第9話 専制の閣下2
文字数 1,770文字
E国大統領は、K国の調査団が強引に帰国してしまった事に、暫く、憤懣(ふんまん)やるかたない気持ちを抑えることが出来なかった。K国とI国の脅しに屈してしまったのだから。
だが、彼らが本気になれば、我が国などひとたまりもない。攻撃があったとしても、周辺国は歓迎こそすれ、同情すらしないだろう。逆に、ここぞばかりと、攻め込んでくるに違いない。
大臣達や補佐官を怒鳴り散らし、外務大臣には更迭さえ仄(ほの)めかした。今回のプロジェクトは、孤児院の子供達が通う学校が含まれており、養母の強い願いを叶えるために教育訓練大臣に要請させたものだった。
「カラ、学校に誰も来なかったと聞いたぞ。」
「来たけど、帰ってしまった。」
「・・・」
「母さん。」
「・・・」
カラは、何も言わないで帰っていく母の後ろ姿を見て、その落胆ぶりを知った。
外務大臣を呼んだ。
「どうして、こうなった。」
「これまで、何回か調査団が入りましたが、実施されたプロジェクトは殆どありません。であれば、調査しても意味がないというのが、K国の言い分だと思われます。」
「儂の所為だと言うのか。軍との調整に失敗した、お前たち大臣達の所為ではないか。」
「閣下、我が国はまだ、隣国との紛争の最中にあり、軍の意向を無視しては、国が立ち行きません。」
「そんな弱腰だから、軍から舐められるのだ。セマニョールを呼べ。」
セマニョール将軍が官邸にやって来た。
「閣下、何事ですか。戦闘中に呼び出しされるとは。」
「これまで、調査を依頼しながら、実施されなかったプロジェクトが何件あったか、知っているか。」
「軍内部の声を無視することは難しかったのです。」
「今回のプロジェクトが、母の強い希望で要請されたが、過去の度重なる却下の所為で、K国側が調査を止めてしまった。知っていたか。」
「ご母堂様が・・・。申し訳ありません。存じませんでした。でも、今からでも、実施を確約すると言えば、すぐにやってくるのではありませんか。あ奴らは、拒否しません。」
「連絡したが、調査団の団長が多忙だから、待つように言ってきた。」
「おかしいですな。未だかつて、そんなことは1度もありませんでしたが。」
「調査団を引きいていた、加賀とかいうコンサルタントが多忙だと言ってきた。」
「K国人にしては、骨の通った人物のようですな。」
「日本人だそうだ。」
「日本人の中にそのような者がいるものですか。K国より、もっと、低姿勢で接触してくると聞いています。閣下が、日本に行かれて、一喝すれば、終わりです。」
「儂がか。」
「私も、同行します。」
「そこまで、言うなら、連絡してみよう。」
数日後、セマニョールを呼んだ。
「急な要請で、受け入れ態勢ができないと言ってきた。加賀という日本人が空き次第、訪問するので、待つようにとも言ってきた。」
「国もその行動を制約できない加賀という者は、日本の重要人物だったのでしょう。裏から、国を牛耳っているのかもしれません。ここは、待つしかありませんな。悔しいですが。」
「そうだな。K国も強制できなかったのも、頷ける。待つと返事しよう。」
「ご母堂様の落胆を思うと、強い措置を取りたいところですが、重要人物を怒らせると、各国との糸が切れてしまいます。自重しましょう。」
「団が来たら、歓待しよう。今はそれしかない。ところで、戦況はどうだ。」
「閣下が、このところ、前線に立たれないので、士気が上がりません。」
「この国の決済は、儂一人でやっている。ここを離れると、前線の兵士の食事も止まってしまう。お前が一番知っておろう。」
「確かに。それでは、私は戻ります。ご母堂様によろしくお伝えください。」
「戦いの合間にでも、自分で会いに行け。母の落胆ぶりを眼の当たりにすればいいのだ。」
カラは、加賀という人物とじっくり話してみたくなった。
強権大統領だと噂されていることは知っているが、自分一人で決められることなど殆どない。
軍内部の意向などと言ってくるが、セマニョールは儂の意向を悉(ことごと)く反対して見せてしか、軍を統率できない程、兵士達に嫌われている。
何故、あいつが将軍となったのか、今となっては思い出せない。
あいつが思いとどまっているのは、母に対する忠誠心でしかない。
あいつと儂は、母の乳を奪い合った。
母が、平等に、乳を与えてくれたことを何か、勘違いしている。
だが、彼らが本気になれば、我が国などひとたまりもない。攻撃があったとしても、周辺国は歓迎こそすれ、同情すらしないだろう。逆に、ここぞばかりと、攻め込んでくるに違いない。
大臣達や補佐官を怒鳴り散らし、外務大臣には更迭さえ仄(ほの)めかした。今回のプロジェクトは、孤児院の子供達が通う学校が含まれており、養母の強い願いを叶えるために教育訓練大臣に要請させたものだった。
「カラ、学校に誰も来なかったと聞いたぞ。」
「来たけど、帰ってしまった。」
「・・・」
「母さん。」
「・・・」
カラは、何も言わないで帰っていく母の後ろ姿を見て、その落胆ぶりを知った。
外務大臣を呼んだ。
「どうして、こうなった。」
「これまで、何回か調査団が入りましたが、実施されたプロジェクトは殆どありません。であれば、調査しても意味がないというのが、K国の言い分だと思われます。」
「儂の所為だと言うのか。軍との調整に失敗した、お前たち大臣達の所為ではないか。」
「閣下、我が国はまだ、隣国との紛争の最中にあり、軍の意向を無視しては、国が立ち行きません。」
「そんな弱腰だから、軍から舐められるのだ。セマニョールを呼べ。」
セマニョール将軍が官邸にやって来た。
「閣下、何事ですか。戦闘中に呼び出しされるとは。」
「これまで、調査を依頼しながら、実施されなかったプロジェクトが何件あったか、知っているか。」
「軍内部の声を無視することは難しかったのです。」
「今回のプロジェクトが、母の強い希望で要請されたが、過去の度重なる却下の所為で、K国側が調査を止めてしまった。知っていたか。」
「ご母堂様が・・・。申し訳ありません。存じませんでした。でも、今からでも、実施を確約すると言えば、すぐにやってくるのではありませんか。あ奴らは、拒否しません。」
「連絡したが、調査団の団長が多忙だから、待つように言ってきた。」
「おかしいですな。未だかつて、そんなことは1度もありませんでしたが。」
「調査団を引きいていた、加賀とかいうコンサルタントが多忙だと言ってきた。」
「K国人にしては、骨の通った人物のようですな。」
「日本人だそうだ。」
「日本人の中にそのような者がいるものですか。K国より、もっと、低姿勢で接触してくると聞いています。閣下が、日本に行かれて、一喝すれば、終わりです。」
「儂がか。」
「私も、同行します。」
「そこまで、言うなら、連絡してみよう。」
数日後、セマニョールを呼んだ。
「急な要請で、受け入れ態勢ができないと言ってきた。加賀という日本人が空き次第、訪問するので、待つようにとも言ってきた。」
「国もその行動を制約できない加賀という者は、日本の重要人物だったのでしょう。裏から、国を牛耳っているのかもしれません。ここは、待つしかありませんな。悔しいですが。」
「そうだな。K国も強制できなかったのも、頷ける。待つと返事しよう。」
「ご母堂様の落胆を思うと、強い措置を取りたいところですが、重要人物を怒らせると、各国との糸が切れてしまいます。自重しましょう。」
「団が来たら、歓待しよう。今はそれしかない。ところで、戦況はどうだ。」
「閣下が、このところ、前線に立たれないので、士気が上がりません。」
「この国の決済は、儂一人でやっている。ここを離れると、前線の兵士の食事も止まってしまう。お前が一番知っておろう。」
「確かに。それでは、私は戻ります。ご母堂様によろしくお伝えください。」
「戦いの合間にでも、自分で会いに行け。母の落胆ぶりを眼の当たりにすればいいのだ。」
カラは、加賀という人物とじっくり話してみたくなった。
強権大統領だと噂されていることは知っているが、自分一人で決められることなど殆どない。
軍内部の意向などと言ってくるが、セマニョールは儂の意向を悉(ことごと)く反対して見せてしか、軍を統率できない程、兵士達に嫌われている。
何故、あいつが将軍となったのか、今となっては思い出せない。
あいつが思いとどまっているのは、母に対する忠誠心でしかない。
あいつと儂は、母の乳を奪い合った。
母が、平等に、乳を与えてくれたことを何か、勘違いしている。