第14話 アルフォンソ

文字数 3,508文字

アルフォンソは家に帰ると、妻のカリナに正社員になったことを伝えた。

「良かった。あなた、会社の為に、頑張りましょう。」
「もちろんだ。加賀さんには感謝しきれない。信頼してくれている。今夜は久しぶりに外食しよう、祝金と支度金も貰った。」
「支度金が。」
「これからは子供達のためにも頑張って働く。」



U銀の案件公示がなされた。
P国の農業機械の案件だった。

加賀は、アルフォンソにP国での資料収集を指示した。
アルフォンソは翌日の航空機でP国に向かった。
空港に着き、到着ロビーに出ると、『蒼インターナショナル、アルフォンソ様』と書かれたボードを持った男が待っていた。


「アルフォンソですが、迎えは頼んでいませんが。」
「私の本社から連絡あり迎えに来ました。まず、ホテルに案内します。その後、資料収集できる場所に案内します。」

「加賀社長ですか。」
返事はなかった。

ホテルにチェックインし、待っていた車に乗り込む。
暫く走ると、P国政府刊行物センターに着いた。
「ここで、農業省に関する一般資料が買えます。」

アルフォンソは必要な資料を購入した。高かった。
加賀社長より、「高くても気にするな。」と言われていたことを思い出していた。
次にW銀の刊行物を扱う店で、さらに資料を購入した。


「アルフォンソさん、これは農業省の情報を集めた資料です。お渡しします。今回のカウンターパートの最後のプロジェクトは15年も前です。これ以上の情報はもうないと思います。資料は現地コンサルタントに依頼しました。本調査でも使ってもらえるのではないかという期待があり、頑張ってくれました。」
「あなたの会社は。」

「私の勤める会社は日本のO商社の現地法人です。ご心配なく、ローンの案件で、日本の商社が参加できる余地はありません。」
「では、何故。」

「加賀さんには、幾つかの案件で、弊社が助けて頂いたことがあり、。加賀さんの為なら、会社は出来る限り動きます。これから、ホテルにお送りします。空港へは、ホテルからリムジンが出ます。2時間弱かかりますので、余裕をみて出た方がいいでしょう。チェックイン後のパスポートチェックは時間がかかります。窓口が少なくて、混雑するのです。」

「色々とありがとうございました。カウンターパートの施設の写真を撮った後、帰国します。」
「ああ、そうでした。写真はローカルコンサルタントが撮ってくれています。案件が動き出していますので、これからの施設の写真撮影は不味いでしょう。この国での車の借り上げ費用や現地コンサルタントのリストと見積りも集めてあります。お渡しします。同じコンサルタントが協力してくれました。」

「そこまで調べて頂いたのですか。では、明日、帰国します。」
「私はこれで失礼します。加賀さんにくれぐれもよろしくお伝え下さい。」

アルフォンソは加賀の繋がりの凄さを肌身に感じた。
運や奇跡でこの業界で成功したのではない。


帰国して、社長室をノックした。

「随分、早かったですね。もう少し、ゆっくりしてくれば良かったのに。」
「加賀さんの手配で、1日で資料を集め終わりました。私自身もこんなに早く終わるとは予想もしていませんでした。」
「昔の知り合いが、随分頑張ってくれたようですね。だが、何かあれば、言ってくれと煩(うるさ)いので、頼んでみました。役に立ってくれましたか。」
「ええ、完璧でした。」


「引き続き、提案書の準備にかかろう。君も団員に加わるのだから、張り切ってください。君のデビューがかかっています。」
「私も加えて頂けるのですか。」

「当然です。だから、資料収集を頼みました。ロイには話しておいたのですが。」
「頑張ります。」
「暫くは忙しいですが、提案書が完成すれば、少しは楽になります。」


提案書を提出してから、1ヶ月後、入札の1番札の通知がU銀から届いた。

加賀は交渉のため、アルフォンソを連れて、U銀を訪れた。

「今回の提案書は飛びぬけていました。良く、調べてあります。問題点が提起され、その解決方法まで提案してありました。内容は満点です。見積も予算内です。お見事でした。」
「ありがとうございます。」
「アルフォンソさん、いよいよ活躍の場が出来ましたね。覚えていませんか、後輩のジェーンです。」

「すみません。記憶になくて。」
「アルフォンソさんは研究一途でしたからね。カリナは元気ですか。」
「妻をご存じでしたか。」
「あら、結婚式にも友人として参加しましたよ。」
「申し訳ありません。」
「大勢いましたからね。仕方ありません。お二人とも人気でしたから。カリナもこれで安心でしょう。よろしく伝えて下さい。」
「必ず、伝えます。」

帰りの車の中で、アルフォンソと話した。


「今回の案件では、私の参加はスポットなので、君が副プロマネとして、皆を取り纏めて下さい。人数は15名と多いし、協力してくれたローカルコンサルタントも借り上げる。大変だろうが、経験が君の血となり肉となります。何事も最初があるから、頑張って下さい。」
「経歴詐称では迷惑をかけました。切羽詰まり、目を瞑って、提出しました。」
「この国のコンサル会社は見る目がないですね。学歴だけで判断できるのなら、楽なのですが。そう言えば、ロイも学歴だけを見ていたのかもしれません。これからは気をつけないと。」

「加賀さん、心から感謝しています。F国は学歴社会ですから。」
「手がけて来た仕事の結果を重視すべきです。私だって、大卒に過ぎません。」
「加賀さん・・・。勇気が湧いてきます。」


現地調査の準備を進めていると、蒼本社の社長が突然やって来た。

「随分、急ですね。」
「T国の完工引き渡しセレモニーの帰りだ。通信事情が悪くて、連絡出来なかった。スマホも通じなかった。」
「ご苦労様でした。」

「受注ラッシュしているそうだな。1年目でもう、黒字を出すとは何という奴だ。お前、本社の社長をやるか。」

「勘弁してください。私のスケジュールは満杯です。」
「そうだろうな。それにしても、大型案件ばかりじゃないか。そのうち、本社の売り上げを上回るんじゃないか。」

「とんでもありません。今年は無理です。」
「上回るつもりか。君ならやりかねないな。八女君はどうしている。」

「毎日、カウンターパートの所です。最終の詰めです。」
「それでは、もうじき、帰って来るのだな。」
「残念ですが、次の案件に入れます。」
「今度は何処だ。」

「V国です。かなりの大型案件ですが、彼なら大丈夫でしょう。」
「しかし、そろそろ、日本に返してやりたいな。家族もいることだし。」
「駐在にして、家族を呼んだらどうでしょう。」
「本人次第だな、相談してくれ。任せる。」

社長が帰った後、八女と話した。


「八女さん、ここでの滞在が長引きそうですので、家族を呼んだらどうですか。」
「いいのか。」
「社長から一任されました。」
「頼みたい。妻も来たがっている。」

「わかりました。住いは私のコンドミニアムと同じでいいですか。」
「その方が、妻も安心だろう。」
「お子さんは小学生でしたか。」

「4年生だ。」
「じゃあ、日本人学校でいいですね。」
「頼む。」
「今の住まいは1LDKでしたか。」
「そうだが、一人では広すぎるくらいだ。寝るだけだからな。」

「では、2LDKでいいですね。メイドはどうします。」
「いい人がいれば。」
「うちのメイドの友人が1人空いたそうです。声をかけます。」
「お任せで悪いな。」

「奥さん専用の車は、難しいので、うちの女房と相談しながら私の車を使って下さい。」
「それでいい。十分だろう。」


「年末、家族同士で温泉にでも行きましょうか。」
「温泉があるのか。」
「ここから、車で3時間の距離です。水着着用になりますが、川が温泉になっている所です。温泉らしくはないですが、子供達は楽しめます。」

「是非、行きたい。」
「それでは、予約しておきます。」


加賀とアルフォンソは団員を連れて、P国に向かった。
加賀は相手国側との打ち合わせや折衝をアルフォンソに全て任せた。長期滞在するアルフォンソを前面に立てることがいいと考えた。加賀の最初のアサイン期間が切れる。

「私は、明日で帰りますが、後を頼みます。」
「お任せください。仲間もいますので。」
「奥さんとお子さん達が寂しがっているでしょう。」

「それでも、私が働けるようになったことの方が嬉しいようです。」
「そうでしたか。帰ったら、カリナさんと話してみよう。君の頼みもあるから。何かあれば、連絡します。」

「面倒をかけますが、お願いします。」
「君が、家庭の事が心配で、仕事出来なくなる方が心配です。会社の仕事の範囲だから、気にする必要はありません。」

F国に帰国し、U銀への報告を済ませた。


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

加賀聡 機材設計コンサルタント。蒼コンサルティングの社員。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み