何もない(7)

文字数 513文字

駐車場には、何台もの警察車両が止まっていた。

その警察車両は、駐車場の白線を無視して、レストランを囲むように並んでいる。

ほんの僅かに流れるそよ風に、薄霧の水の粒が揺らめく。

私は、警察官に連行される。

警察車両の周りには大勢の警察官が居る。

その中に、見覚えのある人達が居た。

それは、老婆が、霧の中に悪魔がいると叫んだ、あの時、早々にレストランを出た若いカップルだった。

そのカップルは、私を見ている。

その表情は、悲しさと恐れが混ざっている。

私もカップルを見た。

カップルは、すかさず目を逸らす。

私は駐車場の崖側に止まっていた救急車に誘導される。

その時、崖の下に広がる町並みが見えた。

所々、雲のように霧が町並みを隠している。

しかし、霧の無い場所は、はっきりと見える。

悪魔が地ならしした様子は無い。

道路を行き交う車は忙しなく、人々は変わらない朝を迎えていた。

何の気持ちも変わらないのに、自然と、目に涙が滲む。

私は、誘われるまま、救急車に乗った。

軽快な鳩の鳴き声が聞こえる。

その鳴き声は軽快だった。

朝を迎えて、一日が始まる事を喜んでいるように聞こえる。

その鳩の鳴き声をぼうっと聞いていると、それを遮るように、救急隊員は、救急車のドアを閉めた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み