かきな臭くなってきたら、その時買えばいいのです。ハリボテではありません。軍艦1隻も、中古ですが。」

「軍艦も買うのか。」
「乗って、海兵を並ばせて、敬礼させるのです。気持ち良くなります。」
「まあ、気持ちはいいかもしれんが、維持費がな。」

「港に繋いで、メンテをしっかりさせるのです。亡命するにも必要です。」
「亡命はしたくない。他国に恨まれている。」

「冗談です。」
「冗談はそこだけだな。」
「はい、そこだけです。」

「じゃ、やってみるか。」
「やらないと、物が腐ります。」
「腐ると大変だな。しかし、片桐は金持ちなのか。」


「知りませんが。大金が使えるので、E国のためにと。」
「今度、褒めてやろう。」

「私も。」
「ああ、約束する。」


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登場人物紹介

加賀聡 機材設計コンサルタント。蒼コンサルティングの社員。

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