第29話 E国の変革の時

文字数 3,685文字

翌日の夜、3人は密かに、孤児院に向かった。
孤児院に着くと、院長が笑顔で迎えてくれた。

「片桐、今日は泊まるのか。」
「はい、お願いします。」
「一緒に寝るか。冗談じゃ。もう、乳も出ん。」

その夜は、子供達と一緒に寝た。
寄付された新品のマットレスは安物ではなかった。
寝心地がとても良かった。


翌日早朝、ナサフが迎えに来た。

「閣下、終わりました。将軍は捕えてあります。ファーストカンパニーの経営陣も確保しました。」
「本当か。軍は。」

「陛下に忠誠を誓っております。」
「どうやった。」
「簡単です。母を慕う仲間は何処にでもいます。誰もが、臨んだことです。ご心配なく。」
「ナサフ、ご苦労だった。儂にも出来ないことをやってくれた。これからも頼む。」
「閣下、これからです。国の舵取りをお願いします。」
「うむ。任せてくれ。」


官邸に戻った3人は、日本酒を飲み交わした。

「加賀、世話になったな。」
「とんでもありません。ナサフの功績です。」

「だが、2人とも残ってくれた。友人が増えて、嬉しい。片桐、近くに来たら寄ってくれ。母もいつでも来てくれと言っている。」
「もちろんです。」

その時、側近がやって来た。客だという。
「何者だ。」
「I国の大使とカールソン殿です。」

「どうしたんだ。」

カールソンが飛び込んで来た。

「閣下、ご無事ですか。」
「カールソン、どうした。」

「反乱の情報があったので、飛んで来ました。」
「大使も一緒か。」

「閣下、何か支援出来ることがあれば。」
「大丈夫だ。反乱は鎮圧した。」

「それは良かったです。心配しました。」
「カールソン、鼻水が凄いぞ。」
「申し訳ありません。」

「いや、嬉しい。心配で駈け付けてくれたのか。」
「はい、気が気ではありませんでした。」
「カールソンはやっぱり友人だ。」

「閣下、私は。」
「大使は、友人の上司だ。駆け付けてくれて感謝する。」


翌日も、加賀と片桐はカラとカールソン、それにカールソンの上司と飲んだ。

「加賀、ホテルはどうだ。」
「まあまあです。」
「だろうな、快適とはいかんだろう。宿舎を作らんか。土地は儂の別宅が開いている。住むつもりだったが、一度も使ったことがない。土地は広いぞ。周囲は壁と有刺鉄線で囲ってあるから、セキュリティもいい。」

「それは、助かる。頼みたい。」
「資金は貸してやる。図面を寄越せば、作らせよう。」
「資金はある。図面は帰国後、直ぐに送る。土地の図面が欲しい。」
「用意してある。帰る前に、見に行くといい。」
「そうしよう。」

加賀と片桐は、カラの別宅だという塀に囲まれた門の前に立った。
ナサフが鎖を解いて、中に入れてくれた。
「広いな。」
「ああ、さすが大統領の別宅だ。家は豪邸だが、小さく見える。」
「平屋でも、100軒以上は建ちそうです。」
「いや、もっとでしょう。豪邸が100軒建ちそうです。」
「よし、只だそうだ。借りよう。」
「只ですか。資金はどうするのです。」
「この国は建設コストが安い。取り合えず、1億あれば、なんとかなります。後は、少しずつ、増やせばいいのです。」
「建築は大丈夫ですか。」
「ナサフが監督するから、手抜きはありません。」


加賀は片桐と共に帰途についた。

「片桐さん、何故、残ったのですか。」
「加賀さんも、残ったでしょう。」
「お互いに馬鹿ですね。」
「そうですね。馬鹿ですね。」

「これで、E国も少しは良くなるでしょう。」
「そうなれば、嬉しいです。」

「カラは頼る友人がいなかった。だけど、今は増えつつあります。時間があれば、私は行くつもりです。」
「私もそうします。」


F国に戻った加賀は、数ヶ月して、K国に向かった。
K国の現地子会社の設立手続きを終えると、E国に向かった。

E国国際空港に着くと、ナサフが迎えに来てくれていた。
「加賀さん、加賀ハウスは完成しています。スタッフや調理人も揃えて、いつでも泊まれるようにしています。」
「加賀ハウスですか。」

「閣下がそう、言われましたので、つい、私も。」
「何人位、泊まれますか。」
「人数は判りませんが、個室が200あり、食堂や会議室も作ってあります。」

「そんなに。ということはお送りした図面通りに完成したのですか。資金が足りなかったと思うのですが。」
「職業訓練所と国立大学の協力があり、建設には警備隊と憲兵隊を主に参加させました。余り、建築会社の労働者が入ると、セキュリティの面で問題が多くなると思いましたので。」
「警備隊と憲兵隊の方々は建築の知識があるのですか。」

「もちろんです。国の軍事施設や官邸の建設には警備隊と憲兵隊が駆り出されます。そのため、建築、土木、設備等の専門的知識を大学等で学ばせます。そうしないと、施設の情報が外部に筒抜けになります。」

「なるほど、それでも、資金は足りるとは思えませんが。」
「警備隊や憲兵隊は給与を貰っていますので、人件費はかかりません。御心配なく。資材もファーストカンパニーに協力させましたので、かなり安くなりました。」
「そうでしょうが、大変なことをお頼みして申し訳ありませんでした。」
「いえ、閣下から、褒美や酒も頂きました。皆、喜んでいました。」

加賀は、ナサフに日本酒を2ダース渡し、カラと数日、飲み明かすと、ケニヤに飛んだ。
加賀ハウスの調理人3人を、日本料理の修行をさせるべく、同行させている。

ケニヤの日本大使館で、3人のビザの取得を頼んだ。
「調理人ですか。E国の身元保証はありますか。」
「大統領の保証があります。」
加賀は、書類を渡した。

「日本での身元引受は何処ですか。」
「A商社となります。」
加賀は、A商社の身元引受証のコピーを提出した。
「A商社ですか。書類も大丈夫ですね。日本料理の修行ですか。
レストランでも出されるのですか。」

「大統領の迎賓館の一つで日本料理を出すことになり、修行を頼まれました。」
「通常でしたら、確認の為に、数日お待ちいただくのですが、大統領案件ということであり、加賀さんですから。ちょっとお待ちください。担当を呼びます。」

前回と同じ1等書記官の女性がやって来た。
「迎賓館ですか。何故、日本料理を。」
「主に日本人用の宿舎となりますので。」
「日本人がそんなに来る予定があるのですか。」
「ええ、E国での調査案件に参加する予定です。」
「ファンドは。」
「K国です。」

「わかりました。不躾な質問に答えて頂きありがとうございます。ビザの発給を認めます。実は、わが国のE国人に対するビザ要件は厳しすぎるのではないかという声が強くなっています。近く、E国側と会議を持ち、ビジネスビザや観光ビザの発行を検討します。しばらくお待ち頂ければ、もっと簡易になると思います。」
「ありがとうございます。よろしくお願いします。」


日本に着くと、片桐に連絡した。

「系列会社の調理学校に頼んだ。3ヶ月だから、難しい料理は無理だが、家庭料理は出来るようになるでしょう。調味料は帰国時に持てるだけ持たせます。」
「手間をかけました。費用は請求して下さい。」
「請求書を送っておきます。」

「ところで、K国から新案件の依頼がありました。」
「何処ですか。」
「もちろん。E国です。」

「私の出る幕はありませんが。」
「作ります。」
「どうするのですか。」

「K国では、商社がコンサルタントをしてはいけないという法はありません。もちろん、業者にはなれませんが、コンサルタントの仕事も楽しいものですよ。」

「他の商社にも声をかけます。」
「今回の案件で、コンサルの仕事をしたのですから、経験があります。」

K国の案件は、商社の人間を入れて、提案書を提出した。
多少の混乱があったが、K国側が譲り、受注した。
加賀抜きではE国との繋がりは保てない。


狛江は、機構側に呼ばれていた。
担当課長が口を開いた。

「供給する側にコンサルタントの仕事を手伝いをさせるとは、大胆なやり方ですね。」
「無事に終了しました。問題も発生していません。それに、最終確認は、加賀と私が行いました。」

「I国側も了承していたと確認しましたので、この件は目を瞑ります。ですが、当機構の案件では、絶対に許されません。ご注意ください。」
「十分、承知しています。」

「今回は、外務省もE国側と友好的会議が出来たことに満足していますので、これ以上、事を荒立てることはしません。」

理事がやって来た。

「話は終わったのか。」
「はい、伝えました。」

「現場で問題が起これば、コスト的にも信用という意味でも一番困るのは供給側かもしれません。そのことを、加賀さんは改めて、商社側に認知させたのかもしれませんが、検査の基準は、税金を使っている以上、国民が納得するものでなければなりません。そのことは十分に理解願います。」
「もちろんです。」

「まあ、加賀さんは全てを理解した上で決められたのでしょうが、私達、職員の立場も考えて頂けるよう、加賀さんにお伝えください。」
「伝えます。」

「あの商社マン達が、コンサルタントに挑戦すると言われたそうですが。」
「はい、他国のファンドですが、調査の為、既に現地入りしています。」
「本当だったのですか。そんなことがあるとは、信じられない。注目してみます。」
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登場人物紹介

加賀聡 機材設計コンサルタント。蒼コンサルティングの社員。

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