人とは。悪魔とは。(3)

文字数 535文字

「そうだ」

老婆は言う。

私の頭が、つい、安易な一言で、何もかも終わりにしようと考えてしまう。

生気を失った妻を見る。

死ぬ事が、家族離れ離れになる事ではない。

そうだ。もう、終わりにしよう。

私は、妻の手を握った。

妻の手先は、冷たい。

妻は虚ろな目で、私を見る。

妻と目を合わせて、意思疎通をした。

妻は、私に向かって、小さく頷いた。

その頷きに、私も応えた。

その時だった。

郷珠は、突然立ち上がった。

「私が生贄になりましょう」

郷珠の発言に、私達も老婆も言葉を失う。

「生贄は、誰でも良いのでしょう?」

「か、構わないが」

老婆は、動揺しながら答える。

「すみませんが、どこかに灯油があるか確認していただけませんか?」

郷珠は言う。

「灯油? 構いませんが」

私は答える。

「山小屋は、いざという時の為に燃料を備えているはずです」

郷珠の話を聞きながら、私は店内を探す。

見つからない。

お手洗いへ向かった。

お手洗いの清掃用具入れにも無い。

レストランの出入り口へ向かうも無い。

厨房へ向かった。

厨房にも無かった。

残されるは、厨房に備わっているシャッターの奥だ。

シャッターは完全に閉まり、向こう側がどのようになっているかわからない。

外に通じているかもしれないし、倉庫かもしれない。

開けてみない限りは、わからなかった。
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