第40話 アリエンタデビュー前夜

文字数 1,610文字

アリエンタはR国への機中にいた。

初めてのビジネスクラスで、嬉しかった。
とても楽ちんだった。
食事も美味しいし、少しだけど、ワインも飲んだ。
5時間ぐらいのフライトで快適だった。

到着すると、涼子さんのご主人が、ドライバーにボードを持たせて、待っていてくれた。

「よく来たね。佐久間だ。行こう。ホテルじゃなく、共同アパートを借り上げている。1LDKだけど、狭くはない。食堂もある。月に3万円だけど、宿泊費の4、5日分で借りれるからいいと僕は思っている。ホテルが良ければ移るといい。」

「いいえ、同じところでお願いします。」

車を出した。

「カウンターパートには明日、会いに行こう。挨拶を済ませれば、後は自由に調査出来る。スタッフ達に、君が欲しい情報とかデータを伝えて集めることからだ。なければ自分で調査するしかない。必要なら現地の借り上げコンサルを付けるので言ってくれ。車は運転手付きで1台使える。ドライバーが気に入らなければ、変更できる。以上でいいかな。」
「御手配ありがとうございます。」

「素晴らしい提案書だったね。評価が高かった。カウンターパートも君との打ち合わせを待ち望んでいる。楽しく、調査できるといい。」


到着したアパートは静かな住宅街の一角にあり、個室が並んでいる。中は、新しくはないが、綺麗に清掃され居心地がよさそうだとアリエンタは思った。前の仕事の時は、一部屋に全員一緒に泊まった。それに比べれば天国だ。

食堂の場所を聞いて、中に入ると、10数人の男女が食事をしていた。佐久間が手を振ったので、同じテーブルに座った。

「皆、会社のコンサルタントだ。毎日顔を合わせるから、すぐに、馴染みなると思う。この2人は山際と神山だ。日本人だ。2人は日本から来て、1年位、帰っていない。あと何年帰れないのか、本人も知らない。」

「よろしく山際です。」
「神山です。」

「アリエンタです。」
「君は、評価分析だよね。」

「はい。」
「カリナさんと同じくらいの分析力があるんじゃないかな。会ったことはないけど、報告書を読んで、そう感じた。」
「カリナさんと比較されるだけでも、光栄です。」

「いや、カリナさんも読んで、絶賛していたと聞いた。そうだろ、佐久間。」
「ああ、加賀さんが読んで、カリナさんにも送ったそうだ。加賀さんが、新しい逸材が入ったと喜んでいたそうだ。」

「加賀さんですか。」
「加賀さんは、F国法人の社長だけど、K国法人の実質的経営者だ。君もいつか呼ばれるだろう。余り、優秀だと、こき使われるから気をつけた方がいい。俺達も、出張してから帰れなくなった。僕達の仲間が9人いたけど、皆同じだ。」

「殆ど出かけないから、お金は貯まる。酒代がかかるだけだ。日本酒を定期的に送ってくれるから、余り買うこともない。日本の家族は僕の給料で、いい生活をしている。でも、今、K国に来たいというので準備をしている。」

「この仕事は好きだ。いい仕事をすれば、反応がある。それに、色んな人に会える。色んな所に行ける。新しい発見もある。」

「君はこれから修士課程に進むそうだが、コンサルタントは肩書があると仕事がしやすい。博士号は取った方がいい。僕達もK国に落ち着いたら、修士課程を受講するつもりだ。」
「皆さんもですか。」

「中年男がと思ったか。でも、自分の将来の為だからな。頑張る。」
「いえ、一旦社会に出られて、地位も得られているのに凄いなと思います。会社の名簿を見ましたが、もう、取締役ですよね。」

「お蔭で高い給料は貰っているけど、その地位じゃない。学問的地位だ。やはり学歴は大きい。」
「なるほど、わかる気がします。」

「お会いできないですけど、皆さん優秀な方が多いのですね。」
「そうだな、だけど、調査はしつこさも必要だ。これでもかと調査する。そうしないと見誤る。アルフォンソとカリナもそのタイプだ。それに頭脳が加わるのだから、敵わない。」

「おい、話ばかりしてないで、飯を食おう。」


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登場人物紹介

加賀聡 機材設計コンサルタント。蒼コンサルティングの社員。

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