第4話 突然の復帰

文字数 2,720文字

帰国して、数日経って、自宅に帰ると、A商社の片桐から連絡が来た。

「近藤さんが検察に呼ばれたようです。余福さんも一緒です。」
「どうしたのですか。」
「ゼネコン間の談合を主導したとの疑惑です。」
「C国の教育訓練施設の案件ですか。」
「借款のようです。さらに、B建設側からEコンサルティングへの金の流れもあったとかで、収賄でも疑われています。」

「うちは大丈夫でしょうか。」
「大丈夫でしょう。政府側の人間がいるのですから。近く、3経営者は去って、前の経営者が戻るでしょう。」
「どうなっているのですか。」
「何か少額の脱税の件で摘発をしないかわりに、協力を要請されたらしいと知り合いの情報筋に聞きました。」

「片桐さんは情報通ですね。でも、何故僕に。」
「覚えていませんか。機材納入の時に欠品が見つかってどうしようもなかった時、加賀さんが、相手国側と談判して時間を作って頂き、大事にならなかったことを。」
「そんなこともありましたね。」


「商社にとっては致命的になるかもしれませんでした。忘れることはできません。」
「コンサルタントの役目は仕事を問題なく進めることです。」
「城下の担当者は違います。ある商社は直ぐに機構に連絡され、指名停止を課されました。加賀さんで幸運でした。それでは失礼します。」


加賀は暫く考え込んだ。
常務はどうやって情報を得たのだろう。
ゼネコンや商社からの密告、それに税務調査の情報が漏れれば可能性はあるだろうが。そんなことはあり得ない。
内部の密告から家宅捜索に入る線もある。
だが、考えてみてもわかるわけがない。


翌日、会社に行くと、3経営者はまだいた。
社長の三刀矢に呼ばれた。

「近藤氏が検察の調査に呼ばれた。機構側から連絡があり、C国での今回のプロジェクトは詳細設計以降、蒼が主契約となり、Eコンサルティングが下請けとなる。プロマネは加賀君、君に決まった。Eコンサルティングの人件費は7割5分で交渉してくれ。」

「建設プロジェクトです。難しいかと。」
「施工監理はEコンサルティングがやり、監督を君がやるのだ。C国に2年いることになる。プロマネに通常はこんな長期のアサインはあり得ないのだが、Eコンサルティングの信用は地に落ちたのだ。その人件費と経費も認められた。」
「C国にですか。」

「それと、早くなったが、我々3人の矢は会社を去る。これ以上、社員達に迷惑をかけたくないとの意見で一致した。旧経営陣が復帰する。そのつもりでいてくれ。」
「復帰ですか。一つだけ教えて下さい。社長、専務、常務は何処の所属ですか。」
「社長が公安、専務が内調、常務は公取だ。」
「公取もですか。驚きです。そこまで政府は深刻に。」

「先進国間の援助会議でやり玉に上がり、放っておくことが出来なかった。官邸からの指示だ。このことは君の胸の中だけに留めておいてくれ。」
「承知しています。」

「君の事は片桐から聞いていた。彼奴は大学の後輩だ。君は優秀且つ清廉だと言っていた。利用することになってしまったが、君には感謝している。」
「片桐さんが。」

「三ツ矢は機構に入る。何かあったら頼るといい。」
「常務が機構に、でしょうか。」
「調査は続く。我々は君を買っている。」

「密告しろということですか。」
「そうではない。君の助言が必要な時があるということだ。」
「そういうことにしておきます。」

加賀は、予想していた返事に納得は出来たが、どうやって、暴いたのかがわからず、余計不安が募る。
だが、我々社員の盾となってくれる旧経営陣が復帰する。何とかなるだろう。


数日後、前の経営陣が復帰した。
社長に呼ばれた。

「迷惑をかけたようだな。脱税と言っても、数万円でしかも記入ミスだったが、税務署に睨まれるよりましだと思って、引き受けた。何事もなく、終わってほっとした。これからも頼む。」
「プロマネをやれと言われましたが。」
「聞いている。機構側も収賄や談合と聞くと放っておけないのだろう。異例な好条件で君をプロマネにしたのには驚いたが、君の姿勢が評価されたと思って、引き受けてくれ。」

「しかし、長いですね。」
「三ツ矢氏に相談してみるといい。現地に長くいても意味がないのがわかれば、スポットで現地に入ることを了承してくれるのではないか。」
「話してみます。」


機構の理事となった三ツ矢を訪ねた。
「建設業務には知識のない君がいても、監督のしようがないわけか。だが、Eコンサルティングに対する監督業務は必要だ。奴らは信用ならない。若手を送ったらどうか。君は重要なポイントだけ現地入りすれば良い。そうすれば、人件費の減額も少なくて済む。担当には話しておこう。」
「そうして頂ければ、嬉しいです。」

「加賀君の娘はまだ、小さかったな。長く留守にするのはやっぱり可哀想か。」
「それもありますが、妻だけに負担をかけるのが。」
「そうか。君らしいな。ところで、次の案件はF国の大学機材だ。君がプロマネで関心表明を出してくれ。」

「三ツ矢さん、これは談合では。」
「談合ではない。必ず受注してくれ。君がプロマネなら、落ちることはない。城下は暫く機構の仕事には参加できない。Eコンサルティングの件の巻き添えだ。心配ない。」

「まさか監督業務の件は最初から変更する予定だったのですか。」
「2年間も君を手放すと思ったかね。甘いよ。」


F国の大学機材案件公示があり、蒼コンサルティングが関心表明を出した。1社だけだった。
普通なら有り得ないことだが、立て続けに出された機材案件に各社、対応できなかったというのが機構側の建前だったようだ。

提案書を提出してから数日後、F国案件受注の連絡が機構側からあった。異例の早さだった。
1社入札とは言え、あり得ないことである。
3人の矢が絡んでいるのは間違いない。
こちらに飛び火しないように祈るばかりだ。


機構側との契約交渉に臨む。

「加賀さん、いつも通り、的確な提案書でした。現地には理事の三ツ矢が同行します。特に懸念事項のある案件ではありませんので、いつも通りお願いします。」
「教育省への表敬は必要ありませんか。」
「F国の大学は自治組織なので、必要ないと考えています。」

「資料収集に協力を頼めればと思っています。F国の教育統計書は3年遅れで発行されます。近々の教育指標は生データのままです。初等及び中等教育局からの協力が欠かせません。」
「わかりました。現地事務所に面会予約を入れるよう頼んでおきます。」















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登場人物紹介

加賀聡 機材設計コンサルタント。蒼コンサルティングの社員。

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