夜の息づかい(20)

文字数 516文字

篠生は老婦の顔を何度も殴る。

妻は怖さで床に尻を付けたまま動かない。

その時、一瞬だけ、老婦の首を絞める力が緩んだ。

老婦はそれを見逃さなかった。

廊下を逃げる。

篠生は老婦を追う。

老婦は、ちらりと背後から追う篠生を見る。

老婦の足は、慌ててもつれる。

その拍子に、体勢を崩して、転倒した。

篠生は老婦に馬乗りになった。

再び殴る。

両手で、老婦の顔を何度も殴る。

「悪魔め! 死ね、死ね!」

老婦の顔は赤黒く腫れ上がり、瞼が腫れて、目が見えない。

口からは出血し、歯は何本も折れている。

私が止めに、篠生の肩へ手をかける。

しかし、その時には、老婦は抵抗は無く、息を引き取っていた。

「はは。やった。私がやった」

篠生は薄笑いを見せる。

篠生は妻を見る。

「見てください。私が悪魔を殺しました。奥さん、あなたを守ったんです」

篠生は立ち上がる。

両手の拳は、老婦の血が滲む。

「代弁者様、私が、悪魔を殺しました。私のギターを返してください」

老婆は、首を震わせながら、顔を左右に振った。

老婆は怯えた表情で、声が出せない。

「どうしてですか、代弁者様。私は、皆の為に、悪魔を殺したんです。お願いします」

篠生は、老婆の目の前で土下座をする。

食器の破片が、篠生の額に刺さり、血が滲む。
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