第22話 マジシャン狛江2
文字数 2,837文字
ラウンジに行くと、狛江が、既にジュースを手にしていた。
「早いですね。」
「宿を空港の近くにしたのですが、チェックアウト時間を伸ばして貰っても、時間が余ってしまって。」
「そう言えば、狛江さんは蒼インターナショナルの社員でしたね。」
「はい、ですから、経費で泊まっています。」
「なるほど。」
「待遇がいいですね。」
「給与は、余り変わりませんが、出張すると、経費の残りが貰えるので助かります。」
「うちは実費ですが、違うのですか。」
「定額です。宿泊費が高い場合、実費精算してくれます。」
「すると残る金額も。」
「そうですね。泊まる地域やホテルのグレードによっても変わりますが、長期の場合、宿舎を団員達と借り上げるので、1日宿泊費と食費をいれても2、3千円程度で十分生活できます。」
「いいですね。」
「給与もあるので、随分残ります。」
「F国での住まいは。」
「これまでは滞在が短かったので、加賀や八女の所に居候です。子供達と遊べるので楽しいです。休みの日は、泳いだり、テニスしたり。」
「楽しんでいますね。」
「落ち着いたら、修士課程を学ぼうと思っています。夜のコースですが、2年から3年です。」
「羨ましいです。」
「片桐さんの会社も大手商社ですから、待遇はいいのでは。」
「海外勤務になると、3年から5年位ですが、独身ならば、帰って来ると給与の8割が貯まります。その金で、家を建てる社員が多いようです。私も府中に家を建ててから、結婚しました。」
搭乗案内が流れ、2人は搭乗口に向かった。
深夜便ではあったが、ビジネスの座席は8割埋まっていた。
到着は早朝4時半、乗り換え便は10時半過ぎで、5時間以上の待ち時間がある。
ドバイからもUAEのエミレーツ航空である。
搭乗すると様子が違った。
エミレーツのハッピーフライトだった。
ビジネスクラスの座席がファーストクラス並みのフラットで、アラブの衣装を着た金髪の女性が、飲み物や食事をサービスしてくれる。
年に、全路線で数回しかないらしいが事前には知らされない。今回はラッキーだったようだ。
ドバイまでの機内とドバイ空港では孤児院や身障者施設についての資料を読み耽っていたが、それも一段落した。
気が緩んだのか、席に座ると急に眠気が襲ってきて、金髪美女の露わになった太ももを見る機会を失った。
ジョモケニヤッタ空港に着いたのは午後の2時半、入国審査と税関を通過して到着ロビーに出た時、3時を過ぎていた。
今回はナイロビで、1泊して、翌日のフライトとなる。どうしても経由する必要があった。E国の入国ビザの確認をしておかないと不安になる。
カラ大統領に電話を入れると、
「入管には連絡してある。今回からマルチビザにするよう言っておいた。心配の様子だったから、回数制限なし、無期限の特別ビザにしておいた。」
翌日、2時半前にE国の国際空港に着くと、ドライバーが迎えに来ていた。
車で1時間少しで、街の中でもこじんまりとした、4階建てのエンジェルホテルに到着した。加賀の常宿である。
ホテルの近くのレストランに行き、食事をする。
ピザやパスタ等、宗主国と似た料理が多い。
「余り、レストランは多くありませんが、中華料理屋も2軒あります。食堂でも、スープ、ステーキ、パンの食事ができます。」
「味は悪くありませんね。」
「レストランの客は、殆ど外国人です。ですから、味が悪いと、誰も来なくなります。庶民はとても払えませんし。」
「物資は豊かに見えますが。」
「それなりです。市場に行くと、肉や魚が並んでいますが、お客はそれほどではありません。」
「良く、ご存じですね。」
「朝、散歩するのが日課ですので、歩き回ります。」
「尾行はありますか。」
「あるようです。売店で飲み物を買おうとして、言葉が通じないと、何処からか現れて、通訳してくれます。終わって、振り返るともういません。ある意味で、安全を守っているのかもしれません。」
翌日、狛江は大統領官邸に出掛けた。
職業訓練所のカラバ氏と大学のアンス氏が待っていた。
「おはようございます。カラバ所長、アンス学長。大統領との面会が済んだら、航空券の手配に行きましょう。パスポートはお持ちですね。
ここには日本の領事館がありませんので、ナイロビでビザの取得を行います。少し、お待ちください。」
大統領との面会を頼むと、テーブルのある部屋に案内された。
大統領が現れた。
「狛江、よく来た。遠かったろう。座ってくれ。」
「カラ大統領、御無沙汰です。」
「加賀は元気か。」
「はい、忙しくしております。」
「日本には儂も行きたいのだが、どうしても駄目か。」
「カラ大統領、あなたが留守にすると、虎視眈々と座を狙っている政治家達がいます。しかも、それはあなたの部下かもしれません。ご自重下さい。大統領は、海外へは。」
「戦争で、国境を越えたことがある。」
「早く、海外旅行ができるように安定した国にしましょう。」
「わかってはおるが、直ぐには無理だ。」
「ところで、孤児院や身体障害者施設を調査している日本人が来ています。必要な機材を調べるためです。ご容赦下さい。」
「知っている。片桐という、加賀の友人だろう。前回行けなかったから、友人に頼んだと言って来た。何でも見せるように言ってある。問題ない。」
「ありがとうございます。」
「いつまでいる。」
「18日の便で帰ります。」
「短いのだな。」
「日本での入札契約がありますので、カラバ所長とハンス学長を日本に連れて行かなくてはなりません。」
「羨ましいな。」
「カラ閣下、加賀から頼まれたものをお持ちしました。どうぞ。」
「何だ。酒か。」
「はい、日本の酒です。」
「飲んだことがないぞ。」
「いえ、前回、加賀が来た時に一緒に飲み明かされたと聞いています。その時、加賀がお持ちしたと思いますが。」
「思い出した。あの酒か。旨かったのを覚えている。そうか、加賀は覚えていてくれたのか。もっと飲みたいと言ったのを。」
「今回は1ケース、12箱入っております。」
「おー、また、飲めるのか。感謝する。では、失礼する。」
「カラ閣下、まだ、お話が。」
「まだ、おあずけか。何だ。」
「プロジェクトの実施が数ヶ月後に始まります。日本人が30人は来ると思います。空港でのビザの発給確認をお願いしたいのですが。」
「それなら、問題ない。日本に臨時事務所を置くことにした。」
「えっ、何処にですか。」
「加賀の名刺にあった蒼コンサルティングだ。日本政府へ要請を出して、受理された。何かと面倒だったが、ケニヤの日本大使館の大使が来てくれたお蔭だ。」
「そうでしたか。帰国して調べてみます。」
「加賀の新しい名刺にはインターナショナルとあったが、別な会社か。」
「いいえ、2つ会社がありますが同じ資本です。」
「それなら、良かった。何しろ、金を送れないので、ただ働きしてくれ。悪い。」
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入管
入国管理局
「早いですね。」
「宿を空港の近くにしたのですが、チェックアウト時間を伸ばして貰っても、時間が余ってしまって。」
「そう言えば、狛江さんは蒼インターナショナルの社員でしたね。」
「はい、ですから、経費で泊まっています。」
「なるほど。」
「待遇がいいですね。」
「給与は、余り変わりませんが、出張すると、経費の残りが貰えるので助かります。」
「うちは実費ですが、違うのですか。」
「定額です。宿泊費が高い場合、実費精算してくれます。」
「すると残る金額も。」
「そうですね。泊まる地域やホテルのグレードによっても変わりますが、長期の場合、宿舎を団員達と借り上げるので、1日宿泊費と食費をいれても2、3千円程度で十分生活できます。」
「いいですね。」
「給与もあるので、随分残ります。」
「F国での住まいは。」
「これまでは滞在が短かったので、加賀や八女の所に居候です。子供達と遊べるので楽しいです。休みの日は、泳いだり、テニスしたり。」
「楽しんでいますね。」
「落ち着いたら、修士課程を学ぼうと思っています。夜のコースですが、2年から3年です。」
「羨ましいです。」
「片桐さんの会社も大手商社ですから、待遇はいいのでは。」
「海外勤務になると、3年から5年位ですが、独身ならば、帰って来ると給与の8割が貯まります。その金で、家を建てる社員が多いようです。私も府中に家を建ててから、結婚しました。」
搭乗案内が流れ、2人は搭乗口に向かった。
深夜便ではあったが、ビジネスの座席は8割埋まっていた。
到着は早朝4時半、乗り換え便は10時半過ぎで、5時間以上の待ち時間がある。
ドバイからもUAEのエミレーツ航空である。
搭乗すると様子が違った。
エミレーツのハッピーフライトだった。
ビジネスクラスの座席がファーストクラス並みのフラットで、アラブの衣装を着た金髪の女性が、飲み物や食事をサービスしてくれる。
年に、全路線で数回しかないらしいが事前には知らされない。今回はラッキーだったようだ。
ドバイまでの機内とドバイ空港では孤児院や身障者施設についての資料を読み耽っていたが、それも一段落した。
気が緩んだのか、席に座ると急に眠気が襲ってきて、金髪美女の露わになった太ももを見る機会を失った。
ジョモケニヤッタ空港に着いたのは午後の2時半、入国審査と税関を通過して到着ロビーに出た時、3時を過ぎていた。
今回はナイロビで、1泊して、翌日のフライトとなる。どうしても経由する必要があった。E国の入国ビザの確認をしておかないと不安になる。
カラ大統領に電話を入れると、
「入管には連絡してある。今回からマルチビザにするよう言っておいた。心配の様子だったから、回数制限なし、無期限の特別ビザにしておいた。」
翌日、2時半前にE国の国際空港に着くと、ドライバーが迎えに来ていた。
車で1時間少しで、街の中でもこじんまりとした、4階建てのエンジェルホテルに到着した。加賀の常宿である。
ホテルの近くのレストランに行き、食事をする。
ピザやパスタ等、宗主国と似た料理が多い。
「余り、レストランは多くありませんが、中華料理屋も2軒あります。食堂でも、スープ、ステーキ、パンの食事ができます。」
「味は悪くありませんね。」
「レストランの客は、殆ど外国人です。ですから、味が悪いと、誰も来なくなります。庶民はとても払えませんし。」
「物資は豊かに見えますが。」
「それなりです。市場に行くと、肉や魚が並んでいますが、お客はそれほどではありません。」
「良く、ご存じですね。」
「朝、散歩するのが日課ですので、歩き回ります。」
「尾行はありますか。」
「あるようです。売店で飲み物を買おうとして、言葉が通じないと、何処からか現れて、通訳してくれます。終わって、振り返るともういません。ある意味で、安全を守っているのかもしれません。」
翌日、狛江は大統領官邸に出掛けた。
職業訓練所のカラバ氏と大学のアンス氏が待っていた。
「おはようございます。カラバ所長、アンス学長。大統領との面会が済んだら、航空券の手配に行きましょう。パスポートはお持ちですね。
ここには日本の領事館がありませんので、ナイロビでビザの取得を行います。少し、お待ちください。」
大統領との面会を頼むと、テーブルのある部屋に案内された。
大統領が現れた。
「狛江、よく来た。遠かったろう。座ってくれ。」
「カラ大統領、御無沙汰です。」
「加賀は元気か。」
「はい、忙しくしております。」
「日本には儂も行きたいのだが、どうしても駄目か。」
「カラ大統領、あなたが留守にすると、虎視眈々と座を狙っている政治家達がいます。しかも、それはあなたの部下かもしれません。ご自重下さい。大統領は、海外へは。」
「戦争で、国境を越えたことがある。」
「早く、海外旅行ができるように安定した国にしましょう。」
「わかってはおるが、直ぐには無理だ。」
「ところで、孤児院や身体障害者施設を調査している日本人が来ています。必要な機材を調べるためです。ご容赦下さい。」
「知っている。片桐という、加賀の友人だろう。前回行けなかったから、友人に頼んだと言って来た。何でも見せるように言ってある。問題ない。」
「ありがとうございます。」
「いつまでいる。」
「18日の便で帰ります。」
「短いのだな。」
「日本での入札契約がありますので、カラバ所長とハンス学長を日本に連れて行かなくてはなりません。」
「羨ましいな。」
「カラ閣下、加賀から頼まれたものをお持ちしました。どうぞ。」
「何だ。酒か。」
「はい、日本の酒です。」
「飲んだことがないぞ。」
「いえ、前回、加賀が来た時に一緒に飲み明かされたと聞いています。その時、加賀がお持ちしたと思いますが。」
「思い出した。あの酒か。旨かったのを覚えている。そうか、加賀は覚えていてくれたのか。もっと飲みたいと言ったのを。」
「今回は1ケース、12箱入っております。」
「おー、また、飲めるのか。感謝する。では、失礼する。」
「カラ閣下、まだ、お話が。」
「まだ、おあずけか。何だ。」
「プロジェクトの実施が数ヶ月後に始まります。日本人が30人は来ると思います。空港でのビザの発給確認をお願いしたいのですが。」
「それなら、問題ない。日本に臨時事務所を置くことにした。」
「えっ、何処にですか。」
「加賀の名刺にあった蒼コンサルティングだ。日本政府へ要請を出して、受理された。何かと面倒だったが、ケニヤの日本大使館の大使が来てくれたお蔭だ。」
「そうでしたか。帰国して調べてみます。」
「加賀の新しい名刺にはインターナショナルとあったが、別な会社か。」
「いいえ、2つ会社がありますが同じ資本です。」
「それなら、良かった。何しろ、金を送れないので、ただ働きしてくれ。悪い。」
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入管
入国管理局