第28話 商社マン達の寄付
文字数 3,079文字
片桐は孤児院に、機材を納めて回る。
カラ大統領の叔母が小走りしてやって来た。
「片桐か。来てくれたのか。元気にしていたか。」
大統領の叔母は、片桐を抱きしめた。
「きっと、きっと、帰って来ると思っていた。」
「今日は、寄付を持って来ました。」
「何を持って来てくれた。子供の服と靴か。それに寝るマットか。
シャワーもあるのか。悪かったな。心配かけて。」
「いいえ、喜んでもらえて嬉しいです。」
孤児院長は片桐の手を握りしめて、離さない。
義足の製作は、日本から技師が到着し、職業訓練所に身体障害者施設のスタッフを集めて、始まった。足のない者が集められた。
意外にも、職業訓練所の教員のレベルは高く、訓練生も参加して、義足の製作は順調に進んだ。
メーカーの技術者も到着し、据付や稼働検査、技術移転が始まった。
機構と日本の外務省からの一行も到着した。
宿泊先は街の郊外にある少し大きなホテルとなった。
加賀は、一行を大統領官邸で大統領に引き合わせ、全官庁の大臣や長官との会議を設定するよう頼んだ。
機構の納入監査に来た機構の2人は、技術者が熱心に、操作指導、維持管理、修理の技術移転をするのを見た。
商社の人間まで付きっ切りになっている。
だが、彼らの真剣さに、口を出すのが躊躇われた。
「狛江さん、コンサルタントがいませんが。」
「加賀と私がいます。それに、商社の人間も一緒に立ち会っています。加賀と私で十分なのですが、彼らにも手伝って貰っています。」
「商社の人間に手伝わせるのは認められません。」
「E国側は認めています。」
「責任の所在が、不明確になります。」
「例え、商社側がコンサルタントの仕事をしたとしても、責任は
弊社にあります。経験の少ないコンサルタントを使うより、よっぽど信頼できます。彼らは真剣です。それに、最終確認は加賀と私がしていますので、何の問題もありません。」
「そうかもしれませんが、機構としても、I国に対する責任があります。」
「I国にも、同意を得ています。お問い合わせ願います。ところで、いい所に案内します。」
狛江は孤児院に連れて行った。
「ここの院長は大統領の養母です。」
入ると、中では、日本人と現地雇用の作業員が作業していた。
木材や板材が積み上げられ、それらを使って、ベッドや家具を作っている。木材や板材は既に鉋がかけられ滑らかになっている。憲兵達は木材や板材をここに運んでいた。
出来上がったベッドにマットレスを敷き、部屋に並べている。
椅子やテーブルも修理している。
靴や子供服が子供達に配られ、粉ミルクや必要な物が山積みされている。
「この、資材は。今回の案件ではないですね。」
「はい、10商社からの寄付です。」
「寄付ですか。何故。」
「加賀が提案し、商社側が事前調査までして、プロジェクトにしてくれました。職業訓練所で、義足の製作をご覧になりましたか。」
「はい、案件にはなかったので、訓練所の作業の一部かと。」
「義足に必要な資材を日本から持ち込み、技師2名を連れて来て、この国でも義足が作れるよう、10商社が考え、費用も負担してくれました。」
「よっぽど、利益があったのですね。」
「そんなことがあるはずがありません。コンサルタントの見積は機構の規定通りです。今回は、欠品、型番違い、数量間違い等のトラブルは一件もありませんでした。要するにリスク予算が0で済んだのです。彼らは自分達で検品しました。しかも、通常2週間なのに1ヶ月かけました。自信があったのです。リスクは回避できると。こんな僻地の輸送なのに。
もちろん輸送にも、注意を払いました。N港からはチャーター船を使いました。商社の現地事務所が確認に行きました。到着しても、この国の警備隊とともに、荷物を守りました。この国では、抜き取りや盗難が頻発していましたから。
利益は偶然ではないのです。彼らのプロジェクトであり、彼らの思いが込められているのです。」
「機構には報告します。問題になる可能性もあります。」
「構いません。今回の案件では、商社や業者の方々は、いい経験をされたと思います。彼らもコンサルタントになれるという、自信がついたと思います。実際に案件を作り、設計して、実施したのですから。彼らは、新しいプロジェクトに、コンサルタントとして、参加するかもしれません。」
「商社マンがですか。」
「もう、準備を始めています。」
「冗談ではないですよね。」
「コンサルタントに、冗談は禁物です。」
そして、最後に引き渡し式が行われる。
大統領の出席の上、セレモニーが行われた。
カールソンと大使がI国側の代表として出席した。
その夜、加賀はナサフを中華料理に招待した。
「中華料理は初めてです。」
「メニューはおまかせにしたが、良かったか。」
「構いません。どうせ、わかりませんので。」
料理がテーブルに並ぶと、ナサフが、
「贅沢ですね。食べたことのない料理ばかりです。」
「この店は、古くからあると聞いたが、客は外国人ばかりだそうだ。口に合うといいが。」
「美味しいです。」
「それなら良かった。ゆっくり食べよう。」
食事が済むと、
「これから、私は閣下と会う。」
「官邸まで送ります。閣下をお願いします。」
大統領官邸に着くと、大統領が待っていた。
「ナサフ、ご苦労。警備していたのか。一緒に飲みたいが、お前は下戸だったな。一緒にいてもつまらないだろうな。帰って、ゆっくり休め。」
「閣下、失礼します。」
部屋に入ると、カラが口を開いた。
「片桐というのは、加賀の友人か。」
「はい、そうです。」
「呼べないか。」
「ホテルにいると思います。連絡を入れます。」
2人で日本酒を飲んでいると、片桐が到着した。
「君が片桐か。母が世話になったな。とても喜んでいた。儂も嬉しかった。片桐は飲めるか。」
「はい、人並みには。」
「日本酒でいいか。」
「ここで日本酒が飲めると嬉しいです。」
「そうか、注いでやろう。座ってくれ。」
片桐は飲み干すと、「旨いです。」と言った。
「加賀、いい友人を持ったな。」
「そう思います。」
「今夜は、飲もう。適度にな。カールソンと飲むと大変だ。」
3人で、語りながら、ちびちびと飲んだ。
「I国とも国交を結んだが、この国の経済はまだまだだ。国の発展のためにやることが多すぎる。」
「閣下、ファーストカンパニーを何とかしないと。」
「やっぱりそう思うか。だが、あれは軍の中に食い込んでいる。金をやたらばら撒く。」
「何とかしないと、海外の投資も増えません。」
「わかっているのだが、軍を何とかしないと。」
「カラ閣下、セマニョール将軍ですよね。」
「どうして、それを。」
「わかります。何度も来れば。」
「そうか。知っていたか。」
「閣下、セマニョールとファーストを同時に叩きましょう。」
「反抗がな。」
「兵士達もわかっています。反抗など起こりません。もっと自信を持って下さい。」
「しかし、どうやれば。」
「ナサフが既に、警備兵、憲兵隊それに兵士の幹部達と動いています。明後日、決行します。」
「何、儂をさしおいて指示したのか。」
「ナサフから相談を受けたのです。」
「ナサフが。」
「明日には日本人は全員、帰国します。相手が油断します。」
「どういうことだ。」
「日本人が多かったので、兵士達が、連日24時間勤務でした。明日の夜で終わりです。殆どの者が休みに入ります。」
「なるほど。」
「お主達も、明日、帰国するのであろう。」
「片桐は帰りますが、私は残ります。」
「いえ、私も残ります。」
「この官邸では危険だな。」
「叔母様の所に行きましょう。あそこを襲えば、民衆が蜂起します。」
「・・・わかった。覚悟を決めよう。」
カラ大統領の叔母が小走りしてやって来た。
「片桐か。来てくれたのか。元気にしていたか。」
大統領の叔母は、片桐を抱きしめた。
「きっと、きっと、帰って来ると思っていた。」
「今日は、寄付を持って来ました。」
「何を持って来てくれた。子供の服と靴か。それに寝るマットか。
シャワーもあるのか。悪かったな。心配かけて。」
「いいえ、喜んでもらえて嬉しいです。」
孤児院長は片桐の手を握りしめて、離さない。
義足の製作は、日本から技師が到着し、職業訓練所に身体障害者施設のスタッフを集めて、始まった。足のない者が集められた。
意外にも、職業訓練所の教員のレベルは高く、訓練生も参加して、義足の製作は順調に進んだ。
メーカーの技術者も到着し、据付や稼働検査、技術移転が始まった。
機構と日本の外務省からの一行も到着した。
宿泊先は街の郊外にある少し大きなホテルとなった。
加賀は、一行を大統領官邸で大統領に引き合わせ、全官庁の大臣や長官との会議を設定するよう頼んだ。
機構の納入監査に来た機構の2人は、技術者が熱心に、操作指導、維持管理、修理の技術移転をするのを見た。
商社の人間まで付きっ切りになっている。
だが、彼らの真剣さに、口を出すのが躊躇われた。
「狛江さん、コンサルタントがいませんが。」
「加賀と私がいます。それに、商社の人間も一緒に立ち会っています。加賀と私で十分なのですが、彼らにも手伝って貰っています。」
「商社の人間に手伝わせるのは認められません。」
「E国側は認めています。」
「責任の所在が、不明確になります。」
「例え、商社側がコンサルタントの仕事をしたとしても、責任は
弊社にあります。経験の少ないコンサルタントを使うより、よっぽど信頼できます。彼らは真剣です。それに、最終確認は加賀と私がしていますので、何の問題もありません。」
「そうかもしれませんが、機構としても、I国に対する責任があります。」
「I国にも、同意を得ています。お問い合わせ願います。ところで、いい所に案内します。」
狛江は孤児院に連れて行った。
「ここの院長は大統領の養母です。」
入ると、中では、日本人と現地雇用の作業員が作業していた。
木材や板材が積み上げられ、それらを使って、ベッドや家具を作っている。木材や板材は既に鉋がかけられ滑らかになっている。憲兵達は木材や板材をここに運んでいた。
出来上がったベッドにマットレスを敷き、部屋に並べている。
椅子やテーブルも修理している。
靴や子供服が子供達に配られ、粉ミルクや必要な物が山積みされている。
「この、資材は。今回の案件ではないですね。」
「はい、10商社からの寄付です。」
「寄付ですか。何故。」
「加賀が提案し、商社側が事前調査までして、プロジェクトにしてくれました。職業訓練所で、義足の製作をご覧になりましたか。」
「はい、案件にはなかったので、訓練所の作業の一部かと。」
「義足に必要な資材を日本から持ち込み、技師2名を連れて来て、この国でも義足が作れるよう、10商社が考え、費用も負担してくれました。」
「よっぽど、利益があったのですね。」
「そんなことがあるはずがありません。コンサルタントの見積は機構の規定通りです。今回は、欠品、型番違い、数量間違い等のトラブルは一件もありませんでした。要するにリスク予算が0で済んだのです。彼らは自分達で検品しました。しかも、通常2週間なのに1ヶ月かけました。自信があったのです。リスクは回避できると。こんな僻地の輸送なのに。
もちろん輸送にも、注意を払いました。N港からはチャーター船を使いました。商社の現地事務所が確認に行きました。到着しても、この国の警備隊とともに、荷物を守りました。この国では、抜き取りや盗難が頻発していましたから。
利益は偶然ではないのです。彼らのプロジェクトであり、彼らの思いが込められているのです。」
「機構には報告します。問題になる可能性もあります。」
「構いません。今回の案件では、商社や業者の方々は、いい経験をされたと思います。彼らもコンサルタントになれるという、自信がついたと思います。実際に案件を作り、設計して、実施したのですから。彼らは、新しいプロジェクトに、コンサルタントとして、参加するかもしれません。」
「商社マンがですか。」
「もう、準備を始めています。」
「冗談ではないですよね。」
「コンサルタントに、冗談は禁物です。」
そして、最後に引き渡し式が行われる。
大統領の出席の上、セレモニーが行われた。
カールソンと大使がI国側の代表として出席した。
その夜、加賀はナサフを中華料理に招待した。
「中華料理は初めてです。」
「メニューはおまかせにしたが、良かったか。」
「構いません。どうせ、わかりませんので。」
料理がテーブルに並ぶと、ナサフが、
「贅沢ですね。食べたことのない料理ばかりです。」
「この店は、古くからあると聞いたが、客は外国人ばかりだそうだ。口に合うといいが。」
「美味しいです。」
「それなら良かった。ゆっくり食べよう。」
食事が済むと、
「これから、私は閣下と会う。」
「官邸まで送ります。閣下をお願いします。」
大統領官邸に着くと、大統領が待っていた。
「ナサフ、ご苦労。警備していたのか。一緒に飲みたいが、お前は下戸だったな。一緒にいてもつまらないだろうな。帰って、ゆっくり休め。」
「閣下、失礼します。」
部屋に入ると、カラが口を開いた。
「片桐というのは、加賀の友人か。」
「はい、そうです。」
「呼べないか。」
「ホテルにいると思います。連絡を入れます。」
2人で日本酒を飲んでいると、片桐が到着した。
「君が片桐か。母が世話になったな。とても喜んでいた。儂も嬉しかった。片桐は飲めるか。」
「はい、人並みには。」
「日本酒でいいか。」
「ここで日本酒が飲めると嬉しいです。」
「そうか、注いでやろう。座ってくれ。」
片桐は飲み干すと、「旨いです。」と言った。
「加賀、いい友人を持ったな。」
「そう思います。」
「今夜は、飲もう。適度にな。カールソンと飲むと大変だ。」
3人で、語りながら、ちびちびと飲んだ。
「I国とも国交を結んだが、この国の経済はまだまだだ。国の発展のためにやることが多すぎる。」
「閣下、ファーストカンパニーを何とかしないと。」
「やっぱりそう思うか。だが、あれは軍の中に食い込んでいる。金をやたらばら撒く。」
「何とかしないと、海外の投資も増えません。」
「わかっているのだが、軍を何とかしないと。」
「カラ閣下、セマニョール将軍ですよね。」
「どうして、それを。」
「わかります。何度も来れば。」
「そうか。知っていたか。」
「閣下、セマニョールとファーストを同時に叩きましょう。」
「反抗がな。」
「兵士達もわかっています。反抗など起こりません。もっと自信を持って下さい。」
「しかし、どうやれば。」
「ナサフが既に、警備兵、憲兵隊それに兵士の幹部達と動いています。明後日、決行します。」
「何、儂をさしおいて指示したのか。」
「ナサフから相談を受けたのです。」
「ナサフが。」
「明日には日本人は全員、帰国します。相手が油断します。」
「どういうことだ。」
「日本人が多かったので、兵士達が、連日24時間勤務でした。明日の夜で終わりです。殆どの者が休みに入ります。」
「なるほど。」
「お主達も、明日、帰国するのであろう。」
「片桐は帰りますが、私は残ります。」
「いえ、私も残ります。」
「この官邸では危険だな。」
「叔母様の所に行きましょう。あそこを襲えば、民衆が蜂起します。」
「・・・わかった。覚悟を決めよう。」