第36話 完工

文字数 2,877文字

佐久間夫妻、山際、神山の4人は機材を持ち込むため、一旦、日本に帰った。

出発日が決まると、片桐と空港で待ち合わせることになった。
頑丈に梱包された荷物8パッケージを預けるためチェックインカウンターに並んだ。

「5名様で、手荷物は梱包品だけで、後は機内持ち込みですね。ビジネスクラスの重量制限は30㎏までですので、全員で150キロになります。エクセスはかかりません。」
「すみません。これも。」
「お酒ですね。20キロちょっとですね。大丈夫です。持ち込みは大丈夫ですか。」
「これが、許可書です。」

「何だ、超過料金はかからなかったのか。私物をもう少し持ってくればよかった。」
「片桐さん、必要な物があれば、ナイロビで買ってあげますよ。」
「本当に。」
「ええ、今回の案件は大黒字ですので、多少の事は加賀も大目に見るということです。」
「どのくらい、儲かったのですか。」
「秘密です。」

ナイロビで1泊して、翌日E国に入った。手荷物も何事もなく、ターンテーブルから流れて来た。

カートに乗せて、外に出ると、待っていた車3台に積み込み、現場に急いだ。

着いた当日から、梱包を解き、機材を設置していった。
数日で全て終わり、I国側と加賀に連絡を入れた。

職人も帰国し、入れ替わりに、加賀、I国大使、カールソンが入国してきた。大統領首席補佐官も明日、専用機でやって来て、完工引き渡し式が行われる。

I国側の中継器も到着し、設置されていた。


E国大統領も招いて、セレモニーが行われた。

「加賀殿、工期が14カ月に短縮されたし、付帯施設が増えて、大使館並だ。さすがだな。何を増やした。」

「将来の大使館業務が出来るよう、在ケニヤI国大使館を参考にしたようです。」
「大使館の図面は超極秘だぞ。」

「私達は何も。カールソンさんが現地業者に指示して作らせました。ここは貴国の土地ですから、貴国の職員が何をしても止められません。カールソンさんの協力で、資材をかなり安く調達できましたので、余剰資金をどうするか、彼に相談したところ、資材をさらに調達して、建設会社に指示していました。貴国の資金ですので、どう使われようが、私達が口を挟む問題ではありません。許可は申請したといっていましたが。届いていませんか。」

「うむ。忙しいので、全部の申請に目を通すわけではない。部下に確かめてみよう。」

首席補佐官はI国の部下と連絡を取っている。

「申請を許可したのか。私は了解した覚えがないが。何、他の大使館の増設許可と合わせて、一括許可を。わかった。」

「加賀殿、どうも、許可したようだ。言い過ぎた。それでも、まだ、敷地が余っているな。」


「書記官の許可を得られれば、腕相撲ホールを作りたいと、カールソンさんが。」
「しかし、材料費だけでは建物は建てられまい。」

「建設コストもカールソン値引きで安くなりましたので、値引き分を当てます。金額が大きいので、弊社の利益とするには憚(はばか)られます。」

「黙っていれば、儲かったのではないですか。それでも、十分、低コストだから、構いませんが。カールソンは何をしたのです。」


「全ての面で手伝ってくれました。この国におけるカールソン人気のお蔭です。帰ったら、彼に、日本酒を1ダース送ることにします。」

「役に立ったのなら、良かった。ところで、中継器も設置されたようですが。」

「カールソンがカラ、いえ大統領閣下との飲み比べに勝利して、輸入許可を勝ち取ったそうです。まだ、稼働させたことはありませんが、そちら側で試験はお願いします。こちらの手配した機材ではありませんので、稼働責任はありません。」

「承知している。しかし、こちらが当初予定していた通りの施設どころか、大使館並の施設になったことは目出度い。また、何かあったら、頼むかもしれません。」

「でも、コンサルタントと業者の両方をやるのは大変です。会社の体制を整えてやらないと、スタッフが苦労します。」

「初めての試みだったから、やむを得ないでしょう。試行錯誤ですよ。」
「その通りです。しかし、カールソンは凄いです。うちにこんな人材がいればと思うほどです。」

「やりません。うちにとっても、貴重な人材です。」
「離してはいけません。唯一無比です。」


セレモニー後、国務長官は専用機でケニヤに寄った。
大使館で首席補佐官と話す。

「カールソン、大活躍したようだな。」
「いえ、私のせいで、資金がかなり余ると聞いて、慌てました。この大使館にある施設を自分で描いて、自分で建物の寸法を測りました。誰も手伝ってくれないので、時間がかかりました。内部の事はわかりませんので、国立図書館の友人に頼んで、『大使館に必要な施設と機材のあらまし』という書物のコピーを送ってもらいました。ちゃんとできているのか不安です。」

「引き渡し検査に来た大使館建設の専門家に聞いたら、ナイロビの大使館より、使いやすさと配置の点で素晴らしいと評価していたぞ。」

「安心しました。2度とやりたくありません。ああ、建物の構造検査や施設基準の検査と登録は、建築担当のコンサルタントが無料でやってくれました。助かりました。お礼に、バーボン2本渡したら、喜んでくれました。」


首席補佐官は、地方の領事館建設の予算で、数倍もの規模の大使館を建ててしまった加賀の底力を覗いた気がした。
カールソンも加賀の掌で踊っていたのに過ぎないと確信している。加賀を手放すわけにはいかない。


食堂に加賀と片桐がいる。
「随分儲かったと聞きましたが。」
「ああ、建設コストが4割安になったし、工期が短くなったので、うちのスタッフのアサインもかなり縮まった。」

「55億の4割というと22億か。凄まじいですね。」
「それだけじゃない。うちの本来の利益が6億、コンサル費の節約が1億。7億ちょっとだ。実をいうと、建設費は25億で済んだ。実際に残ったのは30億だ。敷地もただだった」


「どうするんです、税金だけでも大変ですよ。」

「だから、ここでプロジェクトをやることにしました。30億です。資金はI国から振り込ませます。片桐さんに全部任せます。うちには今、人材の余裕はありません。何処に振り込めばいいか、決めて下さい。金額が金額ですから、会社しかないでしょうが。」

「本気ですか。」
「ええ、こちらはノーアイデアです。明日までに、カールソンに伝えなければなりません。よろしくお願いします。」

「ちょっと待って下さい。そんなこと、急に言われても。」
「片桐さん、振込先だけを決めて、それから考えればいいんです。」

「確かに、そういう考え方もありますね。会社にはどう説明すれば。」「片桐さんがプロジェクトの内容を考えて、I国から受注したことにすればいいと思いますが。」

「振り込みは期日指定にしています。今すぐ入金にしなくてもいいのでは。」

「わかった。肝を据えて考えよう。」
「お願いします。片桐さんに引き受けてもらえなかったらどうしようかと思っていました。」
「ということは。私に放り投げたのですか。」

「そろそろ行きましょう。カラとカールソンが待っています。」
「逃げるのですか。」


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登場人物紹介

加賀聡 機材設計コンサルタント。蒼コンサルティングの社員。

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