第18話 2回目の束の間の休暇

文字数 1,917文字

加賀はK国経由、F国に戻った。
事務所は閑散としていた。多くの社員がアジア各国、特にV国で仕事をしている。

早速、E国の職業訓練所と国立大学の機材案件の調査報告書と概算書を作り、I国大使に渡すために、大使館を訪れた。

「もう出来たのですか。流石に、仕事が早い。」
「いえ、一度調査された案件ですので、最新データへのアップデートだけでしたので、手間はそれほどかかっていません。」
「早速、本国に送付します。」
「お願いします。」


加賀は自宅に戻った。

「サトシ、お帰りなさい。疲れたでしょう。」
「今回はさすがに疲れた。」
「休暇は取れないの。」

「大丈夫だ。何処に行きたい。」
「何処でもいいわ。一緒なら。」
「それなら。来週出発する。準備しよう。」


加賀は妻と娘と一緒にファーストクラスの機上にいた。

「サトシ、4度目のファーストクラス。快適だわ。また、招待旅行があるとは思いもしなかった。」
「3度目だろう。」
「片道で計算すると4回目よ。」
「カワウィは2度目だけど、今回はまた、違うな。由美がいる。」
「親馬鹿ね。」

「いいだろう。娘なんだから。」
「そんなことを言っていたら、由美はお嫁に行けないわ。」
「僕はそんなことはしない。由美の意思を尊重する。」
「言っているといいわ。」


到着すると、優先的に貴賓客の待合室に通され、ジュースを飲んでいるうちにパスポートチェックと税関審査が終わった。

黒いリムジンに乗り、リゾートホテルに着くと、スィートに案内された。
「すみません。僕らは高い所は苦手なので低階層をお願いします。」
案内係は、「少しお待ちください」と言うと、出て行った。

1階の受付に戻ると、リムジンが横付けしているエントランスに案内された。乗り込むと、別のこじんまりしたリゾートホテルに案内された。
「サトシ、ここがいいわ。」
「僕も気に入った。」
「お父さん、私は高い所でも良かったけど、こっちの方が好き。人が少ないし、砂浜に歩いて行ける。」
「そうね。こっちの方が落ち着くわ。」


朝は海辺を散策し、朝食を済ませると、プールで娘の泳ぎを眺める。午後は、ショッピングをして、夕食は部屋での豪華な食事を味わう。

車で市内観光の帰り、
「サトシ、温泉はないかしら。」
「無いことはないだろうが、水着だと思う。」
「そうね。」

ドライバーが口を挟んだ。

「ありますよ。和風旅館の中に。」
「案内して頂ける。」
「承知しました。」

その旅館は完全に和風だった。
温泉は岩風呂だった。
貸し切って、3人で入った。

「やっぱり、日本人はこれね。」
「ママ、水着なしでいいの。」
「いいのよ。日本人は裸よ。」
「おい、説明を省くな。由美が勘違いする。」

「サトシ、今回の招待は何処から。」
「I国大使から、チケットを渡された。」
「じゃあ、I国の招待じゃない。何をしたの。」
「頼まれた仕事をやり遂げただけだ。本当にそれだけだ。」
「まあ、いいわ。余りしつこく聞くと困りそうだから。」


帰りの機内で、チェックインカウンターで渡された紙袋を開けてみた。『奥様に』と書かれたメモとビニール袋が入っていた。

「君へのお土産だ。」
香織が開けたビニール袋の中には3個の大小の箱があった。
「ティファニーだわ。ブレスレット、ネックレス、3連の指輪よ。欲しかったの。あれ、この3連指輪はダイヤモンドが付いてる。限定品と書いてある。あなた、ありがとう。高かったでしょう。ティファニーはハワイにはないはずよ。鑑定書に、ニューヨーク本店と書いてあるわ。」

「良かったな。」
「ニューヨークから取り寄せたの。」
「う、うん。」


F国に戻り、会社に出勤した。
ロイが帰っていた。

「調査はどうだった。」
「こちらの考えで行けそうです。それより、I国の援助機関から入札資料が届きました。E国です。指名です。」

「こちらに振ったのか。あの狸大使め。誰か空いているコンサルはいるか。」
「大丈夫です。借り上げできます。」

「資料は確保してある。実施計画を仕上げて、入札に挑むぞ。日本の商社限定で行く。」
「出来ますか。I国の援助で。」

「国交がないのに、調査団は出せない。I国が一民間企業に全てを任せることはしない。機構を間に挟む以外に方法がないだろう。何故僕なんだ。そうか、閣下に面識がないのか。社員で空いているのは。」

「カリナでしたら、少し空きがあります。」
「I国行きの手配をしてくれ。この仕様書によると、来週だ。」
「加賀さんは行かれないのですか。」

「I国には行かない。」
「先週、カワウィに行かれたのでは。」
「帰ったばかりで、無理だ。とにかく、行かない。調査費をたっぷり分捕って、後悔させてやる。」

「今度はI国相手に戦争ですか。」
「馬鹿なことを、勝てるはずがない。」
「本気のようですね。」
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登場人物紹介

加賀聡 機材設計コンサルタント。蒼コンサルティングの社員。

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