第17話 I国の介入

文字数 3,984文字

1月中旬、U銀からV国の大学建設改修計画の案件公示がなされ、入札に呼ばれた。加賀は、八女をプロマネしにして、提案書を提出した。

すると、数日後U銀の担当に呼ばれ、八女と一緒に出掛けた。合格通知にしては早すぎる。まだ、審査中のはずだ。

「加賀さん、異例ですが、I国から、特別依頼がありました。」
「何でしょう。」
「加賀さんへの指名依頼です。」
「私にでしょうか。どういうことですか。」
「詳細はわかりませんが、引き受けますか。」
「いいえ、お断りします。」

「V国の案件、I国側の理事が介入しています。要するにバーターを持ちかけてきています。受けてくれれば、V国の案件受注にも協力するとのことです。異例な事であり前例もありません。なりふりなど構っていられない何かがあるようです。」
「V国の案件が取れなくても止むを得ません。そんな不条理な取引には応じられません。」

「加賀さんは、やっぱり加賀さんですね。」
「ありがとうございます。」


数日後、在F国I国大使館の大使が面会を求めて電話して来た。

「要件は何でしょうか。」
「お会いしてから、お話ししたい。」
「大使という肩書ですので、断る事は出来ませんが、私の予想している案件の事であれば、お会いするわけにはいきません。」
「わかりました。予想されているように、E国の件です。」

「あの男はどうしようもありません。私はまだ命を捨てるわけにはいきません。」
「君はあの時、動じなかった。支援する。受けてくれませんか。君の他に、大統領と面識があり、度胸の据わった人物はいない。何より、大統領と繋がりがあるのは貴殿だけだ。」

「何故、U銀の理事を動かしたのです。私が一番嫌いなやり方です。」
「申し訳ない。我が国もそれだけ必死なのです。」
「では、V国の案件の受注が確定したらお会いします。失礼します。」

八女とロイを呼んだ。
「V国の案件は取れると思う。準備してくれ。社長にも連絡を頼む。」
「本当か。かなりの大型案件だぞ。」
「まず、間違いありません。」


V国の案件の受注が決まった後、加賀はI国大使館を訪れ、大使と面会した。

「申し訳なかった。この通りだ。」
頭を下げる大使に威厳はなかった。

「頭をお上げください。逮捕された上院の議長の息子の事ですね。」
「さすがだ。そこまでわかっていたとは。我が国はE国との国交がない。とっかかりがないのだ。今回はK国に頼むしかなかった。それに、犯罪者として収監されている。君にしか頼めない。」

「確か、麻薬所持で逮捕されたのでしたね。何故、E国へ。」

「女だ、I国で知り合った女がE国出身で里帰りについて行ったのだ。」
「若者の一時的な、いえ、40を超えていましたね。」
「本人は真剣だったのだろう。」

「幾ら出せますか。」
「指値をするのか。」
「違います。解放条件は金しかありません。だから、先に聞いておきたいのです。」

「50億までなら。」
「わかりました。」
「おー、行ってくれるのか。」
「行きますが、K国の協力は欠かせません。」
「わかった。連絡して依頼する。感謝する。我が国の援助にも参加できるように手配する。」

「最初の案件は取りたいものです。」
「わかった。確約する。」


八女とロイを呼んだ。

「私はK国に行くことになった。V国の案件を頼みたい。」
「抜けるのか。団員だけで20人を超える大型案件だぞ。自信がない。それに、メンバーの変更などU銀が認めない。」

「馬鹿なことを、八女さんは優秀です。僕は八女さんの後ろ姿を見ながら、ここまで来ました。私の尊敬する八女さんが出来ないはずはありません。ロイもいます。アルフォンソもカリナも参加します。
大船に乗ったつもりで大丈夫です。U銀から私の変更を承認する連絡がありました。心配ありません。」

「お前がそこまで言うなら、やってみる。」
「お願いします。ロイ、頼んだぞ。」
「加賀さん、くれぐれもお気をつけて。」
「ありがとう。」


加賀はK国に飛ぶと、空港にK国の援助機関の迎えが来ていた。

「厄介なことに巻き込まれたな。同情する。」
「次のミッションはいつですか。」
「3日後だ。K国の援助責任者として送る。加賀殿は世界から引っ張りだこだな。今回ばかりは厳しいだろうが、我々も全力で守る。」
「よろしくお願いします。」


E国の空港に到着して、K国大使館が手配した車でホテルに向かう。
ホテルに着くと、大統領が待っていた。

「良く、来たな。I国人の事だろう。連れて帰れ、お前は私の戦友だ。」
「一緒に戦っていませんが。」
「お主には敵わん。」

「男には好きな女がいたようですが。」
「女の方はそれほどでもない。」

「しかし、ここにいると、何度でも来る気がします。」
「それはそうだな。どうしたらいい。」

「女から、はっきりと伝えた方が。」
「そうしよう。」

「待って下さい。この国の中では、閣下に強制されたのではないかと疑うかもしれません。議員の甘えん坊です。都合のいいように解釈するでしょう。ドバイでどうでしょう。」

「そこまで考えていたのか。わかった。任せる。ところで、数日、この国を見て回らんか。お主の意見を聞きたい。」
「わかりました。お世話になります。」

「今夜は飲み明かそう。」
「はいっ。」

その夜は、2人で肩を組み、飲み明かした。
男が嬉しそうな顔をしているのを見ると、きっと孤独なのだろうと思った。

「閣下。」
「閣下はよせ。」
「カラと呼んでくれ。」
「カラ、50億使える。何をして欲しい。」
「50億?、I国か。任せる。この国を見て、決めてくれ。」
「カラ、いい奴なのに、どうしてこうなった。」

「きっと、儂の心が弱かったのだろう。」
「何かあれば、相談してくれ。しがないコンサルタントだが、相談は出来る。連絡してくれればすぐに駆け付ける。」

「加賀、お主はやっぱり、真の友人だ。」
「何とか紛争を収めて、国境線を何とかしないと。」
「彼奴らは強欲だ。」

「カラ、あんな荒地はくれてやれ。どうしようもない。ここには広い大地がある。それにお前を敬う国民がいる。他に何がいる。」
「あの場所を取られると、この首都まで一直線だ。何とか、山岳部までは押し返しておきたいだけで、土地が欲しいわけではないのだ。」
「なるほど、相手もそれが狙いで、引かないのか。暫くは我慢比べになるな。」

「戦力では圧倒的にこちらが不利だが、地理的に局地戦にならざるを得ないので、何とか対応できている。」
「先進国との国交を広げて、圧力をかける方法もある。一緒に考えよう。」
「頼りにしている。」


「明日は何処に連れて行ってくれる。」
「孤児院と身障者施設だ。」

「これからは職業訓練と起業だ。大学と職業訓練所に行きたい。」
「手配する。」


首都にある、職業訓練所に行った。
所長が出て来た。

「加賀さんではないですか。久しいです。調査が実らず、申し訳ありませんでした。」
「あの時の約束を守るためにやって来ました。」
「どういうことですか。」
「実施するのです。」

「しかし。」
「大統領の同意は得ています。」
「でも、大丈夫ですか。」

「機材を持って、また来ます。あれから時間も経ちました。現状を教えて下さい。」
「加賀さん。」
「私は後2日しか滞在しません。時間との戦いになりますよ。」
「大丈夫です。明日にはお持ちします。」

翌日、大学に向かった。

大学の入口にある受付に聞いた。
「アンスさんはいらっしゃいますか。」
「ワークショップにいます。」
「呼んで頂けますか。」
「どなたですか。予約は。」
「カラ大統領から連絡があったと思うのですが。」
「えっ。」

書類を確認すると、
「確かに。お待ちください。直ぐに呼んで来ます。」

アンスがやって来た。

「アンスさん、私を覚えていますか。」
「そう言えば、数年前に、大学の事を聞きに、熱波の中、汗をかきながら、歩いてやって来た日本人がいましたが。」

「そうです。それが私です。」
「そうでした。加賀さん・・でしたね。」
「まだ、機材の不足は深刻ですか。」

「機材と言えるような物は何もありません。」
「必要な機材を教えて下さい。私は、エンジェルホテルにいます。後2日滞在します。前回から随分時間が経っています。現状報告もお願いします。」

「しかし。」
「大丈夫です。大統領には話を通しておきます。」
「本当ですか。用意します。おい、皆、忙しくなるぞ。」

ホテルに届いた書類の束には驚いたが、相手のやる気を感じて、実現させねばと言う気持ちになる。その夜のうちに書類に目を通す。


加賀は空港にいた。
I国人の男性とE国人の女性を連れて、飛び立つ。
ドバイ空港の乗り継ぎロビーに着くとI国側の人間が数名待っていた。

「加賀さんですね。早かったですね。」
「ヤボ用があって遅れました。」
「早速、彼を連れて帰国します。」

「お待ちください。女性との関係をはっきりさせて貰います。」
女性の方を見ると、
「アリシアさん、彼とはどうするのですか。」
「単なる友達です。私は母国に帰りたいです。」
「アリシア、僕と一緒に来てくれ。」

「嫌よ。マリファナばかりに頼って。」
「もうやめる。」
「意思の弱いあなたがやめられるわけがないわ。もう会うこともないと思うけど。いつまでも親の脛(すね)をかじっているといいわ。」

女性は振り向きもせず、E国への搭乗口に向かった。

「アリシア、そんな。」
「あなたにあんな素敵な女性が靡(なび)くわけがないでしょう。自分の姿を見なさい。まるで、生活に疲れたスラムの男みたいです。」
「お前は何者だ。」

「あなたを救った救世主です。何なら、再び戻りますか。」
「いやだ。あそこは地獄だ。」
「次はありませんよ。着いた途端、地下牢です。」
「わ、わかった。もう帰る。二度と来ない。」


加賀は約束通り、50億の援助をE国に齎(もたら)した。
I国は調査団をE国に送る必要がある。だが、その前に、国交を回復しなければならない。
I国はどうするのか、眺めているしかない。
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登場人物紹介

加賀聡 機材設計コンサルタント。蒼コンサルティングの社員。

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