第26話 片桐‐初めての調査2

文字数 2,798文字

片桐は義足を提供しているNGOを訪ねた。

「日本の義足は進歩しています。義足は基本的にオーダーメイドです。一人一人計測して作ります。関節部分も可動式にしますので、仕組も複雑です。現地では作れないでしょうね。ですが、歩くだけでしたら、ソケットさえ作れれば、関節なしでも大丈夫です。関節は部品だけでも持ち込むことをお勧めします。」

「すると、装着部分の問題ですね。」
「ソケットを作る材料があればいいのですが。」
「どんな材料が必要ですか。」

「リストにして、送りましょう。」
「お願いします。」


片桐は10社を呼んで、現地での技術移転と寄付の詰めの話をした。

「移転は10社まとめてやれば、安く済むことがわかった。多分、1社1千万は浮くだろう。それに機材価格も妥当と言える。利益が増える。」

「300万程度であれば、いいのではないか。」
「500万出そう。加賀さんにはお世話になったままだ。いい機会だ。」

「皆、加賀さんには世話になった。500万でいいと思う。」
「いいんじゃないか。出費が増えるわけじゃない。」
「皆さん、それでいいですか。それでは、現地で必要としている物のリストを配ります。」

「子供服か。おい、お前んとこ、在庫があるんじゃないか。系列が倒産したろう。」
「そうか、あれでいいのか。安く買い取ろう。」

「マットレスは俺んとこにある。」
「ベッドは作ればいい。荷物を梱包している廃材で作れる。業者が作るのを見たことがある。」

「粉ミルクは長くは持たんから、2年分あれば足りるな。」
「シャワーか。工事がいるな。業者に聞こう。パイプの口径が違う気がする。業者ならどうにかするだろう。貯水槽、それにポンプと温水器もいるな。」

「靴はどうする。」
「ゴム履きでは駄目か。サイズがなあ。」
「サンダルでいいだろう。あれなら、安く買える。」

「食器はプラスチックでいいな。スプーンとフォーク付きでも安いもんだ。」
「俺ん所に、ステンレスのがある。長く、在庫になっている。吐き出そう。」

「義足はどうする。」
「俺のところでやったことがある。現地仕様という奴だ。簡単な構造だが、ソケットの材料を送って、現地で加工させる。たが、技師を送る必要がある。金はあんのか。」

「5千万では足りんか。」
「チケット代、人件費に現地経費か。半月となると200万はかかるか。2人は必要だから、400万。どうだろう。」
「今までの資材でどの位かかるか、見積もって、もう一度、会って相談しよう。多分、足りるんじゃないか。」

「何だか、楽しいな。皆でこうやってプロジェクトを作っている感じがする。」
「俺もだ。現地には皆行くのか。」

「ああ、もちろんだ。」
「一緒に行こう。」


片桐が狛江を訪ねて来た。

「ご苦労様です。纏(まと)まりましたか。」
「ほぼ。」
「良かったです。加賀にいい返事が出来ます。」
「一番問題となったのは義足の件です。材料は持ち込みますが、技師を連れて行かないと無理です。2人です。何とか、寄付で賄えそうです。」

「私も、難しいと思っていました。それで、機材の準備はいつ頃になりますか。」
「来月には、でも、出荷前検査に2週間以上かかるでしょうから、もうひと月、それに輸送に1ヶ月半。3ヶ月ちょっとでしょうか。」

「出荷前検査は、皆さんでやって下さい。機材リストに検品者の名前と印鑑を押してください。方法はお任せします。メーカー名、型番、数量をチェックしてください。」
「自社の機材を自社で検品してもいいのですか。」

「現地で欠品や不足、メーカー違い等の問題が起こると、対処するのに、またお金がかかります。困るのは商社さんです。」

片桐は10社を集めた。

「検品をしないのか。」
「しないんじゃなくて、10社でやれということだ。現地で困るのは、俺達だと言われた。」
「確かに、簡単に運べる国じゃないし、金もかかる。しっかり、検品をしないと、後で後悔する羽目になるな。」

「漏れがないようにするにはどうしたらいい。」
「最低、各社2人で検品だな。数が多いから20人は要る。」
「部品などはパッケージを開けないと、不味いぞ。空だったり、違う型番の物が入っていたことがあったようだ。」

「俺も見て知っている。検品は大変だぞ。」
「コンサルタントが厳しく検品をしていたのは結果的には俺たちの為でもあったのだな。」
「欠品などが起こると、彼らも困るからな。」

「よし、2重チェックで行こう。各社2人ずつ出して、順番で検品しよう。」
「わかった。それで行こう。」

10社は港の倉庫で出荷前検査と検品を始めた。
やはり、型番違い、欠品、数量不足が頻発した。中には、梱包に印刷してある荷印やケースナンバーの誤記も見つかった。
全部終わるのに3週間かかった。

「この人件費は貰えないよな。」
「いや、貰えると片桐が言っていた。1社、200万ずつだそうだ。」
「いいのか、貰って。」

「いいんじゃないか。コンサルタントも人件費は貰うだろうから。」
「俺たちはコンサルタントの仕事をしたのか。」
「したことになる。現地でも、ありそうだな。」

「加賀さんの事だから、何か考えてくれるだろう。」
「そうだな。ただ働きをさせる人じゃない。」

「梱包材は鉋がけしてあったな。現地で楽になる。」
「ああ、梱包屋に事情を話したら、安く鉋がけしてくれた。」


片桐が狛江を訪ねて来た。

「出荷前検査が終わりました。これがそのリストです。」
「ご苦労様でした。随分、問題があったでしょう。」
「はい、驚きました。でも、船積み前に対応できてよかったです。」
「検品作業の人件費は、振り込み中です。確かめて下さい。漏れがあったら、連絡お願いします。」

「現地でも似たような作業があるのですか。」
「はい、据付検査、動作検査、技術移転確認などをお願いします。カウンターパートから合格及び受領のサインを貰って下さい。人件費は1社、100万です。技術者が行きますから、彼らができるでしょう。それほど、負担にはならないと思い額を決めました。」

「そうですね。一緒にやれば、難しくはありませんね。」

「皆さんは、日頃からコンサルタントの仕事を見てご存じでしょうから、大丈夫だと思っています。」
「私もそう思います。」

「片桐さんは行かれないのですよね。」
「ここまで、案件に関わると、行きたくなりました。」
「航海に45日でしたね。到着は来月末ですね。積み荷が無事につくといいのですが。」

「N港で積み替えになります。支店のある商社の人間が立ち会います。そこからは船をチャーターしますので、到着は問題ないと思います。クレーンのある船ですので積み下ろしも出来ます。心配なのはE国内での税関検査と輸送です。E国では、盗難や抜き取りが多いと保険会社が言っていました。」

「カラさんに頼んであります。大統領の警護隊に見張らせるそうです。こればかりは信用するしかありません。」
「無事に着いてくれることを祈るばかりです。」
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登場人物紹介

加賀聡 機材設計コンサルタント。蒼コンサルティングの社員。

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