夜の息づかい(15)

文字数 936文字

見るに恐ろしい光景に息を呑んだ。

まるで劣悪な豚小屋のようだった。

床に足をつけられない子供は、子供の上に子供が乗っている。

数名は、子供達の下敷きになり、口から唾液を垂れ流して死んでいる。

子供達は皆、覗き込んでいる私に気が付かないのか、目線を向けない。

更に廊下の先を見た。

ずっと奥に在る牢屋から橙色の柔らかな明かりが漏れている。

私はその明かりへ誘われるように歩みを進めた。

その牢屋から何やら声が聞こえる事に聞く気が付いた。

近づくにつれて、その声が段々と鮮明になる。

「助けて、いや、お父さん!」

娘の声だ。

私は走った。

足で踏み込む度に、床の湿り気が、ぴちゃぴちゃと音を立てる。

漏れ入る明かりに影が映る。

子供がうずくまり、それを大人が鞭で打ち付けている。

その牢屋に着いた。

鉄格子に顔を覗き込む。

ランタンが一つ置かれているだけで、誰も居なかった。

「どうしたんだい」

老婆の声が聞こえて、咄嗟に声がした方向へ顔を向ける。

更に奥に続く廊下に老婆が居た。

老婆の前には、黒い大型犬が居る。

私は、ひぃっとして、一歩後ろへ下がる。

ぐるる。

犬は鋭い牙を剥き出しにして、私を睨む。

老婆はその犬を手懐けているようだ。

「お行き!」

老婆は犬に指示を出す。

その指示を待っていましたと言わんばかりに、犬が私に向かって駆け出した。

私は、走った。

シャッターの在る方向へ無我夢中で走った。

ちらりと背後を振り向くと、犬は追いかけてくる。

その距離はじわりじわりと縮まっていく。

私はシャッターまで辿り着いた。

シャッターに手をかけて、力一杯、下ろす。

一瞬の差で、何とか、シャッターを下ろす事に成功した。

どん。

犬がシャッターに追突する音が響く。

私は息を整える間もなく、店内へ行く。

その足取りは興奮のあまり、一歩一歩が跳ねる。

店内も相変わらず薄暗い。

二つのランタンの明かりが何とか周囲を照らしている。

店内には、皆が居た。

老婆も居る。

娘も居る。

娘の姿を見て、安堵するも束の間、異様な光景を目の当たりにした。

皆は、笑っていた。

口を大きく開けて、けたたましく笑っていた。

私の興奮は一気に冷やされた。

ぞぞっと、身の毛がよだつ。

皆は一つの方向へ顔を向けて笑っていた。

その方向には、テレビがある。

映らなかったテレビは、何やら映像を映している。
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